プロローグ1
久々の新作です!
転生者ですが、主人公最強じゃありませんw もうそろそろ、そういうのも飽きられてきそうなので、主人公はせこく、したたかさ最強という路線です。おいおい、そんなの面白いの? 自分で突っ込むw いいんです。好きで書いてる作品。我が道を行きます。
しばらくは連続投稿します。よろしくお願いしますね。
「やった、ついにやったぞ!」
俺は思わずゲーム画面を見て叫んだ。両手をグーにして雄叫びを上げる。
「オロオロロロ……(意味不明)」
俺は夏休みの最初から始めた話題の人気SLG「ソード・オブ・デュエリスト」通称「SOD」をクリアしたのだ。このゲームは大陸の王国の小さな傭兵隊隊長となり、魔法や強力な武器を手に入れ、兵士を集め、戦いで手柄をたてながらどんどん地位を高めていく。ついには王国の王となり、さらには大陸の諸国を統一する戦略・戦術シミュレーションゲームだ。
ただの戦争ものシミュレーションゲームだったら、一部マニア受けするだけだが、このゲームの素晴らしいところはシナリオが進むにつれて、慕ってくる女の子を複数ゲットすることができるのだ。町の花売り娘から大商人の娘、貴族令嬢から女将軍、そして王女様までみんな惚れさせて独自のハーレムを作り、そこでラブラブ生活が送れるのだ。街でデートしたり、海に遊びに行ったり、屋敷でパーティをしたりとイベント満載なのである。
もちろん、戦略ゲームだからといってそんな簡単に女の子もなびかない。恋愛シミュレーション並みの攻略が必要なのだ。戦いに勝っても女の子には振られることは多々有り、女の子によっては攻略が超難しいのだ。
そんなゲームを俺は夏休みのわずか20日で完全クリアした。
大陸を統一した覇王になり、攻略可能な女の子の完全攻略だ。
(まさにキング・オブ・ゲームズ)
俺は天才だ。(ゲームの)
完全クリアといったが、このゲーム大陸統一で最大敵国であるロングストリート帝国を撃破、その皇女ルーティーンをハーレムに収めてゲームエンドと思っていたのが、このSODは奥が深かった。
それだけではなかったのだ。
通常ゲームクリア後のエンディング画面をずっと出し続けていると、66分6秒後に3分の1確率で魔界編へ突入することを俺は偶然知ったのだ。
(エンディング後に思わず寝落ちしたのだが、物音で偶然起きた時に突入画面が立ち上がっているのを見つけたのだ。なんとラッキーなんだ。俺は!)
まず、これに気がついたプレーヤーは日本全国を探しても現時点ではいないだろう。俺はこの未知の魔界編に突入して、出てくる魔界軍のモンスターを撃破し、ついでに可愛い魔界の女の子も落としてハーレムに加えていったのだ。そして、不眠不休の三日間でついに魔界を制圧し、魔界のプリンセス「リリィ・アスモデウス」を口説き落とした。この女、最初は超凶暴でタカビーな性格のダイナマイトボディ娘であったが、今は俺にデレデレのツンデレデレ状態なのだ。
ちょっと可愛い牙が唇からのぞく長い赤髪の美女が俺の前に膝まづく。
「お主がわれを求めるというのなら致方ない。このリリィ。お主のものになろうぞ」
(うんうん、リリィちゃん、素直になった)
俺はひざまずくリリィちゃんの髪の毛を指でなで上げ、そしてその爆乳を片手でグイっと掴んだ。
「うっ……そんなに強くしないで」
「くくっく……。何だか、偉そうだな。リリィ魔界王女。あなたのモノにしてくださいだろう!」
鬼畜モードの俺。
ここは下手に出てはいけない。下手に出るとこの魔界王女リリィの奴は、調子に乗って正妻にしろとか、あれを買ってとかうるさいことを言い出すからだ。ここは絶対服従させるべし。
(何度もコンティニューしてこの結論に至った)
俺の指が下からリリィの胸の突起物を突っつく。リリィはもう力が入らないようで、目を閉じて俺の為すがままである。
「そ、そんなこと……恥ずかしくて……言えない」
かろうじて、抵抗する魔界王女。俺の鬼畜モードレベルはさらに上昇する。さらに鬼畜な征服者になる俺。俺はこのSODを完全クリアした覇者だ。覇者は何でも許される(笑)
「おや~?それでリリィちゃんいいのかな? 君が従順にならないと、君の父上は処刑だよ~。君の家来の命も保証しないけどなあ。ククック」
「そ、それは卑怯だ」
「君たち、魔界軍は俺たち人間に散々、汚い手を使ってきたからなあ。これくらいは許されるよ。それにリリィ魔界王女。なんやかんや言っても、俺に惚れてるんだろう?」
「ううう……」
「さあ、言ってごらんよ」
俺の態度は完全に正義のヒーローというより、悪人のようだ。でも、この裏モードの魔界編はこういう展開になり、これが真の攻略ルートなのだ。何事も行いの正しい聖人君主では、世界は治められないのだ~。
魔界王女リリィは頬を真っ赤に染めて、視線を下に落とし声を振り絞る。消え入りそうな声でこう告白した。
「ううう……リリィはあなたが大好きです! あなたのモノにしてください」
「うひょひょ~」
俺はゲーム画面に向かってガッツポーズを取った。(こればっかw)
魔界王女リリィ・アスモデウス。
コイツに最初は何度も踏まれたが、ついに落とした。今日からは俺のハーレムメンバー。帰ってからあんなことやこんなことを……むふふふ(キモ!)
