可能性との出会いに
【悪夢の大迷宮、獣王の布陣】
光が閃く、光そのものを剣にしたそれはしなやかで、それでいて鋼よりも硬く、鋭い。
「光学式魔導剣」と名付けられたその剣はこの世のあらゆる名剣にも劣らない。
その剣に対して振るわれるのは斧。
重厚でいて、過度な装飾を抑えたその斧は正に獣。
野生を研ぎ澄ました力の具現。
「牙王刃」、刀、剣、斧、三つの武器の性質を併せ持ったこの戦斧は「獣王」が愛用する武器であり、斧の最高傑作として知られる。
幾度となく打ち合い、本来ならボロボロに磨耗するはずだが「光学式魔導剣」は光そのもの。
使い手の魔力供給が途絶えぬ限りその斬れ味に陰りはない。
対する「牙王刃」もまた、元々の頑強さから刃毀れ一つ起こしてはいない。
差が出るのはたった一点、使い手の差。
「十魔」第六席「獣王」アスカ、魔人として最上位の存在である彼女は生半可な戦いでは傷一つ負わない。
「十魔」の中で最も優れた軍団を有する将であるが、
その個人の実力で「第六席」の座を勝ち取った女だ。
当然の結果である。
相対するはデュリオン。
真島 鈴の能力【百魂統括】。
これは巫女の血統であったという真島一族の中で、
先祖返りとして発言する能力であった。
簡単に言えば、魂を百分割して操作する、というものだ。
自らの肉体からゴーレムなどに分割した魂を移すことで自分の手足の如く動かす事が出来る。
魂が移ったものはその割合によって強化されるのも特徴といえる。
魂が五十入ったゴーレムなどは強く、真島 鈴の主戦力といえる。
だが、魂を移すという行為にはデメリットがつきまとうのだ。
肉体から離れた魂は二十四時間もすれば消滅してしまう。
魂が消滅してしまえばどうなるかはわからない。
おまけに二十時間も経てばゴーレムなどを動かすだけの力が無くなってしまう。
制限時間は実質二十時間という事だ。
身体の魂が五十を下回ると身体の動きが鈍ってくる。
二十で動けなくなり、十で植物状態になる。
ゼロになれば、それはもう死んでいるのと大差ない。
魂を百、全てをデュオクロスに移す。
デュオクロスの【限界を超える者】が自らを、真島鈴の能力をも革新させる。
デュオクロスの装甲は新たなる主人に相応しい器へと姿を変える。
これこそが【人機一体】
二人で一つの合成機人。
「デメリットがどうこう言っただけあって格別だな」
「ぬかせ「獣王」、噂に聞く奥義も出さずに互角では此方の不利で変わらない」
デュリオンは恐れていた。
まだまだ余裕を見せる「獣王」の奥義、その存在を。
【獣王】。
配下の軍団の力、その全てをその身に宿す自己強化奥義。
この奥義を発動すれば戦闘力は飛躍的に向上し、
相対した者は軍団全てと「獣王」を一度に相手する羽目になる。
名の知れた奥義であるが、その対抗策は無いに等しい。
自らが奥義を発動した「獣王」より強ければ問題にならない、というのは対抗策にはならない。
「獣王」が敵にもならないというのはつまり、「十魔」が誇る第一席レベルの戦闘力でなければならないからだ。
「此方も其方もまだまだ戦える、だが、このまま続けても結果は見えている」
「お前の特殊能力があればどうにでもなるんじゃねぇのか?」
「やってみる価値はある、だが焼け石に水だろうな。
此方の【限界を超える者】はその名に違わぬ力を発揮し、しかし…
元々の実力差を埋める特殊能力では無いからな、一時的に上回ってもすぐに元通り、では倒しきれない」
そう言い切った瞬間、デュリオンの姿が消えた。
全身に仕込まれた小型ロケットブースターが火を噴き、急激に踏み込む。
その瞬間的な加速により消えたように見えたのだ。
光学式魔導剣が牙王刃にぶつかり、火花をあげる。
デュリオンの左腕がブースターで更に加速し、魔導拳甲で殴りつける。
