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「ガブロット大佐殿。敵が白旗を上げています」

「戦わずしてか?」


 ロングストリート正規軍の強襲偵察隊を率いるガブロット大佐は今年38歳。軍でも中堅のできる男であった。黒いヒゲがダンディなおじさんである。偵察隊は全員騎兵で武装は騎兵銃を装備していた。任務は敵が作っている陣地の視察と場合によっては、それを破壊することであった。


「はっ。旗の数や兵の姿はパッと見、我が軍と同じだけの数がいるようですが」

「おかしいな。罠ではないのか?」

「傭兵ですから、意気地がないのは分かりますけどね。敵の指揮官が会いたいと言っています」

「うむ。大砲もあるようなのでプロテクトをかけて一気に揉み潰そうと思ったが、数が数だけに損害を受けるかもしれないな。降伏するというならそれに越したことはない」

「時間稼ぎかもしれません。敵の遊撃隊が迫っているということも予想できます」


 兵士の進言にガブロットはにやりと笑った。


「時間稼ぎなどさせるものか。周囲に斥候を出せ。援軍が近づいてくるようなら即撤退だ。その前に敵の指揮官と話してみようではないか」


 そして数分後……。


 俺はゲロ子を肩に乗せて、敵軍の真っ只中に乗り込んでいた。普通ならビビってしまうところであるが、死んでも痛くないしすぐ生き返る気軽さも手伝って俺は堂々と歩いている。もちろん、死ねば記憶を5%失い、年も1つ取るから避けたいのではあるが。


「お前が疾風の獅子傭兵団の指揮官か。一人で来るとはその度胸は認めよう」

「はっ。ロングストリート正規軍の指揮官様。お初にお目にかかります」


 いつものように両手をニギニギしている俺。卑屈な態度をより一層強めている。これは俺の作戦だ。思いっきり小物臭を漂わせて、指揮官の油断を誘うのだ。でないと5倍の敵に攻撃されて死ぬのは確実なのだ。


「ふん。傭兵団とはいえ、こんな男が指揮官とは情けない」

(うるへーっ。こっちは作戦なんだよ。この黒ひげ肩太りが!)


 などと心の中で思っていても顔はにへら~として締まりなくする。


「降伏するというなら、受けようではないか。力で揉み潰しても良いが、陛下から預かった貴重な兵士が怪我をするのは避けたいからな」

「そうですよね~。お互い、怪我はしたくないですよね~」

「では、早速貴様らは武装解除しろ。捕虜として本国に送る」

「ちょ、ちょっと、待ってくださいよ」

 

 俺は慌てた。事を早めてもらっては困るのだ。


「実は同僚に降伏に反対する奴がいまして……」

「なんだと!」

 肩太り、怒りやすい性格らしい。


「そいつ、かなわぬ間でも損害を与えて玉砕するって言うのですよ。そうなるとこちらの部隊の兵士の方々もたくさん死ぬわけで……」

「それでどうするのだ」

「1時間。1時間待っていただければ、説得します。そうすれば、肩太り……じゃなくて大佐殿は任務達成。兵隊さんたちも無事に国へ帰れるというものです」


「ほほう……面白いことを言うな」

(これはイケル)


 俺は内心ほくそ笑んだ。肩太り隊長。どうやら敵はこちらが思いのほか人数がいることを考えて、無理な戦いを避けようと心が揺れ動いているらしい。俺の取った藁人形作戦が思いのほか効果があるようだ。


(賢いぜ! 俺)


 だが、そこへ斥候の兵士が駆け込んでくる。肩太りの前に跪き、恐るべき内容を報告する。


「隊長、敵軍が近づいてきます。およそ1時間でこちらへやって来ます」

「なんだと!」

(だーっ! ここでそれが来るか~)


 肩太り隊長は俺を睨みつける。

「お前、1時間て言ったな!この事を知っていて騙そうとしたな!」


 タイミングが悪い。なんて悪いのだ。

 俺は慌てて頭を振る。


「知らない、知らない。そんなこと初めて聞いたですよ」


 本当は知っているから演技が嘘くさくなる。よって、肩太り隊長の命令で兵士が俺を取り押さえ、俺は縛り付けられて陣の外に連れ出される。肩太り隊長は俺の顔に剣をペタペタとつける。


「お前を人質にして降伏させる。降伏しなければここで処刑だ」


 恐ろしいことを宣言する。

(ちょっと待て!俺を人質にしたところで味方は降伏しないに違いない)


 縛られてる俺の肩にゲロ子が現れる。


「まずいでゲロな。主様の兵士たちは少しは考えるけれど、砲兵隊の連中は主様のことなんか考慮しなけでゲロ」


 確かにそうだ。砲兵隊のA小隊長も親しいわけじゃない。大砲をぶっ放しでもしたら俺は即処刑となる。


「ま、待ってください。隊長様」

「何だ、味方に降伏を呼びかけるのか?」

「いえいえ、こちらへ来る部隊の情報を話しますから、処刑だけは勘弁を……」


「なんだと?」

(く、食いついた~。チャンス~)

「疾風の獅子傭兵団を倒せば、大佐殿は手柄で昇進間違いなし。次は将軍でしょう。将軍になれば、給料も上がり、屋敷ももらえ、奥さんも嬉しがりますよ」


 俺の口は滑らかだ。というより、ここは一気に行かないと俺は処刑される。だから必死だ。


「そうだな。では、話してみよ」


 俺の言葉のどこに食いついたのだろうか。肩太り大佐は俺の縄をほどいてくれた。俺はケインの部隊の能力をべらべらと話す。生き残るためには手段を選ばないのだ。ケインの使える魔法の種類に回数、同じく魔法が使える指揮官のルカちゃんやダイタロスのおっさんの能力も話す。


「ほう。よく話した。しかし、傭兵は忠誠もなにもないと言うが、そこまで話すとはお前は敵とはいえ、つくづく残念な奴だな」


 せっかく有効な情報を教えてやったのに、肩太り隊長に軽蔑される俺。


(ちくしょう~)


「まあ、いいだろう。命だけは助けてやる。おい、こいつを縛っておけ。まずは陣地を攻撃する。援軍が来る前に落とし、各個撃破してやる。これで昇進は間違いない。待っててね~。ミーナちゃん……」


「あのう~」

「なんだ?」

「ミーナちゃんって奥さんですか?」


 俺は気になってそんなことを聞いてしまった。敵キャラにもそれぞれ人生がある。こんな肩太り黒ひげのおっさんにもミーナなんて可愛い名前の奥さんがいたら、何だか悔しい。


「馬鹿者。ミーナちゃんは猫に決まっているだろう!」

(ねこかい!)


 肩太り隊長。この年にして妻もおらず。飼い猫のミーナちゃんが唯一の家族であった。


(残念だ)

 


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