力の証明
[グランス王国国立闘技場]
「さぁ!ここいらで予選のおさらいと行こう!
迷宮内部で手に入るアイテムを手掛かりに中心部の転移門を目指す参加者達!」
「だがしかしことはそう簡単に行かないのが世の常!
第一通過者の一人十魔第七席「幸運」セブンス・ラビットシンボルの反応を手掛かりに第六席「獣王」アスカが転移門周辺に陣を敷くーッ!」
「正に混沌の坩堝!その名も「悪夢の大迷宮」!実況は引き続き国立魔導学院学院長ナイアルが!」
「「時空紳士」ループマン!が!解説を担当するッ!」
テンションの高い実況席の二人は相変わらずに、
全世界に中継されている武闘大会予選は続いている。
迷宮を突破し本戦出場を果たした参加者は未だ三人。
「幸運」セブンス・ラビットシンボル。
「白の術師」オルフィネ・ウィドー。
「七聖刃」エクス。
これは大衆の予想を裏切る結果であった。
その原因は迷宮内部で「獣王」が参加者を多数蹴落としているからに他ならない。
「十魔の強さってのは噂以上だなー!」
「さっきので何人目だ?もう百はやられたろ?」
「「七聖刃」のエクス以外であれを切り抜けられるのかね?」
「人間じゃあ厳しいかもなー」
「「獣王」もそうだが【機械仕掛の神】が
「守護剣聖」と「斬魔剣聖」相手に暴れまわってるせいでかなり脱落してんぞ!」
「迷宮下層なんてもう海だぜ!?」
「「人魚の楽園」のマスターミナモはどこまでやる気だ!?」
誰もが好き勝手に予想し、愚痴を漏らす中でまた一人「獣王」の布陣に挑む者がいた。
戦いはまだまだ始まったばかり。
それこそこの予選は、人間の常識の範疇に収まらないのだから。
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[悪夢の大迷宮]
「〜〜〜……ッ!はっ!?あ、姐御!?姐御はどこにっ!?」
鳥井 恵子は吹っ飛ばされた先で目醒めた。
マキナ対ジェラルド・エレンの戦いの余波で早々にぶっ飛ばされた彼女は少しの間意識を失っていたのだ。
「よう、オメーもう平気か?痛みはあんのか?意識は大丈夫か?」
「え?平気っス…て、アンタ誰?」
恵子の顔を覗き込み、片手に水の入ったコップを差し出す男が一人。
「平気そうだな、ホレ水だ、飲んどきな」
「え、ああ、どうも」
恵子が脱落せず無事迷宮の中で目醒めたのはこの甲斐甲斐しい男のおかげに他ならない。
この男は吹っ飛んできた恵子を保護し、安静にした上で回復魔法をかけ続けていたのだ。
「俺の名前はアーヴァ、見ての通り悪魔だ」
「お、おう?」
恵子はアーヴァと名乗る男の姿を見て、衝撃を受けた。
確かにこの男は頭にある捻れた角、蝙蝠の翼、ズボンの穴から露出する尻尾がある。
ニカッと笑う口には白く輝く牙があるし、目つきもかなり悪い。
「気ぃつけろよ?おおかた向こうでやり合ってる奴らの戦いの余波で吹っ飛んで来たんだろうが、
この迷宮の中で人間社会のルールなんざ通用しねぇ、不意打ち上等騙し討ち上等、攻撃魔法には巻き込まれる奴が悪い!
そんな具合だ!さっさと転移門を見つけて本戦出場と行こうじゃねえの」
立てるか?と言いたげに差し出された手には彼のいう騙し討ちの気配がまるでない。
悪魔らしい見た目の癖に悪魔らしくない、それが恵子がアーヴァに抱いた印象だった。
「あー…気持ちは嬉しいけど、仲間がいるんだよな、合流したいからあんたと一緒には行けない」
「そうか、そりゃ残念。
困ったらいつでも召喚しな!召喚陣も対価もいらねぇ、【悪魔召喚・業魔】って言うだけで呼べるからよ」
同行を断ると彼はあっさり引き下がり、つらつらと連絡先(?)を述べて去っていった。
「な…何だったんだ?」
取り敢えず、恵子はベルトにさした魔剣「嵐の災禍」の安否を確認した。
柄に触れればカタカタと応えるように震える魔剣がある、恵子は安堵した。
譲り受けた時、ジュリアの父ライゾウ・キフ・プレインズはこの魔剣は人を選ぶと言った。
使い手として相応しくなければ命を奪われる、そういう自我を持った剣なのだと散々脅された。
だが実際持ってみればどうだ。
驚くほど手に馴染み、使い方もよく分かる。
まるで剣の方から合わせて来るような一体感。
恵子は「嵐の災禍」に愛着を感じていた。
