希望と絶望
少し遅れてしまいました
一日一話を目指していますが、なかなか難しいです
「―――!!」
……なんだ?
「―――や!!」
……なんか聞こえる
「―――いや!!」
……誰かが呼んでる?
「誠也!!」
そして、俺のまどろんでいた意識は覚醒した。
最初に視界に入ったのは泣きそうになっている咲月の顔だった。
「……咲月か……どうした?…」
「誠也がなかなか目を覚まさないから心配したんだよ!ぐすっ」
辺りを見渡して見ると優斗や他のクラスメイトもいた。みんな一様に呆然としているが、どうやら全員無事だったようだ。
「そうか……心配かけたな」
安心させるように咲月の頭を撫でる。
「あっ……」
「ん?あっごめん。つい昔の癖でな。高校生だし、こういうのは嫌だったか」
そう言って俺は咲月の頭から手を放す。
「いや、別に嫌じゃないよ……むしろ……」
「ん?」
「な、なんでもない!」
若干顔を赤くしつつ、咲月は優斗の方へ向かう。
(あちゃ~怒らせちまったか?こういうのは優斗の役目だったか)
失敗したな、と後悔し、後でご機嫌を取ろうと考えた所で、今、自分たちが置かれている状況を確認する。
(まず、ここはどこだ?下に魔方陣みたいなものが書いてあることから、召喚するための部屋だということはわかるが、なぜ俺たち以外誰もいない。召喚したこの国のやつらはどこにいる?)
そう思った瞬間、部屋の奥にあった扉が開かれた。そこから入ってきたのは、いかにも魔法使いって感じのローブを着た集団と、その先頭を歩くこれまたお姫様って感じの美少女だった。
「「「おぉ!!!」」」
「姫様!成功しましたぞ!」
「これで我が国は……」
「やっとあいつらに反撃ができるぞ!」
入ってきた集団は歓喜しており、涙を流しながら喜ぶ人もいた。対して召喚された俺たちは何が起こっているのかわからず、一層困惑するだけだった。ただ一人を除いて。
(なるほど。こいつらが……そりゃ嬉しいだろうな。何せ禁忌を犯してまで召喚したんだから。だがこちらにしてみれば、ただの誘拐犯だ。そういえば、アルスに聞くのを忘れていたが帰還方法はあるのだろうか?あるとして、こいつらが知っているのか?召喚することが禁忌だというのなら、一方的に喚ぶことしかできない可能性の方が高そうだ。アルスは生きていればまた会えるかもと言ってたし、もしこいつらが知らなければ、その辺は生き延びてアルスに聞くとしよう。……ってか、いつまでエキサイトしてんだよ。さっさとこちらに説明しろや)
俺はいつまでも喜んでいる連中に「早くしろや!」的な視線を送る。するとその視線に気づいたのか、姫様と呼ばれてる人がビクッとなりながらこちらを向く。そしておもいっきり頭を下げてきた。
「も、申し訳ありません!お呼びした私たちが勇者様たちをお待たせしてしまうなど…」
「……えっ?…いや、あの…えっ?」
「呼んだ?ってどういうこと?」
「てか、ここどこ?」
「私たち、教室にいたんじゃ?…」
皆、反応はさまざまだが、状況を理解しようとする気力が出てきたようだ。
「えっと…皆様、この状況に混乱してると思いますが、一先ず私の話を聞いてください。その後に質問などがありましたら遠慮なくおっしゃってください。出来る限り、ご期待に沿うようお答えしますので」
クラスメイト達は、とりあえず現状把握のため、姫様の言葉を聞くようだ。そこから、姫様はこの世界のことなど、俺がアルスから聞いたことを話始めたので、俺は周囲の状況を再度確認する。
