第2話 傭兵ギルドの窓口に行ってみたんですけど……1
目が覚めました。
「はい!」
年齢が上がっています。18歳だ。今日からいろいろ解禁です(笑)
そんな冗談を言っている場合ではない。
先程から、俺の元の姿を思い出そうとしているが、一向に浮かんでこない。今、鏡に映っているその他大勢の小隊長ルックスが元からなんじゃないかとさえ思い始めている。まあ、俺のことだから思い出したところで、大したツラではないと思うが。
「主様、今度は銃隊の小隊長になったゲロ」
ゲロ子の奴が、現れて俺の右肩に座る。全く、神出鬼没な奴だ。まあ、話し相手になるから、こんな奴でもいないよりはマシかもしれない。
3度目の復活を果たした俺は銃隊の小隊長に生まれ変わっていた。
今は小隊長Cだ!
はい。名前はまだないですけど、何か~?
今度は銃隊を指揮する小隊長だ。
これは前回の弓兵隊よりもラッキーだ。なぜなら、弓兵隊のように間接攻撃だから、敵兵と離れて戦える。加えて、銃隊は弓兵隊よりも高価な装備を持っているので、前回のように使い捨てにされずに済む。(だろう)
そんな理由で俺は今回はラッキーと思ったが、強力な攻撃力があるだけに敵の目標にもなるわけで、プレーヤーがど素人だと生き残れる確率も低くなる。このゲームをやっているプレーヤーが操るこのSODの主人公「ケイン・ルインソード」はめんどくさがり屋で短気な奴だ。前回は自分が攻撃されたことに腹を立てて、俺の小隊を犠牲にして勝利をつかみやがった。
(畜生め!)
だが、俺もタダで死んだ訳じゃない。プレーヤーの性格、すなわち、ケインの性格を把握できたことは今後の俺のサバイバルに役立つはずだ。奴の性格を把握してしたたかに、せこく生き残る。これしかないだろう。このままでは、消耗品扱いでどんどん殺され、記憶を失い、転生したのにただのゲームキャラとして永遠にこのゲーム内でつまらない人生を過ごすことになる。せっかく生まれ変わったのだ。しかもこのゲームを攻略した記憶が残っているうちなら、いろいろと先回りしてうまく立ち回れるはずだ。
(ゲームクリアも女の子のゲットもだ! あのケインの奴を出し抜いて、女を奪ってやる!)
前回、犠牲にされた恨みを果たしてやるのだ。
「おい、小隊長はいるか!」
兵舎の外で聞きなれた声がする。もちろん、誰だか分かる。ケインの奴だ。ケインは遠慮もなしに俺の寝ている大部屋に乗り込んでくる。
「相変わらず、ダメなやつだな。まだ寝ているとはだらしない奴だ。お前の部下は広場でトレーニングをしているというのに」
いきなり入ってきてお説教である。相変わらず、傭兵隊長のくせに金髪巻き毛の長髪。顔にかかる髪を手で払う。キザったらっしい仕草はそのまんまだ。
(いつか、こいつを丸刈りにしてやる。ピカピカのつるつるにしてやる~)
こっちは寝ていたというより、生き返ったのだから少しくらい勘弁して欲しい。確かに表で部下どもが腕立て伏せをやっている掛け声がする。
「七十八回、七十九回……八十回。百まであと二十だ頑張れ~」
「うげえっ……」
「もうダメだ~」
休みなのにご苦労なことだ。
ケインが早く起きて来いとつま先で床をトントンする。俺は慌ててベッドから降りて敬礼し、卑屈に両手をモミモミして媚を売る。頭の中で叫んでいたセリフとは正反対の行動だ。コイツの機嫌を損ねるとまずいのだ。なにしろ、コイツは我々下っ端の生殺与奪権を握っているのだ。気分次第で最前線送りにして、寿命を縮めることを軽くできるのだ。それは勘弁して欲しい。俺はそうならないよう気持ち悪い笑顔を浮かべる。
「ケイン様、何か用で?」
