機神閃光 -マキナビーム-
揺れる馬車の中、リカルドの中。
あたしは今、一人静かに精神を集中させていた。
『はあああ……』
何をしているかって?
イメージトレーニング…いやまんまトレーニングだ。
今のあたしは精神世界、ようはリカルドの中に居る。
あたしが待機状態になると自動的にここに来てしまうのだが、色々発見出来た。
まず、最初に見えるのは扉だ。
鍵のかかった分厚い扉で、ぶち破ろうと思うと嫌な予感がする。
これは多分、リカルドの精神世界の中枢へ向かう為の扉なんだろう。
ぶち破ったが最後、精神が崩壊して死に至ると、あたしはまず間違いなく道連れになるだろう。
喧嘩三昧の日々に飽きたら試してみるのもやぶさかじゃあないが、まだまだ堪能しても居ないのだ、やめておこう。
で、あたしにとってここは現実の延長線上。
ここで技を開発して現実世界で、使おうと考えた訳だがしかし。
『どーにも、わからーん』
あたしの全機能はどうやら封印されているらしい。
戦いを経験する度使える機能が増えて、必要なら新しい機能が追加される。
まどろっこしいのは嫌いだ。
弱ければ新しい技を覚える為に修行をする、そんな当たり前の行為が難しい身体なのだ。
『となると、実戦あるのみか…腕がなるなぁ』
実際には光って唸るぐらいしたいが。
その時、精神世界が揺れた。
『おろっ?』
あたしは少しふらついて、扉を背にして寄りかかる。
『死にたくない!誰か!誰か助けて!』
扉の向こうから声が聞こえる。
あたしの情けない本体サマだ、短い付き合いだけれど聞き間違えることは無い。
『任せな』
さぁ、一波乱起こそうじゃねぇのさ!
#####
現実世界に出て来たあたしは迷いなくガキ共を抱えて跳んだ。
そしたら飛んだ。
やっぱ実戦あるのみ、土壇場で燃え上がる熱い魂の鼓動がマシンを動かすもんだ。
今までの飾りみたいなゴテゴテした翼は堕ち、あたしの背中に新たに生えた翼はシンプルな黒一色の翼だ。
エンジンが唸りをあげてあたしを空に押し上げる。
それだけじゃない、身体のあちこちから火が吹き上がり身体を支えている。
『イヤッフーーー!』
あたしはガキ共を抱えたまま横転した馬車に突っ込む。
ジュリアの馬にガキ共を任せてそのまま突撃!!
「グゲッ!?【機械仕掛の神】!?旧時代ノ産物ガドウシテコンナ時代ニッ!?」
バケモンが喋るたぁ、生意気なんだよッ!!
#####
僕は信じられない気持ちで彼女…【機械仕掛の神】を見つめていた。
死にたくない、ただその一心が彼女を動かした。
いや違う、彼女は僕に「応えた」んだ。
彼女の悪魔の様な笑みを見て、彼女の無機質な瞳を見て、彼女には心が無いと、血も涙もない破壊と殺戮の兵器だと思い込んでいた。
でも、そうじゃなかった。
彼女は確かに僕の特殊能力で、でも、僕の意思で動かせない。
そんな彼女を恐れて、きっと僕は彼女を拒絶していた。
でも彼女は、そんな僕に応えてくれた。
僕の為に、彼女はきっと応えてくれる!
#####
「グヒヒヒヒッ!!【不思議な宝物庫】!」
死の行商がその名の所以たる技能を発動させ、空間に開いた穴に手を突っ込んだ。
「ゲヒャ!ヒャッハァ!!」
死の行商は【不思議な宝物庫】から取り出した緑色の卵の様な物を数個投げつける。
当然、その物体はこの世界に生きる者にとっては謎の物体だが、マキナはそれを正しく理解していた。
『手榴弾だとぉ!?』
マキナは手榴弾を確認すると爆発するよりも素早く突撃する。
「ゲギャアッ!?バ、馬鹿ナァ!」
かつて、人間神崎 真希波は爆弾を使った攻撃を何度も繰り返し受けていた。
大小関わらず、非力な人間が手にするには比較的容易であり、また人間離れした戦い方を見せる神崎 真希波への対抗策としてこれ程適した物は無いと誰もが考えたからだ。
だが、違う。
神崎 真希波に最も有効なのは害意や殺意の無い攻撃である。
神崎 真希波は並外れた感性をもってしてそれらを過敏なまでに察知し、対処する。
そんな彼女の危機察知能力は極限にまで高まっており、彼女は幾重もの修羅場をくぐり抜けた。
………もっとも、嬉々として修羅場に乗り込むあたり宿命的なものを感じるのだが。
ともかく、異世界くんだりに転生した程度でその能力が錆びつく筈も無く、爆発のタイミングからどう受ければ無事で済むか等、マキナは完全にその術を熟知していた。
自ら突撃し、爆風により加速、強烈な一撃をお見舞いするその目論見は見事に決まった。
マキナの飛行能力自体高く、それが爆発の反動で瞬間的に加速する。
『そぉら膝蹴りィ!』
「ギヒイッ!?!」
顔面に突き刺さるマキナの右膝。
死の行商の鼻が折れ、気が遠くなったところに側頭部に蹴りを叩き込む。
『そぅら!』
「ゲブッ」
『ひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!ゲブッ、だってよー!楽しー!』
「グッ、ガギ……」
これである。
如何に言葉が通じずとも伝わる事がある。
それは残虐性、見るもの全てを戦慄させる非道の行い。
見れば見るほど悪役面の【機械仕掛の神】の笑みは周囲を戦慄させ、後続より追いついた他の学院生達の衆目の元に晒される。
「あっ…悪魔同士の潰し合いか!?」
「うぇっ!?ち、違います!片方は僕の守護者です!」
結果、在らぬ誤解…いや当然の誤解をされる。
「悪魔め!落第生を惑わして取り憑いているんだな!覚悟せよ!」
「うわわわわ!どうしようジュリアさん!」
「ふ、普通の守護者であれば念じれば届くのだが……彼女に当てはまるかどうか」
それを聞いたリカルドは必死に念じ始めた。
先程の感覚を手繰り寄せる様に、必死に思いを伝えようとする。
すると、リカルドの右手首が光った。
「うわっ!?」
「これは!武具系特殊能力の発現現象!」
光が収まったそこには、腕時計の様な機械が装着されていた。
その正体をジュリアは確かな洞察力で見抜く。
「そうか!きっとそれが彼女と意思疎通する為に必要な何かなんだ!」
「ほっ、本当?」
「論より証拠だ!早く試したまえ!」
「え、えーとええっと…」
既に死の行商は虫の息であり、頭を鷲掴みにして持ち運ぶ【機械仕掛の神】は正しく悪魔の様で、
しかもその状態を維持したまま蹴りのみで学院生数人の攻勢をさばいている。
あわあわと狼狽えるリカルドの視界に、ピコンッと視界に入って来た。
腕の特殊能力【機神操機】の画面が光ったのだ。
そこには「特殊兵器使用申請」と記されていて、
「え、何これ?」
ポチりと、詳しく確認しなかったリカルドがこの操作の意味を知るのはすぐ後になる。
閃光と轟音が世界を貫いた。
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