駅での出会い
「っつ~…」
身体の節々が、痛みで悲鳴を上げる。
(そろそろ限界か…?)
こんなに弱ってるのは久しぶりだ。きっとさっきまでは、アドレナリンで元気な気がしていたのかもしれない。
行くあてがないので、歩き回るしかない。
「くそっ…疲れたんだよぉ」
思わずつぶやいたとき、俺の目にほのかな明かりが見えた。目を凝らすと、そこにあったのは古びた駅のホームだった。
時間はしっかりとは確認していないが、きっと終電は終わっている。そのせいか、駅は薄暗くて人ひとりいない。
(好都合だな…ここで今日は寝るか)
俺は身体を半ば引きずるようにして歩き出した。
なんとかたどり着くと、小さなベンチにどさっと腰掛ける。
座るととたんに眠気が襲ってきて、俺は気づけば目を閉じていた。
『…ねぇ、…くん』
『…けて』
『叶えたい願いはあるよ』
「ねぇ」
突如、ベンチにだらしなく座っていた俺の頭上から、可愛らしい声が降ってきたのはそのときだった。
「お兄ちゃんもこの列車に乗るの?」
(…んー、何なんだよ)
閉じていた目を開けて、睨みつけるようにその声の主を見上げた。
「…っえ」
そこにいたのは一人の小さな女の子だ。
白いワンピースに茶色い小さなポシェット、そして腰の辺りまで伸びた長い黒髪。大きな目をキラキラ輝かせて、俺を見ている。
俺は、言葉を無くして目を見開いた。
「おーい」
聞こえないの?という風に女の子が目を細めるので、俺はハッとした。
「…俺に話しかけてんの?」
「当たり前でしょ? 他に誰もいないんだから」
女の子の年齢は…10歳にも満たないだろう。9歳くらいだろうか。俺は、あたりを見回した。確かに、女の子の他には俺しかいない。
そりゃ、そうだ。ここは終電も終わった駅のホームなのだから。
「お前、さ…」
俺が言いかけるよりも前に、女の子は口を開いていた。
「で、さっきの質問なんだけど、ここの駅にいるってことはお兄ちゃんも、わたしと同じ電車に乗るってこと?」
俺は慌てて首を振った。
「いや、列車に乗るわけじゃなくて、ただベンチで寝てただけで…」
よくこの女の子は俺に話しかけたと思う。
傷だらけで、どう見てもガラの悪い部類に入ると自覚しているが…。女の子はちっとも怖がっていない。
(わかってるのか…?)
ちらりと女の子の目を見たが、気にしている様子はない。
「そうなの? じゃあこの列車に乗るのはわたし一人かな…」
見れば、女の子の手には、金色の切符があった。
電車のための切符なのはわかるが、初めて見るタイプだ。というか、この駅で売っている切符とは全然違う。
(そうじゃん。ここ、終電終わってるし)
「なぁ、駅を間違えてんじゃねえの? ここ、終電終わったから朝まで電車は来ないぞ」
俺が言うと、女の子は首を横に振った。
「ううん、絶対ここなの。わたしにはわかるもん」
わかるっていっても…。俺は、女の子の切符を見た。確かにここの駅を通るようだ。
(おかしいな…。こんな路線の電車、見たことがない)
だがすでに、おかしいことだらけだ。
こんな小さな女の子が、遅い時間に一人でどこへ行くつもりなのだろう。
この女の子は、一体何者なのだろうか…。
「あっ、まだ自己紹介してなかったよね。わたしはナナセ! よろしくね、お兄ちゃん」
女の子が、振り向いて微笑んだ。キラキラと光っているような笑顔だ。
(ナナセ…)
俺は、曖昧に笑う。
「よろしく…ナナセ」
変な表情になっていないか、気になった。