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 コイツ(ナンナ)のうっかりは傭兵隊全体を危機に晒す。タダのドジでは済まされないのだ。今の俺、小隊長の俺にとって彼女は「死神」である。ドジで窮地に立たされて死ぬにはゴメンだ。よって、俺は眼光鋭く、彼女が持ってきたオススメ仕事ファイルをケインの後ろから目を光らせる。


(どこだ……どこにミスがある?)


「ケインさん、ナンナのオススメはこれです」

「なんだ? 国軍の砲兵陣地を作る? 地味な仕事だな」


 この案件、ケインは興味なさそうだ。


「そんなことないですよ。重要拠点での危険なお仕事だから、報酬も大きいですし、その割には危険は少ないと私はみています」


(おいおい、ドジ娘の見解はいらないって! 信用0ですから!)

心の中でツッコミを入れる俺。


「なぜ、危険が少ないんだ?」

 ケインが当然な質問をする。言わなかったら僭越ながら、俺自身が聞いたに違いない。


(こっちは命がかかってるんだ!)


「この依頼、敵が来ることを前提にしているので難易度が高く設定されています。おかげで報酬も同様のレベルの5倍という破格な条件ですが、敵が来る確率は低いです」


(おいおい、敵が来る確率が低いって? どんな根拠でそんなことを言うのだ。ドジっ娘ナンナ!)


「う~ん。どうしようか。そもそも敵が来ないって僕の趣味じゃない。僕は派手に敵を撃破して名を高めたいのだ」


(おいおい、ケイン。お前はDランクだろ。まだ地道にレベルを上げる時期でしょ。せめてそのセリフはAランクになってからでしょ!)


 俺は後方でケインに心に中で突っ込みを入れる。その心のツッコミを感じたのかケインの奴が振り返って俺を見るので、俺はしたくもない笑顔で応える。


「お前はどう思うのだ。小隊長として意見を述べよ」

「はあ……」


 俺は迷った。ナンナの持ってきた作戦に覚えはない。初期のシナリオだからそんなに難易度は高くないはずだ。おまけに戦闘はなく代わりにお金がたっぷり入るって、普通なら受けるべきだろう。特に戦闘を回避できるところが今の俺の立場からするとありがたい。


 ただ、ナンナが勧めるというのが引っかかる。この女がそんな美味しい話を持ってきたことがあっただろうか。


「あのケイン様。そのファイルを見せていただきたいのですが……」

「ふん。即座に判断できんとはお前は将軍の器じゃないな」


(うるへー!こっちの命がかかってるんだよ!)


 ケインの奴、偉そうにファイルを俺に渡す。俺はありがたく頂戴すると依頼条件を事細かくチェックする。報酬は1千デナリ。1デナリ金貨が現代で1万円の価値があるとされるSODの世界だ。1千万円は報酬としては大きい。それに仕事は最前線の陣地作り。ここショパン王国は現在、大陸西方の大国ロングストリートと交戦状態にある。戦闘は膠着状態で一進一退を繰り返していた。

 戦いはいつもあるわけでなく、散発的に戦闘が起こるくらいだから、陣地作りというのもそんなに危なくはないかもしれない。


「ギルドの情報ですと近々、休戦協定が結ばれるとのことです。これは内緒ですよ。ケインさんだからこそ、教えるんです」


 そうナンナちゃんがケインに片目をつむった。くせっ毛赤毛のアホ毛がぴょんと飛び出た。

(畜生め! この娘、マジ可愛いじゃないか!)

 

 俺は冷静に判断し、これは受けるべきだと思った。一千デナリなら小隊長の俺にもボーナスが出るなんて期待したわけじゃない。


「ケイン隊長、ここは受けるべきかと……。資金繰りを円滑に行うのも傭兵隊長の仕事かと」

「ちっ……。てめえは今月の給料が出るかどうかで判断してるだろう? だが、ルカ姉にも稼いで来いと言われてるからな。このシナリオ受けるよ」

ケインが書類にサインをする。


(よかった~。とりあえず次は死なないシナリオみたいだ。助かった)


 だが、神は俺に試練を与える。簡単には楽をさせてはくれない。


 

 ゲロ子がポンっと現れた。

「主殿。ナンナの持ってるファイルおかしくないゲロか?」

「おかしいって?」

「色は何に見えるゲロか?」


 ゲロ子が指差す。表紙の色は青色だ。だが、Dランク窓口の他のファイルは黄緑色である。明らかに違う。


「これって……」

「あのドジ女、間違って持ってきたようでゲロ。青はCランクゲロ」

「だあああああああっ!なんで、そんなことが起きるうううううっ!」


 でも、その理由は分かった。立ち上がったナンナちゃん。ファイルの束を抱えると歩き出したが前方から来るスタッフとぶつかる。慌ててファイルを拾うナンナちゃん。おそらくそうやってファイルがすり替わったのであろう。

 

 にしてもだ。間違えないようにファイルの表紙の色が違うにも関わらず、それに気づかない。ドジ娘。ケインの奴はど素人なので仕方がないにしろ、気がつかなかった俺。


(いやいや、サインしてからこんな大事なことを指摘するゲロ子の奴が……)


 ゲロ子の奴を見ると口笛吹いて別の方向を見ている。


 (こいつ、知ってて、教えるの遅らせたな!)

 俺はゲロ子のほっぺをギュッとする。


「痛い、痛い、止めるでゲロ」

「てめえ、最初から知っていただろうが!」

「知らないでゲロ。ゲロ子をいじめても状況は変わらないでゲロ」


「ご主人様のためになることをするのがナビキャラだろうが!」

「戦闘がなくて、陣地作りで大金入るならいいシナリオでゲロ。一千デナリ入るならボーナスもあるでゲロ」


 ゲロ子がそんな事を言ったが、俺は信じない。そんなうまい話があるものか。

(あのナンナだぞ。あの子が太鼓判を押してその通りになったことがあったか?)


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