7話 作業
翌日。
独立混成27師団はキャンプを浦和まで後退させるために移動準備を始めた。
トラックはあるためすぐに終わりそうだが、人数が人数なので千葉を離れるのは1週間後になりそうだ。その為、後退作戦を援護する為第7師団と第1高射群の第304高射中隊が防空援護を担当することになった。
「今回我々の任務は近くに墜落した米軍機のパイロットを保護し、すぐに米軍の元へ返還する事。良いな!」
松本は71連隊の部下達を前にして説明を始める。
「我々71連隊は最前線防衛として配置された。この領域は米軍戦車部隊が進行してくるであろうルートとして非常に可能性の高いものとなっている。全面に施設大隊と協力して戦車を隠蔽、師団長の支持を待て。」
「おう!!」
隊員達は返事をするとそれぞれの戦車に乗り込んだ。この作戦に参加するのは71連隊の2個中隊で、松本ら連隊本部所属の10式戦車4両と2個中隊合計28両の90式戦車だ。
彼らは重苦しく、しかしとても心強いエンジン音を響かせると指定された地点へと動き始めた。松本の10式が先頭に立ち、数両後ろで施設大隊の隊員たちの車両やトラックが続く。
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「それにしても何故こんなに戦車が必要なんですかね?」
「俺に聞かれてもわからんな……旅団長の話では、ジャップのモンスタータンクが一瞬にして10両も撃破したらしい。」
「10両も!?」
第89戦車旅団に所属しているロバート大佐は指揮下の1個大隊(M4シャーマン86両、M26パーシング24両)を後ろに見て苦笑いする。
「だからって旅団長は2個大隊も出すんですか? たった1人の救助の為に?」
「それだけジャップのモンスタータンクが驚異的なんだろう。それに、今回は味方の砲兵も支援部隊として参加するらしいぞ?」
「そこまでやるんですか!?」
ロバートの部下のジョン中佐は驚きの色を隠せない。
「欧州戦線、アフリカ、太平洋と戦ってきたが、ティーガー以上の驚異的な戦車がいるとは俺も知らなかったからな……」
ロバートはそう言って90ミリの口径を誇る砲身を撫でる。
M26パーシングは米軍がドイツ軍のティーガーに対抗するため開発された重戦車で、50口径90ミリ1門、主砲前面装甲101.6ミリ、主砲側面76.2ミリ、車体前面101.6ミリ、側面76.2ミリとM4よりも強力となっている。
ロバートは出発の時刻になると乗り込み、ヘルメットをかぶると無線で車内のメンバーに声をかける。
「マケイン。腕はどうだ?」
「早くしないと鈍っちまいそうです。ジャップはまだですか?」
「心配するな、奴らは必ず来るぞ。」
マケインはアフリカから一緒に戦っている本車の砲手だ。彼の腕はアフリカの戦いで最早一流のものとなっており、アフリカだけでなく欧州戦線でも何度もティーガーを撃退している頼れる砲手だ。
「マック、エンジンは平気か?」
「ええ隊長。どんな道でも走りきってみせますよ。」
マックは欧州戦線から仲間入りし操縦手で、少し深めの川でも泥々の畑でも全て走りきってきた優秀なドライバーで、マケインとの連携プレーは素晴らしいものだ。
「ライヤー! ジャップの歩兵は任せるぞ!」
「サーッ! この機銃で薙ぎ払ってやりますよ!」
ライヤーはフィリピンから入った1番の新入りで、車体機関銃手を任せている。何度も日本兵の自爆攻撃を受けかけたが、彼の放つ弾丸で全て返り討ちにしてきた。
「ブラット、装填任せるぞ。」
「任してください隊長! 俺にかかれば速射砲にも負けませんよ!」
ブラットはマケイン同様アフリカからずっと戦い続けている装填手だ。車内のムードメーカーであり、笑いをもたらしてくれる。その面白さは砲弾の争点のように次々ともたらされるのだ。
「今回俺らはジャップのモンスタータンクを相手にする。ティーガーより苦戦しそうだが、ティーガーを倒した俺らならやれる! 行くぞ!」
「サーッ! イエッサー!!」
パーシングのエンジンがドルルン、と唸るとキャタピラが前に向けて回転を始めた。
「全車前進!!」
後続の戦車部隊もエンジンを高らかに唸らせ、味方の待つ墜落地点へと向かい始めた。
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71連隊では保護した米兵を連れて来ている。彼は先程から「なんなんだこの戦車は!」とか、「何故こんなにスピードが出せるんだ!?」とうるさいので、無理矢理トラックへと移した。
戦車に乗せていたのだがいざという時に大騒ぎされてはたまらない。電子機器もあるので、壊されたら致命的な損害になりかねない。
「もうすぐ隠蔽予定地点だ。全車予定地点についたら停車、隠蔽作業に入れ。」
松本は無線で全車に連絡を入れる。一番外側に展開する戦車は既に脇に入り始め、それぞれの担当の施設科隊員はその戦車についていく。
松本は道のど真ん中に穴を掘り、凄くわかりやすく、しかし旧軍の戦車と見間違えるように露出部分を少なくするつもりだ。
「急げ! 早くしないと米軍戦車が来ちまうぞ!!」
松本は隠蔽作業を手伝いながら急かす。掘削機は穴を次々に地面に開けていき、早いところは戦車が穴に入り周りを木や枝、草で偽装していく。
保護した米兵はその作業スピードの速さを見て唖然としている。
『失礼ですが貴方を味方のもとへ返還するにあたっていくつか条件があります。』
『条件?』
松本のアメリカ慣れしたような英語を聞いて驚きながらも米兵は聞き返す。
『我々はここ千葉から埼玉まで後退します。その間攻撃する事をやめていただくように交渉してもらいます。』
『攻撃をやめろだと? そんな無茶を聞くものか。我々は今日本本土で戦っているんだぞ? 見分けがつくわけないじゃないか。』
それは最もだ。
『おっしゃるとおりです。ですので、我々の車両の屋根に貴方方が識別つくように英文字を入れておきます。これでどうでしょうか?』
『少なくとも航空部隊からは識別つくだろうが……』
米兵が悩み始める。松本はなんとか上手く行くように祈りながら、作業の続きを始める。
fin