俺は両手をにぎにぎとこすり合わせて、御用きき商人のような態度でケインのご威厳を伺う。コイツの機嫌を損なうと死に直結する。逆に気に入られれば、生を長らえることができるのだ。
「うむ。今から傭兵ギルドに行く。お前、僕の護衛としてついてこい」
「イエス!マイロード」
俺はわざとらしく敬礼をする。自分の上役に精一杯誠意を見せる。だが、ケインは俺をギロりと睨みつける。
「ふん。僕はおべっかな奴は嫌いだ」
真っ白に固まる俺の前をケインの奴が歩いて出ていく。
(すみません……。ポイント稼ぐどころか、減点くらいました)
「ま、待って下さいませ、ケイン隊長」
慌ててケインを追う俺であった。
傭兵ギルド。この世界の隅々にまで支店をもつ大きな組織だ。傭兵の依頼事項を一手に引き受け、それを傭兵に紹介する商売だ。依頼者からピンはねして危ない橋を渡らずに大儲けする組織なのだが、これは依頼者にとっても傭兵にとっても利点があった。
要するにミスマッチを防ぐというものだ。傭兵は実力に見合った依頼でないと命を失ってしまう確率が高くなる。依頼者も高い金を払って目的が未達成なら大損だ。ギルドの役割はその調整をうまくやってミスマッチを防ぐというところにある。そして、このギルドは完全中立でこの大陸の各国に拠点を置いている。ということは、敵にも傭兵を紹介していることになるが、それはそれで各支店の競争ということになる。
ああ、ついでにこの世界のことを少し語っておこう。このSODの世界は中世ヨーロッパをモチーフにした世界だ。人々の服装はもろにそんな感じ。食べ物もそうだ。生活風俗にたまに現代風のものが混じったりするのはご愛嬌というものだろう。
アブドリア大陸という大陸に4つの国がある。まずはプレーヤーが傭兵として仕える国。ショパン王国。大陸の西に位置する古い王国だ。この国は首都クロービスを中心とする王の直轄領に7つの大貴族の領土が広がる国だ。 王国軍はあるが兵数が十分でないため、傭兵を雇っているのだ。周りの大貴族に至っては直属軍を持たないのですべて傭兵の力に頼っているのだ。よって仕事が多いために、このショパン王国には傭兵たちが集まってきている。
大陸の東に位置する大国ロングストリート帝国。これは敵国である。主人公であるケイン・ルインソードは傭兵団のリーダーが職業であるが、ロングストリート帝国は傭兵を採用しないので必然的に敵になる。多くのシナリオでプレーヤーはこの帝国の軍隊と戦うことになる。王国と帝国の間に挟まれているのがライン公国。弱小な国で情勢によって帝国についたり、離れたりを繰り返している。大陸の南にあるのがガダニーニ共和国。中立を標榜してうまく立ち回っている国だ。
そして、貿易で富をなす島国、スマイランド連邦が北の海に位置する。国力の比はロングストリート帝国が4、ライン公国が0.5、ショパン王国が2.5、ガダニーニ共和国が2、スマイランドが1というところか。
ロングストリート帝国が大陸統一を目指して周辺国を脅かすという情勢でゲームは開始される。帝国以外の国が同盟すればそう簡単には侵略されないのだが、そこは外交による策略や王国自身が大貴族の思惑で一致した政策を取れないこともあって、徐々に軍事大国であるロングストリート帝国に押されている。
主人公ケインはそんな王国を助け、徐々に出世してついには王国の実権を握り、帝国を倒すという壮大なストーリーなのである。
「主様がケインだった時には、世界を救うだけでなく、数多の女子を救うことにも熱心だったゲロな。どちらかというと、そちらがご執心だったでゲロ」
「うるへー」
俺は肩に乗っているゲロ子を指で弾く。肩から転げ落ちるゲロ子。
「今は小隊長だ。世界を救うどころか、自分を救いたい気分だぜ。全く!」