(クラスメイトは、皆無事に召喚されたようだな。ざっと見、怪我してるやつもいない。だが、この状況で精神まで平静でいられるやつは少ないだろう。あらかじめ、アルスから説明があった俺はともかく、普通の人間がいきなり拉致まがいのことをされて大丈夫なわけがない。これは、帰還方法を聞くべきか悩むな…。方法が無かった場合、あの姫様たちにクラスメイトの怒りの矛先が向くのは容易に想像できる。その場合、俺達の立場が悪くなり、最悪連帯責任になるだろうな。なにせ異世界だ。俺達の常識が通じるはずがない。殺されはしないだろうが、監禁ぐらいは平気でするだろう。まぁ、他のクラスメイトがどうなろうが、ぶっちゃけどうでもいいが、優斗と咲月に被害が及ぶのは阻止しなくては。この国の連中が、どこまでしてくるのかわからないが、下手に波風を立てて立場をあやうくするより、今の関係を維持しつつ、しばらくは様子見をするのが得策だろう。俺が考えるべきはこいつらの怒りをどれだけ最小限にに抑え込む方法だな。…はぁ…神様の頼みごととはいえ…めんどくせ)
俺が一人で思考に耽っていると、誰かに腕をつつかれた。振り向いて見ると、いつの間にか咲月が優斗を連れて戻ってきていた。
「誠也、ぼーっとしてるけど、話ちゃんと聞いてる?」
「ん?あぁ…大丈夫大丈夫。ちゃんと聞いてるよ」
ちょうど姫様の説明も、終わったみたいだ。まぁ新しい情報はこの国の名前が『アガルタ』ってことと、姫様の名前がテルシャ・アガルタってことぐらいか。
「―――そういうわけで、誠に勝手ながら、勇者様方をお喚びしたのです。どうか我が国を救ってはくれませんでしょうか?」
姫様が言い終えると、一瞬静寂が訪れ、思考が追い付いたクラスメイトが各々口を開いていく。
「ふざけんなよ!なんで俺達が!」
「そうよ!急に知らない所に来たと思ったら、戦争をしてくれ
なんて…」
「できるわけないだろ!俺達ただの高校生だぞ!」
「こんなの、拉致と一緒じゃねぇか!犯罪だぞ!」
「早く家に返してよ!」
(まぁそうなるわな)
一人が不満をぶちまけ始めると、その不安や怒りが連鎖するように広がっていく。
「み、皆さん落ち着いて下さい。帰る方法はあります!」
(……ん?なんだ?)
クラスメイトは今の姫様の一言で、鎮まる。だが俺は今の言葉に違和感を感じた。気になったので、その違和感を確かめるために姫様に注目する。
「皆さんが元の世界に戻るには、今、魔族に占領されている場所に行かなければなりません。そこに送還用の魔方陣があると聞いています。なので、重ね重ね申し訳ないのですが、皆さんにそれを解放してもらうまで元の世界に帰すことはできません」
「そんな…」
「マジかよ……くそっ!」
「結局、戦う以外の選択肢がないのかよ!」
「もう嫌!早く家に返してよぉ…」
直ぐに帰れないと知ったクラスメイト達は、絶望する者、泣き始める者、より一層激怒する者、さまざまな反応をみせたが、俺だけは違うことで頭が一杯だった。
(どういうことだ?何が起こっている?)
先程、姫様が帰る方法があると言った時、確かに耳ではそう聞こえていた。がしかし、それとは別に頭の中には姫様の声で違う台詞が聞こえていた。
――――ごめんなさい――
と。
聞き間違えか、空耳かと思って姫様に注目していると、より鮮明に声が頭の中に響いてきた。
―――本当は帰還用の魔方陣なんてないのです。勇者様を召喚したと書いてある文献はたくさんありますが、帰ったという話は見たことも聞いたこともありません。国のためとはいえ、嘘をつくのは心苦しいです―――
(これは……)
俺の頭に1つの可能性が浮かんだ。だが、咲月が腕を掴んできたことで、思考が中断される。
「どうした?」
「………」
咲月は無言で腕を掴んでいる。その体は少し震えていて、何か声をかけようとすると――
――怖いよ――誠也――
(やはり……どういう仕組みか知らんが、注目した相手の心の声を聞けるようだ。これが俺の覚醒した能力か?)