「俺はついに英雄王になったのだ!」
(ついでに総勢100名の美女がいるハーレムの王だ)
俺はゲームをログアウトして幸せな妄想世界から現実に戻る。ねまき替わりのスエットを着た俺は頭をかきかき、あたりを見回す。山と積まれた漫画や雑誌に埋もれた部屋。そういえば腹が減った。ゲームやりすぎて飯を食ってねえ。この一週間というもの菓子パンかじってこのゲームに没頭してたから、また体重が減った。男なのに50キロ切ったかもしれない。
俺はゲームの中では、イケメンのモテモテ傭兵王であるが、悲しいかな現実はただの引きこもり高2男子である。一年生の時には真面目に通っていたが、二年生に上がった四月に俺の中で何かがぷツンと切れたのだ。それでもう四ヶ月も学校に行ってない。今は夏休み中だが、九月も行かなきゃ留年は確定だろう。暗い俺の高校生活。もちろん、彼女もいない。彼女でもいればこんなことにはならなかったかもしれないが。
女の子と付き合った経験もない暗い青春爆進中……。うう、つらい現実に戻ってしまったじゃないか!
まあいい。この完全攻略をネットで報告する前にコーラとポテチ、うん、今日は奮発してチキンを付けよう。コンビニでそれを買って祝杯を上げるのだ。今は午前2時。
真夜中だ。家をそっと抜け出して俺はコンビニへ走った。
真っ暗な街に輝くコンビニの光。
「ああ、翼よ~。あれがコンビニの火だ」
などとかつて大西洋を一人で飛び越えた男の名言を口ずさむ俺。乗ってるのは飛行機でなくてママチャリだが。
キキキーッツ……。
今思えば黒の上下のスエットがいけなかった。いや、車が来ないと思って赤信号で交差点を渡ったのがいけなかった。気がついたら車に跳ね飛ばされて、側道の看板に叩き付けられた。
目の前が真っ赤になる……まるでゲーム画面のようだ。
ゲームの中で死亡するとこういう感じになるのだ。でも、これは現実だ。なぜなら、先程から激しい痛みを感じるからだ。俺はゆっくりと目を開ける。痛みをこらえて自分の体の状態を確認する。
(痛え~右手、変な方向に曲がってるし……)
骨は確実に折れている。右手どころじゃない。足も膝と足首がありえない方向を向いている。ズキンズキン……と心臓の音に合わせてとてつもない痛みが俺を襲う。ヌメヌメと体全体を覆っていく赤い液体。
(こんなに血が出てたら確実に死ぬううう……)
ドロッとした血の感触も気持ち悪い。このまま血の沼に体が沈んでいきそうだ。
それよりもまぶたが重くなってきたよ。
(俺は死ぬのか)
(嫌だ~。せめて、ゲームの中でなく現実の女の子と付き合いたかったよ~)
と一瞬思ったが、よく考えると生きていたからと言ってこれから女の子と付き合えるとは限らない。ゲームの中のような可憐で健気、そして都合の良い女の子もいるわけでなし。生きていてもいいことなさそうだし……。三十過ぎても彼女なしニートになりそうだし。
(いっそ、これで消えた方が世の中のためかな?)
そう考えると痛みも薄らいできた。
(生まれてきてごめんなさい。俺はここで消えます。はい、さようなら……)
ゆっくりと目を閉じた。
遠くで救急車のサイレンが鳴っているのが聞こえたが、そのうち無音になった。