この剣が何人の命を屠ったとか、もはや気にならない。
この魔剣を失う事は四肢を失うのと同じだとさえ思い始めていた。
「よおし、どうやって探すかな…」
魔剣の柄を握り、呟く。
魔剣が鞘越しに風を操り、気流から何かを読み取ろうとしている。
「風、か…そうか!【鋼の翼持つ者】!」
自らの特殊能力を使えば答えは一目瞭然。
空気の流れから近づく者、遠ざかる者の気配を掴む。
風を読むという新たな感覚に恵子は違和感を覚えず、すぐに己のものにした。
「姐御はまだドンパチやってんだな……
ん?妙に早い動きをしてる奴がいる?…ッ!」
「【北斗七星砲火】!」
「【東尋坊】ッ!」
剣を抜き放ち、迷い無く振るう。
吹き荒れる暴風が七連発の弾丸を逸らし、襲撃者の身体をあおる。
だが、襲撃者の身体を吹き飛ばせない。
むしろ風に乗って逃げる有様だ。
「逃すかっ!!」
翼を広げ、恵子も飛ぶ。
襲撃者の姿は女の様で、翼も無いのに風に乗って飛んでいる。
「いや待て…ある!透明な羽根で飛んでるのか!?」
「ご明察〜っ!中々いい風を吹かすねぇ君ってば!」
手に持った一対の魔銃から弾が放たれる。
恵子は「嵐の災禍」で弾を斬り払う、牽制に放たれた弾だとすぐにわかった。
「この無風の迷宮の中で飛ぶ奴がアタシ以外にいるとはな!」
「何様のつもりか知らないけどー、風との付き合いならこっちのが長いかんね!【斬撃の魔弾】!」
言うが早いか、放たれた弾丸は風に乗り軌道を変えながら迫る。
それを蛇腹剣として展開した「嵐の災禍」で斬り、弾く。
「むむっ?やっぱその剣値打ち物…ほうほう!魔剣「嵐の災禍」!
プレインズ公爵家秘蔵の魔剣が売り出されたなんて聞いてないけど、目の前にあるんだから関係ないね!」
「何が言いたい!?」
「おーっと、自己紹介がまだだったっけ?」
風に乗り、まるで自らも風の一部である様に自在に飛ぶ女は自らの姿を、全てを誇る様に手足を大きく広げる。
そうして高らかに名乗るのは彼女の規範。
獲物を堂々と宣言し、見事奪い取る「盗賊」の矜持。
「我が名は「闇夜の疾風」ジスカ・ソルラ!
狙うは金銀財宝、魔導具から魔剣に至るまでなんでも!
そしてぇ!今回の獲物はーーその剣に決めた!」
ジスカの名乗りの間に迷宮の影から弾丸が向かってくる。
風を感じ取ることが出来るようになった今なら対応出来るが、少し前の恵子なら対応不可能だった筈だ。
「堂々と名乗りながら不意打ちかよ!きったねぇ!」
「おろ?これもいなすって中々…あんまり遊んじゃいられないかな?」
「ふざけやがって!【天障風壁】!」
恵子は風の防御を展開し銃弾を逸らす策に出る。
機神の拳さえ逸らす魔剣の障壁にジスカは目を見張る。
(魔剣固有の防御能力!風の刃と圧力で生半可な攻撃は遮られる攻勢防壁!
チェスターは所有者を喰う魔剣だって言ってたけど、侵食が進んでる?)
「嵐の災禍」を始めとする名のある魔剣の類いはある程度その活躍から能力が解析されている。
「災禍」と呼ばれる魔剣は本人の意思を汚染し破壊と殺戮を齎す文字通りの「魔剣」。
今までの所有者も多くは魔剣に呑まれ、正気を失っている。
プレインズ公爵が魔剣を封印した理由はまさにそれだ。
力を求めて魔剣に手を出す者の多い中、封印措置を取ったプレインズ公爵はむしろ称賛された程だ。
その魔剣を年若い少女が手にし、自在に振るっている。
いや、もう既に「振らされている」自覚も無いのかもしれない。
そう考えたジスカの行動は早い。
「『魔剣を相手取るにはこっちも剣を』…あの戦闘馬鹿の言葉には重みがあるね〜【不可思議な宝物庫】!」
ジスカが虚空より剣を取り出す。
それは抜き身のロングソードで、刀身がいやに赤黒い剣だった。
魔剣だ。
手に握る「嵐の災禍」が同種の剣の存在を伝えていた。
「この剣が魔剣だってーのはわかるみたいだね…
剣としての格なら「災禍」にだって負けて無いよ」
その魔剣の銘は「屍喰らい」。
対アンデット戦にあってはその名の通り再生を防ぎ、削り落とすように肉を喰らう。
その効果はたとえ生者であろうと有効に働き、「喰ったもの」を持ち主の【不可思議な宝物庫】に転送することも出来る。
「金目のものは懐に、要らない肉は「屍喰らい」が喰う…だからかな?