「物分かりのいい口は機械野郎の差し金か?嬢ちゃん!」
「ノンノンノン!『私達』は二人で一人!」
空いた左手でデュリオンの拳を受け止めたアスカは
デュリオンの顔に浮かんだ表情を見た。
キラキラとした子供のような表情で牙を剥く真島 鈴の表情とは裏腹に、
デュオクロスの冷静さは全く損なわれていない。
左腕の装甲が開き弾薬錬成式機関銃が火を噴く、
生身で弾丸を雨霰と受けてもアスカは動じない。
その様子を確認してすぐ小型ロケットブースターによる急加速で間合いを空ける。
「逃すかッ!」
「逃げるかッ!!」
右腕の装甲が開く。
現れた対物魔導小銃に光学式魔導剣を取り付ける。
両腕を突き出し、二つの銃口をアスカに向ける。
二重魔導核が生成した魔力を充填し、放つ。
それもまた破壊の閃光。
【機械仕掛の神特殊改修型】が放つ
【機神閃光】と同系統の光属性破壊魔術。
「【一斉掃射】!」
それは渾身の一撃。
一切合切の魔力を込めた、全身全霊の砲撃。
だがそれでも、「獣王」には届かない。
「【獣王無塵】ッ!」
光が削り取られていく。
当たった端から、力の奔流に呑み込まれ、散らされていく。
「獣王」の右手から発せられる異様な力が空間を、魔力を削り取っていく。
やはり「獣王」、その軍勢を統べるという点ばかり挙げられるが、一騎当千の将としての実力は確かだ。
「一瞬でいい!全部ひっくり返す!」
だが、デュリオンは折れない。
デュオクロスという鎧を纏った不屈の少女は、叶わぬ夢を強引に手繰り寄せる。
自らの魂を賭け、その力を行使する。
そうすれば、叶う。
不屈の少女が産まれ持った、魂を操る力を。
思い悩む優しい機械が手に入れた、限界を超える力に重ねる。
それは決まり切った結末を覆し、
凝り固まった世界を変える力。
「【運命を超えた世界へ】!」
光はより強く、世界を切り裂く。
それは「獣王」の技を持ってしても防ぎ切れない。
「面白え!【獣王】!」
二人で一つの合成機人はついに「獣王」の全力を引き出した。
後はもう、結果が出るまでわからない。
どっちが先に倒れるか、二人の勝負はそういう勝負になった。
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[悪夢の大迷宮]
風を感じる。
どう飛べばいいのか、何処に道が続くのか。
肌で風を感じて、舞う。
翼に風を受けて、高く、速く。
「嵐の災禍」から「私の風」へ。
【剣聖化】によって新たに目醒めた力は
鳥井 恵子を更に高い領域に押し上げた。
「とんでもないのが目醒めやがった〜!」
台詞とは裏腹にジスカ・ソルラは楽しげだ。
自らの翼であり鎧である「死体を飲み込むもの」と同じ、
【剣聖化】によって生じた新たな力。
その発現をジスカは喜んだ。
【剣聖化】は尊いものだ。
数多の剣士達が目指し、追い求める境地だ。
そこで目醒める力に貴賎はなく、強い。
ジスカの「死体を飲み込むもの」もそうだ。
孤立無援の状況下、敵地の真っ只中で。
本来の得物である魔銃は弾切れ、
戦利品であった【不可思議な宝物庫】に入っていた
「屍喰らい」を手に我武者羅に戦った。
極限状態の中、敵を斬り、「屍喰らい」が奪い取った食糧や回復薬を使いながら生き延びた。
盗賊、斥候職である彼女に剣術の心得は無い。
だが、彼女は戦う内に我流の剣を振るっていた。
剣を振るい続けて三日、仲間がようやく来た時には精神の限界を迎えて気絶した。
だが、その手に握った「屍喰らい」を離しはしなかった。
【死体を飲み込むもの】とはそれ以来の付き合いだ。
「闇夜の疾風」ジスカ。
風と闇の属性を持つ盗賊で、狙った獲物は逃さない。
その実力の程は「秩序の剣」の中では底辺である。
しかし、それは常軌を逸した集団の中では底辺であるという話。
「【亡霊の魔弾】!【疾風の魔弾】!
