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解放と旅立ち

「がぁぁぁぁぁぁああ!!」


俺はリヴィーリアの〈命令〉のせいで、勝手に動き出そうとする体を抑えつけていた。


「せ、誠也…?」


「ぐぅぅ……は、早く…逃げろ…」


俺は唇を血が出る程、噛みしめながら声を絞り出す。

だが、クラスメイト達は俺の体からでるオーラと魔力に当てられて、腰を抜かしていた。


その時、甲冑を来た人達が広場に入ってきた。


「こ、これは?!一体どうなっている!」


どうやらアガルタ王国の騎士団のようだ。勇者達と一緒にここに乗り込んできたのだろう。

俺は溢れ出す破壊衝動を必死に抑えつけ、騎士団の連中に懇願する。


「早く…そいつらを連れて逃げろ…」


「か、彼は一体…?」


「ロハン団長!やつは魔族です!」

「ここで殺しましょう!あれは危険です!」


そう言ってクラスメイト達の輪から出てきたのは、浅岡達のグループだった。

彼らが、俺に向かって走り出すと、騎士団の連中も困惑しながらも武器を構え、突撃してくる。



(あぁ……そうか……おまえらはまた…)





―――俺を裏切るのか――





「ダメェェェェ!!!」

咲月が止めるために叫ぶ。




ドカァァァァァン!!!



が、時すでに遅し。



俺は抑えていた魔力を解放する。

髪の色が灰色に変わっていき、赤いオーラはどす黒くなっていく。

そして、向かってくる奴等に対し、腕を振り下ろした。



その瞬間、一直線上にあったもの全ては、吹き飛んだ。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


一方、魔族側では、その光景に戦慄し、

各々感嘆の声を上げていた。


「す、すげぇ」

「人間を追い詰めると、ああなるのか…」

「魔族より醜悪ではないか」

「人間は自身の保身のためなら、平気で同種を売るからな」



「うふふ、いいわぁ。ここまで強くなってるとは思わなかったわ。お手柄ねハインド」


「恐縮です。

しかし、私もこの状況は少々予想外です」


「あら?彼がああなっているのは、あなたの改造のせいではないの?」


「確かにそれもあるでしょうが、それだけでは説明がつかない力が出ています」


ハインドの目には、戦慄と、微かな怯えの色が見えた。


「……仮に、そうだったとして、原因は何かしら?」


「考えられるとすれば、彼自身のスキルが、不安定になった精神によって暴走状態になったか、もしくは、私が彼の体に入れたものとは違うものが、元々彼の中に別の何かが()()()()()()のか――」


彼が最後まで言い終わる前に、魔族側に光の槍が降り注いだ。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


(……殺し損ねたか…)


俺は魔族達が油断している隙に全滅させようと不意討ちをしてみたが、流石は魔王、突然のことにも関わらず、障壁を張り、攻撃に耐えていた。

しかし、完全に防ぐことはできなかったらしく、リヴィーリア以外は全滅、リヴィーリア自身も浅くない傷を負っていた。


「どういうことかしら?私達を裏切るの?」


「裏切るもなにも、元から仲間になったつもりはない」


俺は抑揚のない声で淡々と告げる。


「生意気ね。あなたは私の奴隷だってことを忘れてないかしら?

――戒めろ――」


リヴィーリアが呪文を唱えると、俺の胸に赤い紋様が浮かび上がり、足元には魔法陣が現れた。そこから鎖が伸びて俺の体を拘束する。


「少し調子に乗りすぎたようね。だけど、いくら今のあなたでも、その鎖は外せな「鬱陶しい」――えっ?」


俺は体に巻き付いている鎖を強引に引きちぎる。


「そ、そんな?!私の隷属魔法が、そんな簡単に……」


俺は呆然としているリヴィーリアに一瞬で肉薄し、貫手で彼女の心臓を貫く。


「……呆気なかったな」


俺は彼女の体から手を抜き、その辺に体を放り捨てた。


(しかし、どうしようか。解放さるたはいいが、行く宛もなく、やることもなくなったな。そういえば、この世界のどこかに誰かが封印されてるんだっけ?やることもないし、そいつを探してみるか)


やることが決まったので、早速旅立とうとすると、背後から声をかけられた


「誠也……」


振り向くと、そこには幼馴染み達が立っていた。後ろの方にもクラスメイト達が体を休めていて、しぶとくも、浅岡達が生きていた。全員、さっきの攻撃の余波を喰らったようで、みんな一様にボロボロだった。


