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「銃兵隊小隊長C、状況は厳しいな」
そう砲兵小隊Aが俺に話しかける。年回りは三十代って男だ。
(俺と同様のどうでもいいキャラだから、細かい描写は省いておこう。どうせ、このイベント終了後に生きちゃいまい)
(それは主様も同様でゲロ……)
俺の心の中で独り言を言うゲロ子。
砲兵小隊の兵数は50。大砲1門につき、15人の兵士が配置されている。旧式の大砲だから大した攻撃力はないが、そこは大砲。うまく使えば敵を警戒させて時間稼ぎできるかもしれない。
「大砲はどれくらい撃てるんだ?」
俺は小隊長Aの奴に聞く。同僚だから年上に対してもタメ口である。
「1門につき20発だ。元々、国軍の砲兵隊が来るまでの間を守備するのが任務だったからあまり弾は持ってないんだ」
そりゃそうだろう。ちなみにこっちも一人当たり100発しか弾持ってねえ。ケインの奴が、どうせ工兵の手伝いだ。弾は最小限でいいと判断しやがったのでこのざまだ。
「ゲロゲロ。ケインには状況が伝わったでゲロ。1時間耐えれば、ケインが来る」
「ゲゲゲッ……。1時間てターン数なら10ターン。最低の次のパターンじゃないか!」
このシナリオはランダムでケインの到着が決まる。正確にはこの陣地がどれだけ敵の攻撃に耐えられるかということで、敵を撃破するまで耐えられるターン数が決まっているのだ。それが10ターン。一番いいパターンだとケインが30分で到着する。耐えるターンは5ターンでいい。最悪だと二時間である。
(二時間でなくてよかった~って、全然、嬉しくないぞ!)
俺は思い出した。このシナリオをやるとき、到着時間に合わせて何度もリセットした。30分到着にしてゲームクリアをしたんだった。1時間でも厳しいのだ。
「そ、そうだゲロ子。旗に藁人形だ!」
「なんでゲロ」
「だから、馬にやる藁があっただろう。それに近くの村から布を集めるんだ」
俺は兵士に命じて等身大の藁人形を作らせる。一人に10体作らせたので、藁人形兵士は500体近くになる。さらに村から強制提供させた古着を割いて旗っぽくする。それを棒に付けていかにも大部隊が駐屯しているフリをするのだ。
「これでビビって攻撃をためらってくれればもうけもんだ」
「そんなにうまくいくとは思わないでゲロ」
「た、隊長~っ。敵です。敵が来ました」
物見櫓に登っている兵がそう告げる。
「敵は?傭兵隊か、兵種は?」
「Rの文字の旗が見えます。傭兵隊じゃないです。ロングストリート軍。正規軍です!」
「げげげっ……。ツイてねえ。俺は本当にツイねえ」
言うまでもなく正規軍は強い。国を背負っているという誇りから来る士気の高さと訓練が十分されたスキル。そして何より、魔法が使えるのだ正規軍は。
このSODは戦略シュミレーションゲームであるが、魔法の要素もある。使えるのは主人公を含めた将軍級のキャラであるが、兵による攻撃をサポートする魔法がいくつもある。初期の頃は大したものはないが、それでもこちらが魔法を使えない場合は驚異だ。
例えば、俺の率いる銃隊。今持っている武器は火縄銃で攻撃力最低であるが、シナリオが進むと銃の性能が上がる。そうなると騎兵や槍兵などは銃の前に意味がなくなるはずだが、魔法のおかげで最後まで騎兵は主力になるのだ。
(プロテクト)
という魔法がある。これは魔法の障壁で物理攻撃を防ぐ魔法だ。初級の魔法であるがこれをかけられると火縄銃程度の鉛玉は全部はじかれるのだ。これでは、突撃する敵兵を銃撃しても倒せない。こちらも魔法が使える指揮官がいればそれを対抗魔法で無効化することや、魔法障壁を上回る武器を手にれるなど対抗手段がないわけではないが、銃が圧倒的有利になるわけでなくなるのだ。だから、SODでは騎兵で突撃などという近接攻撃が一番有効な攻撃となるのだ。
「ゲロ子、降伏する。白旗を上げろ」
「ゲロゲロ……。降伏するでゲロか? 今は助かっても後でケインに処刑されるでゲロ」
「本当に降伏する気はない。降伏条件で交渉して時間を引き伸ばすんだ」
「主様が敵の指揮官と話すでゲロか?」
「おうよ。1時間くらい粘るさ」
「主様。相変わらずせこいでゲロ」
「うるさい。俺は手段を選ばないんだよ!」
俺は自分の話術に賭けることにする。こう見えても俺がケインだった時には交渉術もすごかったのだ。どんな不利な条件でも論破して外交戦でも成果を上げたもんだ。それに比べれば、敵はたかだか500人程度の小部隊の隊長だ。
(軽い軽い……)俺はそう軽く考えた。
(主様は今は小隊長に過ぎないという自覚がないでゲロ。ケインだった時の呪縛から抜けきれていないでゲロ。ひどい目に合わないといいのだけどゲロ)




