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「死んではダメです!」
「死ぬな!」
「死んじゃいやあ~」
(おや、誰かの声がする。しかも可愛い女の子の声だ……)
(声が可愛いからといって、女の子が可愛いとは限らないけれど 笑)
(笑)じゃねええええ……
でも、この声は聞いたことがある。どれもSODに出てくるキャラの声優さんの声だ。
先ほど完全攻略したハーレムメンバーのヒロインたちが俺に呼びかけているのだ。魔界王女リリィ、皇女ルーティーン、王女マルガリーテ、エルフの族長の娘エレ、ジパングの姫、クシナダヒメ、女将軍セシルに幼馴染のルカちゃん……アイドルのカロンちゃんに花売り娘のフランちゃん等、そうそうたるハーレムメンバーが浮かんでは消え、浮かんでは消え。
(ごめん。せめて君たちの攻略データをアップしたかったなあ。いや、君たちの画像を収めたDVDを棺桶に入れてもらいたかった。残念!)
俺は無意識に左手を天に向かって突き上げた。
「我が人生に悔いなし!」
17年という短い人生に終止符を打つ。
はずだったのに……。
「死ぬな!まだ早いぞ!」
突然、男の声に気持ちよく死んでいくはずだった俺は驚いて目を覚ました。
「あれ?ここはどこだ?」
俺はキョロキョロと辺りを見回す。たくさんの兵士が倒れている光景が目に入る。さらに戦闘が続行中らしく、そこかしこで剣による斬り合いが繰り広げられている。白兵戦の真っ最中だ。俺を起こした声の男は金髪巻き毛のイケメンだ。白い馬に乗っている。
(どこかで見たことある)
俺はそのツラを見て、すぐに思い出した。
(コイツって、ソード・オブ・デュエリストの主人公、ケイン・ルインソードじゃないか!)
ちょっと前まで俺がなりきっていたキャラである。それが白馬に乗って兵の指揮をしている。最初から主人公の愛馬となる「三日月」である。全身白いのに額のところに黒い毛で三日月模様がある馬なのだ。
俺はというと刀を持っている軽装突撃兵スタイルだ。いわゆる抜刀隊という部隊である。
このソード・オブ・デュエリスト(以降SODと称する)は、たくさんの兵種が用意されているが、基本は長い槍をハリネズミのようにして体型を組む槍隊、高速スピードで戦場を駆け回る花形の騎馬隊、間接攻撃ができる弓隊、強力な攻撃ができる銃隊、攻城戦で活躍する砲兵隊、そして、近接戦闘の突撃部隊である抜刀隊である。レベルが上がると強力な兵種を操ることができ、さらに一軍の指揮官になると魔法による攻撃もできるようになるのだ。
で、俺は抜刀隊の一員である。初期の基本兵種だ。
よく見ると、右腕に腕章を付けている。線一本。
小隊長である。
「え?俺、小隊長?」
そんなとぼけたことを言った俺に主人公のケインが罵倒する。
「何をしている小隊長A、突撃して敵の銃隊を撃破しろ!」
「え?」
見ると敵部隊らしい銃隊が射撃しようと隊列を組み直している。俺の抜刀隊は近接攻撃を仕掛けて一部隊を撃破したものの、敵の援軍に反撃される途中らしい。
「お前たち抜刀隊が支えている間にボクの騎馬隊の編成を行う。30秒耐えろ!」
そう軽く言うケイン。金髪の巻き毛の長い髪をキザったらしく手で跳ね上げる。俺もゲームじゃやっていたが、これは痛い。痛すぎる
それに命令もデタラメすぎる。コイツは素人か? ビギナーちゃんなのか?
(おいおい、抜刀隊は最終決戦兵種なんだぞ。このタイミングで突撃なんて時間稼ぎにもならんわ。全滅確実!)
俺は経験からそう思った。装備から言っても銃兵に射撃されたら軽装の抜刀隊は耐えられないのだ。これはあくまでも突撃突破用に短期決戦に用いる兵種なのだ。当然、激戦になるので死亡率は高い。
どうやら、俺はゲームの中にいるらしい。俺が夢中になったSODの中だ。しかも、ただの小隊長だ。主人公ならともかく、ただの小隊長だ。小隊長には名前がない。だから、俺にも名前がないということだ。現在の俺は抜刀隊小隊長Aだ。
せっかく生まれ変わったのに、死亡率が高い抜刀隊小隊長はないだろう。
これがラノベやアニメなら、間違いなく生まれ変わったら主人公「ケイン・ルインソード」に生まれ変わるはずだ。
だが、どうみてもただの小隊長だ。ルックスもテンプレートどおりの可も不可ない無難な容貌だ。
(うあ~。せめて主人公とはいかなくても、主人公を助ける友人とか、傭兵隊のメンバーとか、こういう展開なら女に生まれかわることだってあるのに!)
生まれ変わって主人公に攻略されるヒロインになるというライトノベル小説も数多い。でも、俺の立場は……
ただの小隊長。名前はまだない。あえて言うなら「A」
おいおい……。未成年の犯罪者みたいじゃないか!