そんなことを考えながら、傍らで震えている咲月の頭を撫でる。
「……誠也…」
「大丈夫だ。おまえは守ってやるよ。おまえは俺の昔を知ってるだろ?」
「……うん……でも……」
「安心しろ。無茶はしねぇよ。それに、今は俺よりも優斗の方が強いだろうしな。おまえも、あいつに守ってもらった方が安心できるだろうしな」
そう言って俺は優斗へと視線を移す。
「それはわからないね。あの姫様が言うには俺たち皆の力が強くなってるらしいけど、実際どうなってんのかわかんないし」
まぁそうだな、と俺は肩を竦める。そして姫様たちに視線を戻すと、クラスメイト達がが姫様に言い寄っていた。俺は溜め息を吐きながら咲月をやんわり引き剥がし、やりたくもない仲裁をしにいく。
「本当に申し訳ありません!」
「謝れば済むと思っているのか?!」
「そうよ!私達を巻き込まないで!」
「だいたい「おまえら、ちょっとうるさい」あ?んだよ?」
いきなり話に割って入ったことで、双方驚く。だがクラスメイト達は俺が誰だかわかった途端、不機嫌になっていく。
「おい矢代!おまえは頭にこないのかよ?!こんだけ自分勝手なやつらによぉ!」
「わかったから少し落ち着け。このままじゃ一向に話が進まない。邪魔だからあっちで頭冷やしてこい」
「んだとおらぁ!」
怒りのせいで自制が効かないのか、こいつ――確か名前は浅岡――は俺に殴りかかってくるが、俺はそれを手で受け止める。
「なっ?!てめっ!」
「今は仲間内で揉めてる場合じゃないだろうが。もっと現状をよく考えろ」
浅岡はチッと舌打ちしながらこの場を離れて行く。他の連中をそれに続いて歩いていく。
(全く。おまえら、助けてやったんだから礼の1つぐらい言えよ。後ろのローブ達が明らかに怒ってたじゃねぇか)
「あの~」
「ん?あぁ、すみませんね姫様。あいつらも突然のことでパニックになってしまってるみたいで」
「いえ、元はと言えば、私達が勝手に召喚したのが原因ですし…彼らの怒りも当然のことだと思います。ですがあなた様は落ち着いていらっしゃるのですね。失礼ですがお名前は?」
「矢代です。こっちだとセイヤ ヤシロになるのかな?」
「セイヤ様ですね。改めまして、テルシャ・アガルタです。気軽にテルシャとお呼びください。それと、先程はありがとうございました。正直、セイヤ様みたいな冷静な方がいらっしゃって助かりました」
「よしてください。俺は冷めてるだけです。それと、様付けはちょっと…」
「ふふっ。分かりました。では、セイヤさんで」
彼女はニッコリ微笑んでくる。それは暗くなった場の雰囲気を明るくするような笑顔だった。普段の俺だったら危うく惚れていただろう。だが、俺は後ろから得体の知れない冷たい視線を感じて冷や汗を流し、それどころじゃなかった。
「そ、それより、これからどうするんですか?また騒ぎ出す前に一旦移動した方がいいと思うのですが」
「えぇ、そうですね。では皆さんには先ず私の父、アガルタ王に会っていただきます。移動しますのでついてきてください」
そして俺たちは、謁見するために召喚された部屋から出た。
~~~~~~~~~~~~~~~~~
謁見の間はとにかく広かった。レッドカーペットが敷かれていて、俺達召喚者に加えて、ローブの人たち、護衛らしき人たち、国のお偉いさんらしき方たちなど、だいたい千人ぐらいいるのにも関わらず、この広間の十分の一ぐらいしか埋まってない。こんなに広くしたら移動がめんどくさいだろうなぁと関係のないことを考えながら俺たちは王様の座る広間の奥の玉座を見ていた
。
「よく来てくれた。異世界の勇者達よ。我はアガルタ王国、五代目国王、クロイセム・セリヌス・アガルタである。先ずは此度の我が国の召喚で迷惑をかけたこと、深く謝罪する」
(なるほど、悪い人ではなさそうだ)
移動中、暇だったので能力の練習をしていた結果、まだうまく使いこなせないが、嘘か本当かぐらいなら見分けられるようになった。
「だいたいの説明は、我が娘からあったと思う。その上で、あつかましい願いではあるのだが、どうか我が国を救ってはくれないだろうか?」
そう言って、王様は頭を下げる。
「へ、陛下!一国の王が頭を下げるなど…」
重鎮か、側近かわからないが慌てて王様を止めにかかる。
「国のために頭を下げることの何が悪い!我々は彼らの生活を奪っているのだぞ!恥など犬にでも食わせておけ!」
その強い意思に重鎮らしき人達だけでなく。この場にいる全員が息を飲む。クラスメイト達はその姿を見て、感銘を受けたのか次々と口を開いていった。
「な、なぁ。どうせ帰る手段が戦うことしかないなら、やってみないか?」
「そうだな。いつまでもうじうじしてたって帰れるわけじゃないからな」
「…仕方ないよね。帰る方法がそれしかないなら…」
「やるしかないね」
「よっしゃ!いっちょやるか!」
おぉ!と皆賛成の意を示す。それを聞いた王様は顔を上げ、もう一度深く頭を下げる。
「すまない。恩に着る!」
周りを見れば、若干不安そうなやつもいるが、最初の頃の暗い表情をしているやつはいなくなっていた。咲月と優斗もお互い笑い合っている。
(さて、先ずは第一関門突破かな?帰れる方法がないことを知っているから素直に喜べないが、ここは剣と魔法の世界だ。これから楽しくなりそうだ)
これから始まる新しい生活に、みんな心を踊らせていた。
ドカァァァァァン!!!
次の瞬間、謁見の間に爆発が起こった
「楽しそうだね?人族の皆さん。そして勇者諸君」
そこに立っていたのは―――
「魔族だぁぁぁぁぁ!!!」