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「ケイン様の疾風の獅子傭兵団の方ですね」
聞きなれた声。赤毛のマッシュルームカットのくせっ毛。ベレー帽から一本アホ毛が出ている小さな女の子。
(ナ、ナンナ~)
このやっちまった感はなんだ。
よりによって、窓口がナンナとは……。
「主様は本当にツイてないでゲロな」
「うるへー」
Dランク窓口は全部で10箇所ある。スタッフは20人程だ。なのに一番当たりたくないナンナちゃんに当たるとは! とても嫌な予感がする。
この娘はドジっ子でとんでもないミスで傭兵団に危機をもたらすのだ。いや、前回でそのドジが仕組まれたことを知った。コイツはわざとドジしたフリして自分の給料アップにつなげている(したたか)な女の子なのだ。
「あ、あなた、前回の戦いで生き残ったのですね。それはよかった。ナンナ、心配していたのですよ」
ナンナの奴、心にもないことを言う。そんなわけない。だって、ナンナの
首にかけてあるネックレス。前回は付けていなかった。
俺がナンナちゃんの胸元を見るので、ナンナちゃんも気づいたようだ。
「ああ、これね。前回のケイン様の活躍でノルマ達成。しかも特別報酬だったから、買えたの。特別限定のドランゴントゥースのネックレス。限定100だったから焦ったわ~」
(ばかやろう!そのせいでこっちは大怪我したんだよ!)
心の中でそう思ったが、ナンナちゃんの笑顔に俺は自然と顔がにへら~っとしてしまう。
「主様。主様は絶対、悪い女に騙されて貢いでしまうタイプだから気をつけるでゲロ」
「うるへー」
「だって、既に前回の怒りが薄れているでゲロ」
(そうだった。大怪我をして部隊の兵士が全滅したのはコイツのせいでもある)
死んでいった名も無き兵士と大砲隊小隊長Aのためにもここはガツンと言っとくべきだ。
「この前のシナリオ、思いっきり敵出てきたんですけど……」
「そのおかげで大儲けできたからいいじゃないですか」
「いや、ナンナちゃん、休戦条約がどうとか言ったけど、そんなのないし。そもそも、Dランク傭兵団にCランク紹介するし」
「それはギルドの規定で認められています。それとも、ナンナが全部悪いということですか?」
ナンナちゃんの目に涙が浮かぶ。涙が一筋、二筋流れていく。
「おいおい、何、俺らのアイドルのナンナちゃんを泣かしているんだ!」
隣のおっさんが俺をとがめる。ガヤガヤとフロアにいる他の傭兵団の人間もやってくる。このナンナちゃん。Eランク、Dランク傭兵には人気があるのである。
(みんなどうかしてる。コイツのドジというか、単なるノルマ達成のためにひどい目にあっているのに、可愛いだけで許すのかい? 美少女なら何やっても許されるんかい?)
「そういうもんでゲロ。ゲームでも現実でもビジュアルは大切でゲロ……」
言葉尻が消えていきそうなセリフを言うゲロ子。ビジュアルのことを言われたら俺までも落ち込むじゃないか。
「おいおい、ゲロ子。まだ落ち込んでるのか?」
ナビキャラ(カエル娘)ゲロ子。特別限定データ 出現率3%
超レアなのに人気がない。残念な奴なのだ。
「落ち込んでいないでゲロ。ゲロ子はこれでもこのカエルスーツを脱げばすごいんでゲロ」
「何がすごいんだか……」
俺の独り言を周りの連中が不思議そうに見ている。こいつらのようなNPCには、ゲロ子は見えないのだ。その中の一人が気を取り直して俺に激しい口調で怒鳴りつける。
「おい、あんちゃん。何ひとりでブツブツ言ってるんだ。ナンナちゃんをいじめるなと言ってるんだ!」
「そうだ、そうだ!」
「俺たちの天使ちゃんを泣かせるな!」
(やばい、やばい。暴動が起きる~)
「いや、違うんです。俺が泣かせたわけじゃないんですよ。これは何かの間違いで。ね、そうでしょ? ナンナちゃん」
言い訳がましく、説明して野次馬を追っ払う俺。それにしても泣かれるとは思わなかった。ナンナちゃん。したたかな女じゃなかったのか?
「主様。あれを見るでゲロ」
ゲロ子が指差す。ナンナちゃんの持っているファイルの間に目薬の容器が……。
(この女~!絶対、お仕置きだ~)
それをさっと隠してナンナちゃんは、笑顔に戻って俺に話しかける。
「お詫びにとっておきのシナリオを紹介します」
そう言って、開いたファイル。
衝撃的な文字が俺の目に飛び込んできた……。