「おまえらか……」


俺がどう話しかけたらいいか困っていると、


「誠也ぁ!!」


突然、咲月がこちらに駆け寄り、抱きついてきた。


「生きてた……ちゃんと……」


「あぁ……とりあえず生きてはいる」


「よかった……よかったよぉ……」


咲月は俺の声を、存在を身近で感じて安堵したのか、号泣し始めた。


「うわぁぁぁぁん!!!」


それを引き剥がすことはしちゃいけない気がして、しばらく俺は咲月が、泣き止むまで待つことにした。







「ちょっとは落ち着いたか」


「ぐすっ……うん……」


目元が赤く腫れた咲月は、5分間ぐらい泣き続けて、俺の体をやっと離れてくれた。


「そうか……じゃあな……」


「……えっ?誠也…?じゃあなって…?」


「言葉通りの意味だが?」


「誠也!もう魔族はいなくなったんだから、一緒に王都に帰ろう!」


優斗が俺の手を掴み、そう促してくる。


「??なんで俺が一緒に帰らなくちゃいけないんだ?」


「な、なんでって……」


「……誠也…もしかして、怒ってるの?」


俺は咲月が言ってる意味が解らず、聞き返してしまう。


「怒る?俺が?なんで?」


「そ、それは……」


咲月は返答に困ったようで、代わりに優斗が答える。


「俺たちが……おまえを魔族に売り渡したから……」


「あぁ……そのことか…別に何とも思ってない」


「それじゃあ!!」


「許してくれるの?!」


二人の表情が喜色に染まる。

しかし、俺の目を見て、違和感を感じたらしい。


「いや、許す許さないとかじゃなくて、

本当に何とも思ってない」


「そ、それってどういう……」


「俺は怒りとか憎しみとか、そういうものを感じる心が壊れたらしい」


その言葉に二人が絶句する。


「本当に……?」


「あぁ。現に今も、おまえらに会った感動も、あいつらを殺した解放感も、裏切られた怒りも、何も感じない」


「そ、そんな……」


「で、でも、それなら一緒に帰っても…」


「生憎、俺にはやることがある。

だからおまえらとは一緒に行けない」


そして、二人が黙ってしまったので、俺は踵を返し、歩き出そうとするが、

手を掴まれ、それを阻まれる。


「全部……無くなっちまったのか…?」


手を掴んできたのは優斗だった。

唇を歪めて、今にも泣きそうな顔で聞いてくる。


「あぁ…」


「俺のことも?」


「……あぁ」


「おまえの家族のことも?元の世界のことも?」


「そうだ…」


堪らず、優斗はポロポロと涙を流す。


「おまえが幼稚園の頃から好きだった咲月のこともか!!」


「…………」


何故か、それは答えられなかった。

胸に何か刺さるような感覚がして、声を出すことができなかった。

だが、それも一瞬だけだった。


「あぁそうだ…」


咲月は膝から崩れ落ち、優斗は唇から血が出る程、悔しそうに泣いていた。


「本当に…もう元には戻らないのか…?」


「…さぁな。俺にはわからない」


そう言い残し、俺は今度こそ旅に出るため、歩き出した。





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


(ちくしょう!)


俺は親友の姿が見えなくなった所で、我に還った。


(俺は……また何もできなかった…)


自分の力不足に腹が立つ。

幼馴染み一人救えない自分がムカついて仕方がなかった。


「誠也……」


もう一人の幼馴染みの目から光が消えていく。誠也の心が壊れてしまったことが余程ショックだったのだろう。


「しっかりしろ咲月!」


「優斗……もう無理だよ…誠也はもう…」


「諦めるな!まだ可能性は残ってる!」


「……可能性…?」


咲月の目に生気が少し戻る。


「そうだ!あいつはまだ完全に心が壊れたわけじゃない。最後、おまえの名前を出した時、一瞬だけだが、誠也の顔が哀しそうに歪んだ。

あいつはまだおまえのことを想う気持ちを無くしてないはずだ!」


「…本当に?」


「確証はない…でも、諦めるにはまだ早すぎる!」


俺がそう言うと、咲月の目に生気が完全に戻る。


「そう…か…そうだよね。無くしたんだったら、もう一度作り直せばいいんだしね」


「そうだ!あいつの心を取り戻してやろうぜ!」


「うん!それに…私もまだ告白してないからね」


咲月は立ち上がり、誠也が歩いて行った方を頬を染めながら見つめていた。

俺も決意の籠った視線を同じ方向に向ける。


(俺たちはまだ諦めないからな!)


そして、俺たち勇者一行は一端王都に戻るため、怪我人を背負いながら帰路についた。







ここまでを第一章に設定しました

ここまで読んでくださってありがとうございます

引き続き、「欠けたピースを求めて」を読んでもらえると嬉しいです

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