4話 威力偵察
1100時。
各連隊長からアンケート結果が知らされた。
「71戦車連隊は離脱希望者無し。戦車は人がいるのに抜けたら誰がやるのかと言っていますね。」
と松本。
「72と73も同じです。皆まだ楽観視している傾向もあるようですが、現状離脱者はいません。」
72連隊長の小山田と73連隊長の沼津が答える。
「こっちも誰もいませんね……本当に楽観視している傾向が見受けられます。」
第11普通科連隊の柳沢が皮肉まじりに伝える。
「第2師団はどうだ?」
秋沼は恐る恐る尋ねる。
「さっき集計しましたが、同じように離脱希望者は1人もいませんね。現状を理解出来ていないのがよくわかります……」
第2師団副師団長の角田は答える。
「どうする秋沼? 1回戦場を見させたほうがいいんじゃないか?」
「それはそれで構わないが、不必要に離脱希望者を作って我々はどうするんだ? 拳銃は1人1丁必ずあるが、弾には限界がある。持たせたとして、撃ち尽くしたらあとは好きにしろと言うのか?」
「それは……」
上野は言葉に詰まる。
「今は安全な場所に篭って、様子を見るしかなかろう……」
秋沼はそう指示するしか今はいい手段が無かった。
九十九里浜では続々と米軍か上陸しつつあった。日本軍が早期に後退しただけあって米軍の損害は少なく、後続の陸軍部隊も海岸に集結しつつあった。
陸軍は戦車を続々と上陸させ、今では戦車2個旅団、およそ800両の戦車が海岸を埋め尽くしている。更に装甲車やジープなど、それらを含めると2000両になるかもしれない。
第4戦車旅団所属の1個連隊(M4戦車250両)と2個大隊(6000人)は前線を上げるため、成田方面へと進軍を開始した。途中、数人の工兵らしき日本兵がいたが、車載機銃で射殺する。
「こちらスカイ中隊0-0。みんなついてきているか?」
「スカイ0-1。無事だ。戦いたくてウズウズしてるぜ!」
「スカイ0-2。0-1、どっちがジャップを殺ったか賭けようぜ」
「良いだろう!」
米兵は口々に雑談を交わしながら進撃していく。その時だった。
突然、先頭から200メートル中腹辺りで巨大な爆発が起こった。爆発は横50メートル、縦100メートルで複数起こり、真上を進撃していたM4は8両が大破、3両がキャタピラが外れたり炎上停止した。
「地雷だ!! 全車後退!! 後退!」
中隊長車の号令で全車が次々に停止、そして後退を始める。しかし、長い隊列だったため後退を始めるのはかなり遅く、先頭は(爆破から生き残った車両)数分間待つことになった。
「ちくしょう! こんな威力の高い地雷なんて聞いてないぞ!!」
歩兵は叫びながら近くの茂みへと隠れた。
彼らを襲った地雷は実は大量に残されていた50、30キロ爆弾である。
これの信管を電気信管に交換。近くの巧妙に作られた陣地でそれを作動させるのだ。ここには1個小隊(70名)ほどの歩兵が待ち伏せしている。
彼らは順番に仕掛けられた爆弾を作動させては後退するという行動を繰り返した。
今までにない戦略。実は全て眞田が考案したものだ。彼は理に適った作戦案を仕立てあげ、作戦部を唸らせてきたほどの秀才の持ち主だ。
彼の戦術は成功を収めており、誰もが信頼している人物なのだ。
この地雷により米軍は進行を一時停止。周辺一帯を激しい空爆で耕した。
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「威力偵察?」
秋沼は耳を疑った。
松本の話しによると、連隊の隊員から威力偵察に行かせてくれという話が出ているらしい。
「あいつら、結構危機感を感じやすいメンバーでしてね、自分の目で確実に危険が迫っていることを確認したいと言っているんですよ。」
「それはそうだが、もし接触したらどうするつもりだ?」
上野が尋ねる。
「最悪戦闘になるでしょう。それでも構わないと言っていますね。」
「それは師団として困るのだよ。師団はまだ状況を整理しているようでまだ落ち着いていない。それでも行くなら連隊本部も行け。」
「10を連れて行くということですか……?」
松本は静かに驚く。
最近採用され調達が始まった10式戦車は第7師団に優先して配備されている新型車両だ。90式戦車と比べて6トン軽い44トンの車両に同口径の120ミリ滑腔砲、90式よりも一回り小さな車体で時速70キロを誇る。
主砲砲身も国産で、ドイツのラインメタル社製のライセンス品よりも高威力となっており、砲弾は90式と共有出来る。
車体前面、砲塔前面は複合装甲、側面は増加装甲で固めており、より強力なものとなっている。
そして、特筆すべきはC4Iの導入であろう。
C4IとはCommand control communications computers and intelligenceの略語で、FCS(射撃管制システム)と情報をリンクし、近くの10式と共有できる事が可能なのだ。
センサーで敵種を識別、情報を僚車とリンクしてそれぞれの目標を設定し照準、射撃することが出来る。優れ物だ。
これにより複数の10式による統制射撃が可能で、オーバーキル等による砲弾の消費を抑えることが出来るのだ。
「確かに10式を出せば偵察は楽になるが……」
上野は納得している。
「上野。お前のところには何両あるんだ?」
「連隊本部に2個小隊の8両だ。お前のところもそうだろ?」
10式は連隊本部に2個小隊ずつ配備されている。第2師団の1個連隊と第7師団の3個連隊で合計32両配備されているのだ。
「わかった。71戦団から2両、それと偵察隊の74式4両とそっちの普通科隊員から何人か出してくれ。」
秋沼は上野に隊員の抽出を頼むと上野は無言で頷き、第2師団本部テントへと向かっていった。
「松本。」
テントを出ようとしていた松本を呼び止める。
「はい?」
「偵察隊隊長に任命する。基本的には偵察行動のみだが、接敵した場合お前の判断に任せる。」
「……わかりました。」
松本は軽く敬礼するとテントを出て行った。
1200時。
指揮所テント前に隊員60名、10式2両、74式4両の偵察部隊が集合した。
「秋沼だ。これから君達は偵察に向かうが、決して無理はしないでほしい。時代が違うとはいえ相手は想像を絶する物量で押し寄せてきている。交戦許可は我々は出さない。出すのは偵察隊隊長に任命した松本1佐がだす。つまり現地判断だ。対空援護は出来ない、なるべく交戦は避けてくれ。」
秋沼が挨拶すると全員が直立不動で敬礼する。
「総員乗車! 進軍開始!!」
松本の号令で、戦車のエンジンがごうと鳴り出した。
fin
最後まで読んで頂き有難うございます。松ちゃんです。
相変わらず更新が遅くてほんとにすみません。なるべく早くするようにこころがけます。
何分資料が(特にダウンフォール・コロネット作戦)あまり無いものですから、時間がかかってしまうんですよ。
なんとか頑張ります!