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 白白と夜が明ける頃、俺たちはショパン王国軍の物資集結基地である「ケルト城」へとたどり着いた。だが司令官はとっくの昔に逃げていて守備隊もいなかった。前線からの敗残兵がやっとたどり着いて地面に座っているだけである。

 

 前方から来るのは10万は下らないロングストリート正規軍である。さらに後方からはライン公国軍5万が押し寄せてくるはずだ。


「ああ……もう一歩も歩けない。俺はここで終わるのか~」

「主様もここで万事休すでゲロな」

 ゲロ子の言葉にツッコメない俺。それだけ疲れきっていた。


「Cくん、よかった~無事だったようね」

 俺は疲れが癒されていくように感じた。振り返ると声の主はルカちゃんだったからだ。


「ルカ副隊長、ここに逃げてきたのですか……。じゃあ、ケイン隊長もここに?」

「いえ。彼とは別れてきたの。いくら危機的状況でも、味方を見捨て、挙げ句の果てに民衆に発砲するなんて!」

 

 ケインの野郎。いい気味だ。ルカちゃんに完全に愛想をつかされている。ハートゲージを見るとケインに対して白である。俺に対しては……「緑」

(か、勝ってる!)


「それにあの男、ひどいのよ!」

「ケイン隊長が何かしました?」

「あいつ、都一番の歌姫とできているのよ! それにギルドのスタッフの年上女性に花売り娘に……節操がなさすぎる! 昔はもっと真面目でいい奴だったのに」


 ルカちゃんがマジギレしている。ケインの奴。女に狂ったようだ。ああいう真面目そうな奴が一旦美味しい思いをすると歯止めが効かなくなるというが、本命ヒロインほっといて、好感度を下げるヤ△○ン野郎になるとは。


 それにしても……。俺は首をひねった。いくらケインの野郎の浮気が発覚したにしてもこんな展開になるとは。 

 ルカちゃんはヒロインのひとりである。傭兵隊の一員だから、戦場で死んでしまうこともあるが、基本、プレーヤーであるケインが危ないことをさせないのが普通だ。だが、ルカちゃんはケインの命令を無視してこの城まで戻ってきたらしいのだ。


「一人でも救わないといけない……」

 ルカちゃんはそんなことをつぶやいている。


(ああ……なんて心の優しい人だ。前線に残った兵士たちを心配して戻ってくるなんて)

 俺は少々感動している。


「主様、でもこれはヤバイでゲロ」

 ゲロ子が腕を組んで深刻そうに俺に言う。

「どういうことだよ」

「ルカに死亡フラグが立っているでゲロ」

「なんだって?」

 俺が目を凝らすとルカちゃんの頭の上のハートが黒くなっているのが見えた。あまりお目にかかれない状況だが、ハートが黒というのはまもなく死亡イベントが発生するということだ。


「ふむふむ……でゲロ。ルカはこの城が敵軍の手に落ちるときに死ぬでゲロ」

「そんな~」

「しかも、悲惨な死に方でゲロ。敵兵に捕まって陵辱されるでゲロ。何人もの兵士に犯されちゃうでゲロ」

「えええっ……そんな展開になるのか~」

「ロングストリート軍は傭兵には容赦がないでゲロ。男は強制労働。女は犯して殺すというのが掟でゲロ」


「そんなことはさせない」

 俺は疲れきった兵士に声をかけて回るルカちゃんの姿を遠くで見て、何とかしなくてはと思った。だが、体は言うことをきかない。何とかする前にまぶたが閉じてうっかり寝てしまったのであった。

(起きていたところでいい案など浮かばなかったとは思うが)


「主様、主様」

「あ、あああ」

 俺は重い体をゆっくりと起こした。2、3時間ほど経過したようだ。日が高く登っている。城の中は騒がしい。みんな慌てて右往左往している。どうやら戦いが始まるようだ。城にいるのはルカちゃんが率いる疾風の獅子傭兵団の200人と敗残兵合わせて1500人程度である。


 そして、俺が城のやぐらから見る敵兵は……。

 まるで砂糖に群がるアリのよう。

 黒々と城を囲んでいる。


(いったいどんなけいるんだ?)

「ゲロ子、敵軍の数は?」

「ゲロゲロ……10万でゲロ」

「10万?」

「ついでにあと5万程が近づいているでゲロ」

「はあ~。死んだな……」

 

 どう考えても死んだ。

 でも、俺にはなんとかしなくてならないことがある。

 そう、ルカちゃんを脱出させなくてはならないのだ。でないと、あの優しい副隊長がひどい目にあって殺されてしまうのだ。


(くそ!ケインの奴、どうしてルカちゃんをほったらかしにするんだ?)


「これは強制イベントでゲロ。ケインの奴が浮気していることがバレたとかで、ルカの好感度が大幅に下がったから起きたでゲロ」

「そうなのか?」

「そうでゲロ」

 だとしたら、(ケイン死ね)である。


 俺がケインでもこの状況は厳しい。

(どうしたらいいんだ?)

「主様、もう覚えていないようだから言うでゲロが」

「何だよ!」


「クロアからもらったものがないでゲロか?」

 そういえば、武器職人の娘クロアが俺に別れ際にくれたものがある。魔法弾の他にピンチになった時に開けろといった小箱だ。俺は胸ポケットからそれを取り出した。蓋を開ける。


「なんだこりゃ?」

 小さな指輪が入っていただけである。小さすぎて指には入らない。

「なんだ? クロアの奴、役に立たないものをよこしやがって!」

 これじゃあ、伏線のようで伏線じゃない。こんな小さな指輪が何だというのだ。クロアの奴、俺に惚れてこんな指輪をくれたのかもしれないが、この状況を何とかする物ではない。

 俺は絶望感から、大きなため息を一つ吐いた。


 だが、ゲロ子の奴は固まっている。こんなゲロ子を見るのは初めてだ。指輪を指差してブルブルと震えているのだ。

「主様……。それ、それはでゲロ」

「何だよ、ゲロ子?」

なんだ? このアイテム?

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