あたしはまだまだ暴れたい!
「とにかく、皆が無事で先生は嬉しいです」
クラスの担任がリカルドやジュリア含めたクラスのガキどもの無事を確認して安堵している。
あたし達は今、ようやっとはぐれ状態から学院?の奴らと合流したところだ。
「ねぇねぇリカルドくん、あなたの守護者って強そうね!」
「ものすげー手足してるよな!」
クラスのガキどもはどうやらあたしを見てもあまり動揺していないみてーだ。
「そりゃあ強いさ、彼の【機械仕掛の神】は古代の文献にも名のみ記された謎多き存在。
そのポテンシャルは未知数だけど、少なくとも私の【盤上の騎士団】【八人歩兵】が束になっても敵わない戦闘能力を見せてくれた。
……「彼女」は尋常では無いよ」
無警戒なガキどもを牽制するかのようにジュリアが言う。
あいつの兵隊は正直、あたしにとっては雑魚だ。
どうやら相当強いらしいが、スーパーロボットと化したあたしの敵じゃあないね。
あれから少しだが、わかったことがある。
一つ、あたしの身体はオリハルコンで出来ている。
なんでも、今のあたし、【機械仕掛の神】は神造兵器とかいう大層すげーものらしい。
伝説上、神が与えたとされる金属で出来ていて不思議では無いらしい。
要は、頑丈かつ伸縮自在ってこと。
喧嘩にはもってこいのスーパーロボットとなったあたしの強さは規格外らしいが、どうもタフさが売りみたいに思われてそうでイヤだ。
二つめ、疲れない!
これが一番嬉しいニュースだ。
どうやら本体が気絶しても勝手に出て来れるのが守護者というあたしみたいな特殊能力の特徴で、かなり無茶をしなければエネルギー切れにはならない。
しかも、こういうロボットにありがちなエネルギー切れに気付けないアホ仕様ではなく、感覚的にエネルギー残量が把握出来るのだ。
ロケットパンチはかなり燃費がいいし、どれだけ暴れても疲れは感じない。
疲れて動きの精彩を欠くのが喧嘩じゃ命取りになる、だからこれは素直に嬉しい。
この二つの利点が合わさればあたしはまだまだ暴れられる。
だが、喧嘩というのは数こなせば良いという物では無い。
最高の喧嘩と洒落込むには情報が必要だ。
相手が不良か否か、強いのか弱いのか、喧嘩するなら頻度は、その戦歴は?
あたしも現代社会に生きた身の上、情報の大切さは嫌という程知っている。
さっきジュリアと喧嘩出来なかったのは残念だが、ティリーの言う通りならこれから喧嘩する機会は多い筈だ。
そう、さっきのトロールを血祭りにした時もスカッとした。
命を奪う結果になったが、正直クセになりそうなくらいヤバかった。
快楽殺人者なんて面倒極まりないが、モンスターなら話は別。
弱肉強食の自然の掟、命のやり取りを望むなら正当防衛でサクッと解決だ。
「さぁみんなよく聞いてくれ!
今回の行事はモンスターの異常発生の兆候が見られるので中止と決定された!
時後は支度をして速やかにこの大樹海から離脱するぞ!」
担任の鶴の一声で、ガキどもはせっせと支度を始めた。
帰りも一波乱あると、あたしは嬉しい。
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僕ら学院生の移動手段は基本的に幌馬車だ。
馬車とはそもそも馬にひかせる物だけど、調教したモンスターや一部の特殊能力にひかせる事も出来る。
だから、学院生は基本的に幌馬車を借りるか買うかして移動手段として利用するんだ。
僕らの班も例外では無く、ジュリアさん(他人行儀にプレインズさんと呼ぶと怒られてしまう)の【盤上の騎士団】【双騎兵】が馬車を牽引している。
「この分なら我々が一番に学院に到着してしまうな、少し速度を落とすべきか…」
あまり先行しては周囲に迷惑をかける。
そう考えてジュリアさんは馬車の速度を徐々に落とし始めた。
「ジュリア様が周りに合わせるなんてぇ、しなくていい苦労じゃぁないですかぁ」
「全くだ、万死に値する」
ジュリアさんの家臣(親の代からの付き合いらしい)二人が辛口な意見を出す。
僕の班員は四人、ちょっとゆるい喋り方をする魔法使い見習いのメシエ・ファクトさん。
三角帽子と魔法のアイテムがトレードマークだ。
二人目に口癖が「万死に値する」でクラスではすっかりお馴染みの軽騎士、ナナイ・マテアルさん、いっつも鎧を着ている。
三人目が班長、実家は公爵家なのに僕の事を気にかけてくれる優しいリーダー。
ジュリア・チェス・プレインズさん。
学院広しといえど彼女の守護者【盤上の騎士団】に勝てる者は少ない、学院有数の実力者だ。
セミロングの髪に、キリッとした瞳は揃って綺麗な黒。
惚れ惚れする位綺麗な人で、正直落ちこぼれの僕によくしてくれる理由が良く分からない。
この三人のグループに僕が混ぜてもらって、僕ら一班だ。
周りのみんなからはハーレムとか言われているけど別にそんなことは無い。
ジュリアさん意外からは割と疎まれている僕は所謂お邪魔虫で、ジュリアさんが居ないと僕は相手にされない。
そんな事を考えている時だった。
突如、目の前の地面が隆起して、爆発する。
「なっ……」
驚きの余り声が出ない。
馬車はすぐさま方向転換するけど間に合わず、爆発に巻き込まれそうになる。
(死にたくない!誰か!誰か助けて!!)
頭の中で浮かんだのは情けない弱音。
こんな自分に嫌悪感を覚えーーー
(任せな)
突如として浮遊感を感じ、いつの間にか閉じていた両目を見開く。
爆発で木っ端微塵になった馬車。
巻き添えで倒れる【双騎士】。
爆発から姿を現したモンスター、死の行商。
人型の悪魔系モンスターで、商隊や馬車を襲う凶暴なモンスターだ。
そして、僕らを抱えて空を飛ぶ【機械仕掛の神】。
「たっ…助かったぁ?みたいなぁ?」
「ジュリア様を抱えて飛ぶとは不敬な…万死に値するが、しかし助かった」
「ありがとうリカルド君、後は私が何とかしよう」
「あ、あの…やっぱりコントロール出来てないんですけど…」
「「「え?」」」
その次の瞬間、やっぱり【機械仕掛の神】は敵に向かって突撃して行った。
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