「あたし達」は妙に波長が合うんだ、こんな風に!」
上から魔剣を手放し、自らの掌を落ちる魔剣の切っ先に差し出す。
そうなれば尋常の剣なら手を突き刺し、あまつさえ「屍喰らい」なら、その手を丸ごと持っていきかねない。
だが、そうならない事は「彼女達」がよく知っている。
魔剣はその掌にズブズブと飲み込まれ、消える。
「さあ、根刮ぎガッツリ頂こうか!「死体を飲み込むもの」!!」
ジスカの姿が一変する。
黒い翼を背中に、黒い鎧を全身に。
鎧全てが刃、即ち嘴。
死体を啄ばみ、喰らう為の口。
両手に魔銃、全身に魔剣、背に翼。
剣に宿る意思と自らを重ね、その力を何倍にも膨れ上がらせる奥義。
この世界ではそれを【剣聖化】と呼ぶ。
聖剣、魔剣、凡ゆる剣を持つ者が目指す極致。
「キミがその魔剣を持つに値するか?特別サービスで試してあげるよ!」
「秩序の剣」が一人、「闇夜の疾風」ジスカ・ソルラ。
いや、「邪鷲剣聖」ジスカ・フレースヴェルグが試す。
新世代を背負うに足る、その資格を。
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一方で、もう一つの戦いは激化の一途を辿っていた。
「ヒャッハハハハ!!いいねぇ先輩方よぉ!こんなに楽しくやれる喧嘩は初めてかもしんねぇなぁ!!」
マキナは笑っている。
それは破壊を愉しむ狂気の笑み、力を振るう愉悦に浸った笑み。
しかし、マキナの芯は変わらない。
【極限遊戯喧嘩上等仕様】へと権能変更して破壊の力を全力で振るえるようになった。
今や宙に浮いた状態だった破壊神の権能は全てがマキナに収束している。
「マキナ様!それ以上は御身体が!」
「黙ってなディア!生まれて初めて…いーや、二度目の死線なんだ!堪能させてもらう!」
ディアの言う通り、マキナは既にボロボロの状態だ。
守護神であり、「守護聖剣ガーディアン」を持つジェラルド・エヴェ。
悪魔軍最強の将と目される「魔帝剣エンペライズ」を持つエレン・エヴェ。
二人は今、【剣聖化】によって自らの力を高めてマキナに相対している。
元々の剣に宿る剣の意思、器たる剣の銘ではなく剣の意思を指し示す名を理解し、そこに秘められた更なる力を呼び醒す。
エヴェ流戦闘術の始祖であり、後の世後の邪神の乱を見据えた超常の天使ギクス・エヴェ。
彼女が守護神剣に宿した世界救済の意思、理想を理解して覚醒した「始祖の再来」。
魔界にあって騒乱の中心にあり、手にした者の肉体と精神を蝕み、恐るべき魔王を生み出し続けた魔帝剣。血塗られた歴史を持つその剣が、真に志を共にする友を求めていた事を理解し、受け容れて覚醒した「親愛なる友人」。
破壊の権能を守護の権能で防ぎきられ、魔帝の名に相応しい苛烈にして多彩なる攻めをもってして、漸くの互角。
二人の英雄が奥の手である【剣聖化】を使わざるを得ない状況にまで追い込まれたのだ。
「やはり貴様…オウギュストの娘だな、末恐ろしい奴だ」
「全くだ!邪神の奴と戦った時と遜色ないぜ」
「ベタな褒め方はやめな!どうせそん時は六人全員揃ってたんだろ?とんでもないのはあんたらのほうだ!」
「貴様がこの世界に来てどれくらいだ!?短期間に我々に匹敵する力を身に付けているんだ!イヤでも褒めたくなるわ!阿呆が!!」
マキナの反論にエレンは苦い顔で返す。
対するジェラルドは相変わらず朗らかな笑顔だ。
「そう怒るなってエレン!俺としては真希波が人間のままでどこまで行けたかが気になるがな!」
「で?まだやんだろ?やろうぜ!こんな物騒な力だ!
守護神みたいなのが居ないと思いっきり振り回せねーしなぁ!!」
「人の旦那をミット打ちの相手みたいに!!」
「あ!?あんたら夫婦か?マジか?若過ぎんだろ…」
「お前の居た世界とは法律が違うんだよ!あと俺達は二十歳過ぎてんだ!
天使やら悪魔やらになると肉体の成長止まるんだよ!」
軽口を叩き合いながらも三人の攻防は止まらない。
神剣が、魔剣が機神の装甲とぶつかり合う。
機神の拳を守護神の障壁が妨げ、二人の剣の突きが顔面に叩き込まれる。
【剣聖化】したエレン・リィリスが纏う魔装の胸部の魔眼が怪光線を放ち、機神の動きを封じ込める。
力押しで麻痺を振り切ったマキナにジェラルドのカウンターが突き刺さる。
だが、マキナもやられっぱなしではいない。
カウンターを貰いながらジェラルドを殴り飛ばす。
「ちっ!もういい加減にやめにしないか?」
「冗談!まだまだ付き合って貰うぜ!」
「ジェラルド!コイツはとんだ藪蛇だった様だな!」
「まったくだ!」
神域の戦いは続く。
戦乱の狂喜に魅せられた神が満たされるまで。
1/28.守護聖剣が守護神剣と誤記されていたので修正しました