セット完了!【分身魔弾乱れ撃ち】!」
風と闇、二種類の魔弾が途切れる事なく連射される。
二つの魔銃から吐き出され続ける
二種類の魔銃が四方八方から襲いかかる。
「【天象風壁】!」
だが、その全て、一切合切を区別無く吹き散らす。
闇を纏おうが風を纏おうがそれは「弾丸」だ。
重力に逆らえずに放物線の弾道を描き、風に流される「弾丸」に過ぎない。
ならば、「私の風」には御し易い。
『我が翼よ、彼我の実力差は理解しているな?』
「わかってるよ「私の風」、【剣聖化】してもあっちのが強い」
闇と風を操り物理的な攻撃を喰らう「死体を飲み込むもの」。
風を支配する事に特化した「私の風」。
どちらも飛行能力と風属性を持つが、その性能には差がある。
その差をどう埋めるか。
少なくとも経験の浅い恵子では【剣聖化】の全てを引き出し切れない。
ジスカは本来戦闘能力に乏しい盗賊だが、
【剣聖化】と武器の性能を引き出し、操る事に長けている筈だ。
「それでも全力を出さなきゃ勝てっこない」
『そうだ、今こそ我らの力を試す時!
-我らが意を示せ!-【軍団の剣】!』
「嵐の災禍」本来の刀身、分割され、
独自に飛行する蛇腹剣の刃は一つ一つは小さい。
だが、複数存在するそれらから風属性魔力の刃が展開されれば、より驚異的な力になる。
「全方位攻撃!」
「私の風」と恵子の意思に従い、刃が舞う。
愚直に、複雑に、様々な軌道を描き飛び交う刃をジスカは迎撃していく。
迎撃に使われる【爆裂する魔弾】が【軍団の剣】を撃墜する。
だが、それでも尚二人の意思は止まらない。
遂に【軍団の剣】がジスカの動きを封じた。
「んなッ!?挟み込まれた!」
「貰ったァーッ!!」
風を纏い、翼が舞う、爆発的な魔力の高まりは誰の目にも明らかだった。
背中の翼が緑色に光り輝き、その力が解き放たれる。
「【風の翼】!!」
風の魔力の塊となって激突する究極の一撃。
一陣の風となり敵を討ち滅ぼす。
その一撃はジスカを捉え、確かに決まった。
迷宮の壁を幾つも突き破り、その突撃の破壊力はジスカさえ討ち倒すだろう。
「やれやれ…なんて馬鹿力だ、
とても【剣聖化】したてとは思えないポテンシャルじゃないか」
だが、そうはならなかった。
突撃の瞬間、ジスカもまた風を纏った。
球体の形に展開された空気の防護壁【風精の抱擁】。
風に優しく抱かれたジスカは
本来受けたであろうダメージを軽減したのだ。
【剣聖化】した人間の頑強さと相まって無傷に収まる。
本来敵の攻撃を受けず、躱し続ける盗賊の技量がジスカを助けていた。
「いやまったく、凄いお宝を見つけたもんだ…
値打ち物だよ、この英雄サマは」
ようやく見つけた真っ直ぐな英雄。
自らと同じく天を舞う新時代の英雄。
自らの最強最大の技で魔力を使い果たし、
【剣聖化】が解けた生身の少女が目の前に倒れ伏している。
その手には【嵐の災禍】を握り締め、
気絶して尚絶対に手放さないとわかる。
その姿が、ジスカにはとても好ましく思えた。
【不可思議な宝物庫】から瓶を取り出す。
コルクを籠手の鉤爪で抜き、中のワインを頭から被った。
「新時代の可能性に乾杯!」
【死体を飲み込むもの】がワインを吸収し、
ジスカもワインを浴びる様に飲む。
一人と一振りの祝杯は静かに、陽気に行われた。




