その頃
三人称視点で書いてみました
下手くそですみません
魔族が王城を襲撃し、勇者を一人連れ去った次の日の朝。
勇者一同は食堂に集められ、朝食をとっていた。
「うめぇなこれ!」
「うんうん!思ってたよりもおいしくてびっくりしたよ!」
「異世界っつっても味覚は同じだな!」
明るい声が食堂を満たしている。昨日の夜は、魔族のせいで夕食がなかったので、みんな食事にありつけてテンションが高い。
だが、同時に全員が、何かから必死に目を逸らそうとしてるようでもあった。
言うまでもなく、矢代誠也のことだろう。
あの状況じゃあ仕方がなかったこととはいえ、魔族にクラスメイトを売り渡したことに対しみんな、大なり小なり思う所があるのだろう。
彼等は認めたくないのだ。直接ではないにしろ、彼を殺したという事実を。どれだけ言い訳を並べ立てても、どんな理由があったとしても、彼等のしたことは許されることではない。
故に、誰もその事を口にしない。
今ここで「彼が可哀想」などと言うやつがいるのなら、そいつはただの偽善者だ。それが許されるのは、最後まで彼を見捨てなかったテルシャ姫だけだろう。その姫様も共に朝食を食べてはいるが、表情は暗い。たまに話を振られては当たり障りのない答えをしているが、それ以外はほとんど話さない。
無理もない。過ごした時間はほんの僅かだが、想いを寄せていた相手を失ったのだから。
きっかけなんてものはない。言わば、一目惚れのようなものだった。彼女は立場上、色んな人と言葉を交わす機会が沢山ある。だが、その相手は彼女を『王の娘』や、『姫』としてしか見ていない。勇者達と話をしたときも、こちらの話を聞かず、一方的に罵詈雑言を浴びせられ、「あぁ…この人達も同じか…」と期待するのをやめた。
(だけど、一人だけ、セイヤさんだけは違いました。セイヤさんは勇者達に言い寄られて困っている私を助けてくれました。セイヤさんも突然異世界に来て混乱していたはずなのに、冷静に、そして私と対等に話をしてくれました。話をするのが楽しいと感じたのはいつ以来でしょう)
思わずテルシャの口に笑みが浮かぶ。だがそれも一瞬で暗い表情に戻ってしまう。そして無意識に視線を送ってしまう。彼を見捨てた彼の想い人に。
(私は……絶対に貴女を許しません)
自分の好きな人の信頼を裏切った彼女を、テルシャ姫は恨みの籠った目でみていた。
一方、その眼差しを向けられている人物――安藤咲月――もまた、暗い表情をしていた。食事にも一切手を付けず、ただ黙って俯いていた。
(………誠也……)
いつも側にいてくれた幼馴染みを思うたびに目に涙が貯まる。同時に幼馴染みを、好きな人を裏切り、生き延びている自分に腹が立つ。彼が最後に助けを求めたのは自分だったと彼女自身も気付いていた。だが、自分はそんなことが出来るほどの力を持っていないと
心の中で言い訳し、必死に目を背けていた。
その結果、彼は連れ去られ、今生きているのかもわからなくなってしまった。
(誠也は…どんな時でも私を守ってくれたのに……私は……)
誠也が暴力事件を起こしたという噂は、実は咲月に原因がある。
咲月は小さな頃から容姿に恵まれ、中学校に入学してますます綺麗になった。そしてある日、部活帰りに一人で歩いていると、地元の不良高校生に絡まれ、危うく傷物にされそうになる所で、たまたま通りかかった誠也に助けられた。彼も、その頃はまだ部活に所属していたため、下校時間が被ることはよくあった。
そして、襲われている咲月を見て誠也は怒り狂い、不良高校生を病院送りにした。
誠也自身もボロボロだったが、そんな姿になるまで自分を守ってくれたことが嬉しく、気付いたら誠也が好きになっていた。
だが、それ以来、誠也が暴力事件を起こしたと噂になり、本人は気にしてないと言って否定していなかったが、今回はそのせいで誠也が生け贄に選ばれてしまった。
(原因を作ったのも私…裏切ったのも私……実質、殺したのは私のようなもの……)
「私、誠也を好きになる資格なんてな――」
バンッ!!
