1話 大雨
2015年3月1日
1030時
北海道 火力演習場
「大規模な不安定低気圧??」
演習を始めて1時間がたった秋沼の元に報告が届いた。
「はい。気象情報では晴れなんですが、何故かこの演習場を覆うように低気圧が発生しておりまして、非常に勢力の強いものになると思われます。おそらく台風レベルかと……」
「なんで北海道でそんなものが……」
せっかくの合同訓練が天気で台無しになるとは思わなかった。しかし、訓練で事故死者等の被害を出すよりはなるべく早めに中止して、別の日に行う事も必要だ。
「取り敢えずは続行だ。もし酷くなるようだったら即時中止。全部隊を開始前の集結体形に戻せ。」
「はっ。」
報告員は持ち場へと戻る。
確かに空を見るとさっきまでカンカン晴れだったのがいつの間にか暗い灰色の雲で覆われている。
「こりゃぁ、降るわな……」
少し悪態をつくように呟いた。
1330時。
やはり大規模な不安定低気圧は予想通りの雨を降らせた。
雨粒は隊員は勿論車両やヘリ、本部テントを弾幕のように叩きつけ、土を殆ど泥に変えた。
「降られたかー」
上野は笑いながら帽子をとる。
「だな。これは別の日にやるしかないな。」
「この天気じゃあ、しばらくは降り続くかもよ?」
「それは困ったなぁ……」
2人が笑いながら話しているその時だった。
「ほ、報告します!!」
さっきの報告員が大慌てで駆け込んできた。
「どうした?」
「レーダー等の電子装備がノイズを出して機能喪失しています!! 隊員からは照準補助器も何も写らないと言っています!!」
「ノイズ?? なんでそんなものが?」
「EMP攻撃ではないんやろ? 一時的な電波障害かもしれないぞ。こんな天気だし。」
「取り敢えず様子を見よう。もし何も変わらなかったら総監部に連絡する。」
秋沼は報告員を落ち着かせてから元の部署へと戻らせた。
1900時。
先ほどの大雨は勢力を全く弱めず、電波障害も一向に回復しなかった。
「無線は?」
「ダメです。何も繋がりません。」
しかも最悪な事に無線までもが使用不能になってしまった。どの部署も伝令を出して連絡をしており、若干の混乱が生まれつつある。
「しばらく無理そうだな……」
「なんだ秋沼。天気如きに鬱になってるのか?」
「いつも上機嫌なお前に言われたくないな。」
上野と軽口を言い合う。気分が優れない時はこうやって声をかけてくれるのでとても助かっている。
「まぁ、気長にやろうや。最悪今夜はここでお泊りだな。」
「ははっ。そうだな。」
秋沼は上野と笑いあった。
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1946年3月1日
0930時
千葉県 九十九里浜
「どういう事なんだ?」
米陸軍上陸部隊総司令官のダグラス・マッカーサーは疑疑問に思う。
「どうやら日本上空に大規模な低気圧が発生しているようです。丁度上陸を行う九十九里浜を含めて千葉県全体にかぶさっています。波も高く、上陸用舟艇が使えません。」
「なら戦闘機はどうだ? ハルゼーは出しているか?」
「機動部隊も手が出せない状況のようです。航空機は天候に左右されやすいので……」
「それじゃあ、貴重な時間が1日奴らの手にわたってしまうじゃないか。なんとしても作戦を決行しないと面倒だぞ。」
「ジャップはともかく、天気が相手ではどうしようもないです。1日延期を具申します。」
第6軍司令官、ウォルター・クルーガー大将はマッカーサーに意見具申する。
「ワット? 何を言っているんだクルーガー。Xデーは今日なんだぞ?」
「こんな天気では上陸する前に兵士が溺死します。なんとかできませんか?」
「……オーケーだ、クルーガー将軍。明日もし回復しなくても強行上陸を行うぞ。今日は延期する。全軍に伝えろ!」
マッカーサーは少し荒立ちげに声を荒らげる。
コロネット作戦はオリンピック作戦を切り上げて行われる。オリンピック作戦は九州に上陸して南部を制圧後滑走路を各地に建設して日本を爆撃する基地にする計画だった。
しかしソ連の介入が十分考えられるようになり、オリンピック作戦を中止。そのまま首都を直接攻撃するコロネット作戦を決行したのだ。
上陸するのはクルーガーの第6軍とロバート・アイケルバーガーの第8軍である。第6軍は3個海兵師団と13個歩兵師団から構成されており、合計で33万9千人が上陸するというノルマンディーを超える大作戦となった。
そこに更にアイケルバーガーの第8軍が加わるため、最終的には上陸部隊だけで70万人になるだろう。
支援兵力として、チェスター・ニミッツの下にハルゼーの第3艦隊とスプルーアンスの第5艦隊が与られた。第3艦隊は17隻の空母と8隻の高速戦艦による機動部隊で、第5艦隊は上陸支援艦隊だ。兵力は空母10隻と護衛空母16隻。
投入される航空機は戦闘機だけで2000機近くが投入可能である。
他に護衛艦艇や輸送船などで海上はうめつくされており、推定3000隻もの大艦隊がこの千葉県沖に集結しているのだ。
マッカーサーは負けるはずが無いと、鼻高らかに構えながら、明日こそジャップ共を叩き潰してやると執念を燃やしていた。
fin