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星空の記憶  作者:
2/3

駅での出会い


「っつ~…」

身体の節々が、痛みで悲鳴を上げる。

(そろそろ限界か…?)

こんなに弱ってるのは久しぶりだ。きっとさっきまでは、アドレナリンで元気な気がしていたのかもしれない。

行くあてがないので、歩き回るしかない。

「くそっ…疲れたんだよぉ」

思わずつぶやいたとき、俺の目にほのかな明かりが見えた。目を凝らすと、そこにあったのは古びた駅のホームだった。

時間はしっかりとは確認していないが、きっと終電は終わっている。そのせいか、駅は薄暗くて人ひとりいない。

(好都合だな…ここで今日は寝るか)

俺は身体を半ば引きずるようにして歩き出した。

なんとかたどり着くと、小さなベンチにどさっと腰掛ける。

座るととたんに眠気が襲ってきて、俺は気づけば目を閉じていた。



『…ねぇ、…くん』

『…けて』

『叶えたい願いはあるよ』



「ねぇ」

突如、ベンチにだらしなく座っていた俺の頭上から、可愛らしい声が降ってきたのはそのときだった。

「お兄ちゃんもこの列車に乗るの?」

(…んー、何なんだよ)

閉じていた目を開けて、睨みつけるようにその声の主を見上げた。


「…っえ」


そこにいたのは一人の小さな女の子だ。

白いワンピースに茶色い小さなポシェット、そして腰の辺りまで伸びた長い黒髪。大きな目をキラキラ輝かせて、俺を見ている。

俺は、言葉を無くして目を見開いた。

「おーい」

聞こえないの?という風に女の子が目を細めるので、俺はハッとした。

「…俺に話しかけてんの?」

「当たり前でしょ? 他に誰もいないんだから」

女の子の年齢は…10歳にも満たないだろう。9歳くらいだろうか。俺は、あたりを見回した。確かに、女の子の他には俺しかいない。

そりゃ、そうだ。ここは終電も終わった駅のホームなのだから。

「お前、さ…」

俺が言いかけるよりも前に、女の子は口を開いていた。

「で、さっきの質問なんだけど、ここの駅にいるってことはお兄ちゃんも、わたしと同じ電車に乗るってこと?」

俺は慌てて首を振った。

「いや、列車に乗るわけじゃなくて、ただベンチで寝てただけで…」

よくこの女の子は俺に話しかけたと思う。

傷だらけで、どう見てもガラの悪い部類に入ると自覚しているが…。女の子はちっとも怖がっていない。

(わかってるのか…?)

ちらりと女の子の目を見たが、気にしている様子はない。

「そうなの? じゃあこの列車に乗るのはわたし一人かな…」

見れば、女の子の手には、金色の切符があった。

電車のための切符なのはわかるが、初めて見るタイプだ。というか、この駅で売っている切符とは全然違う。

(そうじゃん。ここ、終電終わってるし)

「なぁ、駅を間違えてんじゃねえの? ここ、終電終わったから朝まで電車は来ないぞ」

俺が言うと、女の子は首を横に振った。

「ううん、絶対ここなの。わたしにはわかるもん」

わかるっていっても…。俺は、女の子の切符を見た。確かにここの駅を通るようだ。

(おかしいな…。こんな路線の電車、見たことがない)

だがすでに、おかしいことだらけだ。

こんな小さな女の子が、遅い時間に一人でどこへ行くつもりなのだろう。

この女の子は、一体何者なのだろうか…。


「あっ、まだ自己紹介してなかったよね。わたしはナナセ! よろしくね、お兄ちゃん」

女の子が、振り向いて微笑んだ。キラキラと光っているような笑顔だ。

(ナナセ…)

俺は、曖昧に笑う。

「よろしく…ナナセ」

変な表情になっていないか、気になった。

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