賑やかな食事の空間に食卓を叩く音が響く。みんなその音に驚き、静まり返る。咲月も驚いて隣をみると、音の発生源は優斗だった。
「…それを言うことは許さないぞ咲月」
普段温厚な優斗が珍しく怒っていた。
「だ、だって、私さえいなければ――」
「そんなこと、誠也が望んでいると本気で思っているのか?だとしたら、俺はおまえを軽蔑する」
優斗の目は本気だった。彼の目には怒りと軽蔑、そして悲しみが混ざりあっていた。
「誠也は……誠也は!!最後まで俺たちのことを思っていたんだぞ!!」
「……えっ?」
優斗は泣きながら咲月に訴えかける。
「誠也は、最後の魔方陣で連れていかれる一瞬、俺に目を向けてきた。俺は軽蔑されることも、恨まれることも覚悟したが、誠也は、そのどちらもしなかった!!」
そう。彼は最後の一瞬、優斗に視線を向け、諦観した顔でメッセージを伝えた。
―――咲月を頼む――
と。
それを聞いた咲月は涙が溢れだしていた。
「そんな……じゃあ誠也は……」
「そうだ。あいつは罵ることすらしなかった。本当は言うこともできたのに、俺たち、特におまえに被害が及ぶことを恐れて何も言わなかった!!」
「………どうして……」
「おまえのことが好きだったからに決まってんだろうが!!」
「ッッ!!!」
「あいつは…誠也はずっとおまえのことが好きだったんだよ!!幼稚園の頃からずっとな!!」
「な、なんで優斗がそんなこと知って……」
「誠也自身に聞いたからだよ……なんで告白しないのかもな……『俺より相応しいやつなんてたくさんいるからな』だってよ……全く……かっこよすぎるだろ……」
咲月は自分が誠也に、他の誰よりも愛されていたことに気付き、そんな場合じゃないと自覚しつつも頬が赤らんでしまう。
「だから、自分の死が近づいているのに、自分より好きな人を優先した俺の親友の覚悟を踏みにじるような行為をするなら、例えおまえでも絶対に許さない」
「「「………」」」
場に再び静寂が訪れる。誰もが優斗の言葉を胸に刻み、そして矢代誠也への罪悪感で胸を痛ます。中には泣いている者もいた。
長い静寂を破ったのは食堂の扉を開
く音だった。
「我々のために犠牲になった彼へ敬意と、感謝を」
扉から入って来たのは王様とロハン騎士団長だった。どうやら先ほどの優斗の話を聞いていたようだ。王様の言葉で騎士一同は敬礼をする。
「彼を死なすのは余りにも惜しい。そこで我は彼の救出作戦を計画しようと思う」
その言葉に全員が驚愕する。
「ですが陛下、彼はもう……」
「確実に生きている保証はないが、少なくとも可能性はゼロではない」
「「ほ、本当ですか?!」」
咲月と姫様が王様に詰め寄る。
「うむ。考えてもみよ。なんのために魔族は勇者を一人差し出せと言ってきたのだ?」
「そ、それは……騎士団の皆様が帰ってきたので時間がなかったからでは?」
姫様が答える。
「それもあるだろうが、我は本当の理由は別にあると考えている」
「???」
「やつは勇者召喚を察知してきたと言っていた。つまり、勇者を危険だと認識したということだ。殺すだけならその場でできたはず。なのにそうしなかったのは、何か別の理由があったと考えられる」
「言われてみれば……」
「ですが、父様、だとしたらその理由とは一体…」
「我も理由がなんだかはわからない。あまり言いたくはないが、考えられるとしたら、勇者の人体実験だろう」
「そんな……」
王様の言葉に全員が絶句する。
「なので、彼を救うために君達の力を借りたい。今すぐには無理だが、ここで経験を積み、強くなって今度は我々が彼を助けてあげようではないか!もちろん強制ではない。戦うのが嫌な者は辞退してくれて構わない」
王様はそう言って勇者全員を見渡す。一番最初に名乗りを挙げたのは、やはり幼馴染み達だった。
「私はやります。こんなんじゃ罪滅ぼしにもならないけど、誠也に少しでも恩を返したい」
「俺もやります。このままあいつに助けられっぱなしじゃあ、あいつの親友は名乗れません」
二人が前へ出ると、それにつられて次々と参加する声があがる。
「お、おい。おまえら正気かよ…あんなやつのために命を賭けるのか?!」
だが、浅岡達のグループは名乗り出なかった。
「さっきも言ったが、これは強制ではない。戦いたくなければ辞退してくれて構わない」
「くっ……わかったよ…やればいいんだろ……チッ」
こうしてクラスメイト全員が参加することになった。三分の一ぐらいは回りがやるからといった感じだが。
「ありがとう勇者達よ。では早速君達の力を測るとしよう。ロハン団長、あれを。」
「はっ!」
ロハン団長はクラスメイト全員に板のようなものを配っていく。
「これはプレートと言われるものだ。その窪みに血を垂らすと君達のステータスが表示される」
言われた通りに各自、血を窪みに垂らす。
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安久津 優斗 18歳 男
Lv1
種族:人
役職:剣士
称号:〈勇者〉〈裏切り者〉
体力:1500/1500
魔力:300/300
筋力:500
耐性:100
敏捷:300
知恵:100
運 :20
スキル:剣術Lv3 火魔法Lv1 風魔法Lv1
先読み 言語理解
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安藤 咲月 17歳 女
Lv1
種族:人
役職:魔術師
称号:〈勇者〉〈裏切り者〉
体力:800/800
魔力:2000/2000
筋力:50
耐性:80
敏捷:100
知恵:800
運 :30
スキル: 火魔法Lv1 風魔法Lv1 水魔法Lv1
土魔法Lv1 聖魔法Lv1言語理解
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「それが君達のステータスだ。ちなみに、一般人のLv1の平均能力値は大体50前後だ。各自、確認し終わった者から騎士団長の所へ行き、報告しろ。それを見て今後の訓練のグループを分ける」
咲月と優斗は顔を見合せ、頷き合う。二人の目には硬い決意の炎が灯っていた。
(待っててね誠也。絶対助けに行くから)
こうして勇者達のクラスメイト救出作戦が始まった。
この時の彼等は知りもしなかった。
もう手遅れだということを