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「おい、小隊長C。僕たちはルクライン戦に行く前に準備を整えなければいけない」

「はい、左様でございますか?」


 確かにシナリオCランクの「ルクライン作戦」は大掛かりなシナリオなので準備期間がある。日にちにして2ヶ月後。それまで暇のまま、ボーッとしているのも無駄であろう。必要なアイテムを手入れたり、レベル上げしたり、金を儲けて軍資金を増やすのもいい。何しろ、傭兵団は自前の金で準備して、シナリオ開始後に報酬をもらうのだ。自前資金が多ければ多いほど、十分な設備と兵数を揃えることができる。それは俺のような立場の弱い人間にとっては、死ぬ確率が下がるから非常にありがたいことである。


「Dランク窓口に行って、適当なシナリオを選択してこい。お前に任せる。僕はちょっと用事があるからな。2時間ばかり抜ける。2時間後に街のカフェ(猫飯亭)で集合だ。遅れるなよ」


「はい。シナリオを選ぶ条件は?」

「報酬は300デナリ以上。多少の危険は構わん。貴重アイテムも狙いたい」


(バカめ。俺が選ぶなら絶対安全なの選ぶわ。300デナリの報酬だと危険ゼロというわけにはいかないが)


「おい!」

「はい」

「命惜しさにチョロいシナリオを選ぶなよ」

(ドキッ!)

 ケインの野郎め。俺の心を見透かしやがる。


「僕は常にスリルを味わいたいのだ」

(バカ野郎! てめえのスリルのせいでこっちは死にたくないわ!)

 なんて、心の声は表情に出さない俺であった。でも、なぜ、ケインは俺にシナリオ選択を選ばせるのだろうか?


「あのう~」

「なんだ。僕は忙しいのだから早く言え」

 そう言ってケインの奴。ギルド1階の休憩室の鏡の前で服装チェックをしている。クシを出して髪も整え始めた。明らかにこれから二時間、どこかで誰かと会う予定のようだ。

 ちなみにギルドの建物の中には、簡単な食事が取れるカフェや身なりを整える休憩室みたいな施設がある。体を鍛えるトレーニング室や医務室まであるのだ。エンブレムを持った傭兵隊長と彼が随従を許した部下しか利用できないのであるが。


「ケイン様は二時間、一体どこへ行かれるのですか?」

「秘密だ」

 間髪いれずにこの男は答えた。


(怪しい……絶対、女だ)

 俺の勘は鋭いのだ。ケインの野郎、女に興味ないかと思ったら、ちゃんと手を出している。たぶん、コイツのことだ。マニュアルも読まずにゲームを始めていたが、最近になって女の子とも遊べる機能に気づいたに違いない。 その割にはマリアンヌさんには積極的でなかったが、そういうプレイスタイルなのだろう。ケインを動かしているプレーヤーは。


「主様と違って、誰にでも手を出す節操のない男とは違うでゲロ」

「うるへー。このゲーム(SOD)で嫁一筋でクリアする奴なんていねえわ!」

「そうでゲロか? そういうプレイスタイルでクリアすると別展開もあるでゲロ」

「ふん。そんなもんあるかよ。それにケインの野郎、ルカちゃんと二股かける気だ。これで奴が美味しい思いをしたら……」

「大丈夫でゲロ。ケインは主様と違ってヤリ○ンにはならないでゲロ」

「そんな奴いるわけが……いやいや……」


 こういうハーレムゲームで稀にいる。複数攻略はしないで特定の女の子のみを追い続ける一途な野郎が……。


「おい、小隊長C。僕がギルドの用事に出かけた時に二時間抜けていたことをルカ姉には話すなよ。話したら、てめえは前線送りだからな」

「は、はあ……」


(前言撤回。コイツ、ルカちゃんと複数攻略ねらってました!)

 鼻歌を歌いながらケインの奴、出て行きやがった。


「主様。ケインの奴、女に目覚めたでゲロな」

 ゲロ子が鼻の下をゴシゴシしてつまらなさそうに言った。

「ああ。目覚めやがった。あの野郎。どの女の子に目をつけたんだ。まさか、もう落としてやりたい放題じゃないだろうな」


 悔しいが奴はこのゲーム内では主人公。ヒーロー。イケメン野郎でチートなくらい能力が高い。奴の前ではどんな女も見ただけでハートゲージは白から青、緑に変える。

(そう簡単には思いどおりにはさせないぜ!)


「ゲロ子、何か情報は持ってないか?」

「そうでゲロな……。ケインのナビキャラのエリスを通じて情報を集めるでゲロ。それより、今はケインに命じられた稼げてチョロいシナリオを選ぶ方が先でゲロ」

 

 ゲロ子に言われて俺は俺で重要な任務を忘れていたことに気づいた。今から行うのはメインのシナリオの前に行うウォーミングアップアップみたいなものだ。俺が死なないシナリオを選ばないといけない。いやいや、自分のことばかりではない。大事なメインシナリオの前でダメージを受けるのは良くないのだ。ここはシナリオ選びが重要である。


「それにしても……」

「なんでゲロ?」

「プレーヤーが選ばないシナリオ選択場面ってあったかな?」

「主様。これはランダム選択でゲロ。勝手にプログラムが選択してやらされるでゲロ」


「あ、あああああっ! あったわ」

 SODでは、基本、シナリオ選択はプレーヤーが行う。ギルドから紹介されてそれを受けるのはプレーヤーの選択決定である。だが、突然、やらされるランダムシナリオもある。これはゲーム上、スリルを味わいたいというユーザーの要望に応えるシステムだ。あと、ランダムシナリオの中には幻のレアシナリオがあって、それをクリアすると貴重なアイテムが手に入ることがあるのだ。


「ランダムって、俺のような下っ端人間が選んでいるだけじゃん」

「主様。だから、ほとんど無難なシナリオが選択されるでゲロ」

「なるほどね」


 ランダムにやらされるシナリオは99%は簡単でつまらんシナリオだ。それなりに報酬は入るが危険は極力少ない。そりゃ、部下の小隊長に任せればそうなる。俺だって、絶対に無難なのを選ぶ。


 で、俺はギルドのDランクの窓口に行く。当然、99%の安全なシナリオを選択するためだ。小隊長という危ない立場なのだ。危険を冒す理由がない。


 が……。

 窓口に座った俺はフリーズした。


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