一人ぼっちの少女
ナナセ、と名乗る少女は、俺を見て微笑んだ。
「それで、お兄ちゃんはなんて名前?」
俺は、名乗るのをためらった。
とりあえず、苗字だけを言ってみる。
「…池端だけど」
「苗字じゃなくて、名前は?」
「…亮平」
俺はぼそっと言った。
ナナセの様子を伺うと、彼女はさっきと同じように笑っている。
「そっかあ、よろしくね、亮平君!」
「あぁ…はぁ」
俺は曖昧な返事しか出来なかった。
(やっぱり…だよな)
「お前、家出したんじゃないのか? 両親はどこだよ、まさか道に迷ったワケじゃないだろうな?」
俺が聞くと、ナナセは首をぶんぶん横に振った。
「違うよ、迷子なんかじゃない。わたし、一人で来たの。ずっと一人でいるもん。列車に乗るのも、わたし一人だよ」
ナナセの大きな目が俺を捉える。
俺は真っ直ぐに目を見れず、うつむいて…。
「はぁっ?」
気づけば、俺の手にはナナセと同じ、金色の切符が握られている。
(うぉ? 俺、いつこんな切符買ったんだ? いや、買ってない! っていうかさっきまで、持ってなかったぞ!?)
「なぁんだ、お兄ちゃんもわたしと同じ列車に乗るんじゃない。よかった、一人じゃ心細かったんだよね」
ナナセが嬉しそうに言うので、「違う、俺は…」と言いかけたけど、途中で考えを変えた。
(やっぱ、こんな小さい子一人で行かせるのもな…。本当に一人で行くんだったら、何かあったときに責任を問われるのは…俺? そうなったら面倒だな)
そのとき、線路の先から明るい光がこぼれてきた。
その光は徐々に近くなり、電車のライトだということがわかる。
「あれだよあれ!」
ナナセが嬉しそうに言う。俺も、目を見開いたままその電車が来るのを見た。
電車は、銀色のボディにキラキラした模様が入った、まるで銀河のような外装だった。
『銀河を本当に走れたら、どんなにきれいなんだろうね…』
幼い頃に言っていたことを思い出し、俺は頭が痛くなった。
やっぱり見たことのない電車だ。俺とナナセが持っている切符の電車らしいが…。
「ほら、行こう!」
電車は、俺たちの前で停まった。ナナセがそう言って、おれに手を差し出す。
(このまま駅に残っても、どうせすることはないんだ。なら…いいじゃないか)
不思議なことばかりだ。
俺はためらったが、この際もうどうにでもなれという気持ちで、ナナセの小さな手を握った。
手を握るなんて…久しぶりだ。
こうして…不良と小さな女の子という変な組み合わせの、奇妙な旅が始まったのだった。