6話 それぞれの方針
松本率いる偵察隊はキャンプへと到着した。その時1人の隊員が銃撃を受けた事に騒然となり、全員が反撃だと喚き立てた。
「どうしますか……」
上野は秋沼がいない今、このような状況が起こってしまった事に不安を感じていた。なるべく米軍とは戦いたくない秋沼と、中立を保っている上野と2つに部隊が分裂する可能性があるからだ。
「全方位を警戒する事。取り敢えず今は待機だ。」
「はっ!」
上野は松本の的確の判断に感謝した。
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「なんだと!? 隊員が撃たれた!?」
無線に入った連絡を聞いて秋沼は201師団長の重信少将の前にも関わらず大声を出した。
「幸い腕でしたので松本連隊長の的確な判断により被害はありませんでした。代わりに米戦車10両以上撃破したとの事です。」
「10両!?」
秋沼達の会話を聞いて今度は重信が叫んだ。
「いや失礼。しかし10両とは……」
それもそうだろう。この時期の日本軍には有効な対戦車兵器が存在せず、もはや対抗策は対戦車地雷を抱えて下敷きになる方法しか無かったのだ。
それを秋沼達は被害もなしに10両も撃破した。驚かない訳がない。
「つまり我々は戦闘に巻き込まれたのか……」
「そういう事になります。」
秋沼はなるべく戦闘に巻き込まれない方針を考えていたが、向こうから手を出してきたのならばこちらも自衛行動をとらねばならない。だとしたら本格的な戦闘による人的被害は到底避けられないだろう。
といっても、我々から積極的に戦闘に参加するわけではない。第36軍司令部は浦和にあると聞く。そこまで後退し、なるべく戦闘しないで済むような方法を模索するしかないだろう。
「重信師団長。我々は浦和まで後退します。なので36軍司令部の方に連絡してもらってもよろしいですか?」
秋沼はそう要請したが、重信は重苦しい表情を見せた。
「実は、司令部の方では貴方方を36軍指揮下に置き、その戦力を持って米軍を撃退するため201師団によって足止めせよと命令が来ているんです。」
「は?」
「私も伝えようか悩んでいたのですが、更に秋沼殿の指揮下の部隊が戦闘に巻き込まれたと聞いて、更にどうするべきか悩んでしまいまして……」
つまり、近いうち我々は戦闘に巻き込まれるということだ。今回は自衛行動をとったわけだが、今後は積極的に戦闘に参加しなければその自衛行動さえも取れなくなってしまう。
「……我々は指揮下には入りません。ですが、我々は我々の戦いをさせていただきます。」
秋沼は敬礼すると部屋を出て行った。
その日の深夜、秋沼は上野や各連隊長を会議テントに呼び今後の方針について会議を始めた。
「まず松本。今回はよく隊員を守ってくれた。感謝する。」
松本は当然の事をしただけですと頭を掻きながら返事をする。
「さて、今後の事だが我々は自衛行動をとる事をやめ、自衛戦闘を行う。つまり我々は積極的に戦闘に加わるわけだ。」
連隊長らは緊張の面持ちで秋沼の話に耳を傾ける。
「よって、2300時から隊員達にアンケートをとる。自分達の為に戦線離脱をするか戦場に残るかで決めるように伝えてくれ。何もしていないのならいずれやられてしまうのは必然だ。」
「残った隊員達はどうするのですか?」
72戦車連隊長の大山が質問する。
「我々は翌日午前0時をもって部隊名を独立混成27師団と改名する。第2、第7師団を合併する形だ。師団長は協議の結果私が、副師団長は上野が担当する事となった。隊員達は我々独立混成第27師団の戦闘員となってもらう。」
会議場は少し騒がしくなった。
つまりこれから戦闘に出かけるという事になるのだ。何もしていなければやられるという事は松本の件で皆が意識し始めてきたことだが、やはり実感はわかないようだ。
すくなくとも何もせずに無駄死にするような事は今後ないという事だけは確証されたと言っていいだろう。
「細かい質疑応答はこの後行う。今夜はじっくり話しあおう……」
秋沼はどっかりと椅子に座ると連隊長らもそれにならった。この会議は日をまたいで午前3時まで続けられた。
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「ジャップの大型戦車?」
第89戦車旅団旅団長のサンファン少将は昼間に起こった未確認部隊との戦闘の報告を受けていた。
「えぇ。すくなくともシャーマンの2倍はありそうな車体と大口径砲を搭載していたとの事です。それと、海軍の偵察機が恐らく奴らのキャンプを発見したあと連絡が途絶えました。」
「ふむ。なら奴らを警戒……」
サンファンが言いかけようとしたのを参謀長が遮った。
「連絡が途絶えた後、その搭乗員から救難要請が入りました。その為、我々89旅団に海軍から救助要請が届いています。」
サンファンはふぅ、とため息をつきながら椅子から立ち上がった。
「つまり我々はその未確認部隊を警戒しながら救助を行う事になるのか……」
「そういう事になります。墜落地点は敵地なので大規模部隊の編成の許可を頂きたいのです。」
サンファンは少し悩んだが、勇敢な彼を見捨てるわけにもいかない。数分後、答えは出た。
「よし、2個大隊で向かい給え。シャーマンでは歯が立たないとの報告があっただろうから、パーシングも連れて行きたまえ。」
「サー。すぐに取り掛かります。」
サンファンは日本軍の新たな巨大戦車の登場に心をざわつかせていた。
fin
最後まで有難うございます、松ちゃんです。
今年もあと3日となりましたが、皆さん今年1年どうでしたか?
僕はなろうと出会えた事が一番の喜びだと改めて思います。こうして誰にも読まれずにただの趣味として書いてきた小説が自由に発表できる機会ができてとても嬉しい限りです。
俺と彼女らの戦闘記は元々ラインで書き始めた小説で、その後どうせならとなろうに投稿したのが始まりです。
今では色いらな人に読んで頂いているので、とても書きがいがあります。
今年もありがとうございます。来年もまたよろしくおねがいします。
良いお年を!