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一兵士じゃないだけよかった?
いや、このゲームにおいて小隊長と一兵士の立ち場は同じである。
消耗品である。
中間管理職の最低レベルである。
ある意味、兵士よりも立場が悪いかもしれない。ゲームをやりこんだことがあるからこそ、俺にはわかるのだ。
俺がゲームクリアするまでに一体何千、何百人の小隊長を犠牲にしてきたことか。
これは俺に対する罰か?
神より降された天罰なのか?
(生まれ変わってもツイてねえ)
小隊長は主人公の命令には逆らえない。
主人公はコントローラーで画面のボタンをポチっと押すだけだ。それで小隊長の俺はその命令を実行するのだ。
「抜刀隊A小隊、全員、集結せよ!」
俺は刀を振りかざして命令する。安物の日本刀である。刃が欠けてボロボロになっている。何人か斬ったようで血に染まっているのがちょっとキモイ。
自分の小隊メンバーを集める。小隊は30人から50人編成であるが、既に消耗して20人もいない。
みんな疲れきって、肩で息をしている。中には刀を地面に突き刺して、やっと立っている者もいる。
(これで敵の銃兵100人に突撃?騎馬ならともかく、抜刀隊は徒歩だぞ?攻撃する前に撃たれて全滅だぞ!)
でも、ゲームをやりこんだ俺にはケインの野郎の考えは分かる。このゲームに出てくる初期の銃は火縄銃と同じような性能で次に射撃するまで30秒近くかかるのだ。俺たち抜刀隊を犠牲にして、次の射撃する前に騎馬隊で撃破するつもりだろう。
(実にまっとうな素晴らしい作戦だ)
いや、感心している場合でない!
犠牲になるのは「俺」なのだ!
「心配するな!初級魔法だが、僕がお前らにサポート魔法をかける」
ケインが偉そうにそう叫ぶ。
(サポート魔法? この状況でかけるって、まさか!)
「サポート魔法、(一瞬だけゾンビ……ミニットデット)発動」
「や、やっぱり、それかよ~」
俺は天を仰ぐ。
ミニットデット……三分間だけ、無敵になれる魔法だ。その時間だけ、ゾンビ状態。さすがに頭を撃たれると死ぬが。それ以外の場所は撃たれても斬られても戦える。だけど、三分たったら……(ユー・アー・デット)なのだ(笑)
正直言うとただ単に(痛み)を忘れさせるだけの魔法なのだ。
(笑いじゃねええええっ)
初級魔法だから使えねえのは仕方ないけど、俺がケインだった時にはたまに使っていたわ。だって、ここぞという時には三分無敵というのはありがたい。その部隊は捨てると決めたら、俺も躊躇なく使ってましたです。はい。
「突撃~」
プレーヤーに逆らえない俺はそう兵士に告げるしかない。ミニットデットをかけられても、生き残る術はある。ダメージを受けなければ三分後に元に戻るだけだ。体が赤く点滅しているのが普通になるだけだ。だけど、撃つ気満々の敵銃隊の列に突っ込んで、無傷でいられるわけがない。
ワーッツ!
健気に刀を振り上げて走る兵士。
すまん……絶対死ぬ。
バンバンバン……
すさまじい射撃音がする。俺の胸板も打ち抜かれた。それでも前進する俺の小隊。
「ワーッツ!」
が、「ああああああああ……」とゾンビのうめき声に変わるだけだ。撃たれながらも剣を振り上げて敵に襲いかかる。俺のゾンビ小隊。
敵の銃隊は大混乱だ。魔法の力は偉大だ。だけど、その効果は永久ではない。時間にして三分。カップラーメンができると同時にバタバタと倒れる俺の小隊。
不思議なことに痛くない。そりゃそうだ。ゲームのキャラだから。
(すまん……本当にすまん。君たち……というか、俺も含む尊い犠牲はプレーヤーの糧になるのだ。君たちのことは忘れない)
などと言ったが正直、俺がプレーヤーだった時は忘れてました。こんなのは小さな犠牲なのです。
俺もバタリと倒れた。
遠くでケインの奴が騎馬隊を指揮して銃隊を撃破しているだろう音を聞く。
(せいぜい、仇をとってくださいね)
俺は思い出した。このシチュエーション。シナリオ1話の「傭兵王立つ」だ。小さな傭兵中隊を父親から引き継いだケインが初陣を飾る戦いだ。局地戦で手柄を立てて、中隊の規模を大きくし、次の作戦の参加につながる戦いなのだ。
(あ~。それ知ってても意味ねえ。小隊長じゃ意味ねえ~)
(せっかく生まれ変わったのに、また死ぬなんてついてねえ~)
愚痴しか出ない。
交通事故で死んでから、10分経ってません。本日、2回目の「死」を迎えました。
(はあ~ツイてねえ時はとことん、ツイてねえ)