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英雄達

かつて、邪神が世を乱し、世界は破滅への一途を辿っていた。

そんな中、遥か海底から蘇った魔科学の島、「浮遊要塞アルティマ」


過去の遺産を求め世界から集まった冒険者達の中から、

要塞の管理者たる精霊ネビュラが選定した六人の若者たち。


シャイニィ聖王国所属、

「対人無双」アルザン・エヴェと「紫電の戦乙女ライトニングヴァルキリー」アースラ・エヴェの息子。

エヴェ流戦闘術の正統なる後継者、

「エヴェの太陽」ジェラルド・エヴェ。


聖王国における魔法使いの名家ソルラ、全ての属性を操る稀有なる魔術師。

「ソルラの太陽」チェスター・ソルラ。


アルクネス魔導帝国所属、武官の家系にして呪術のエキスパート。

「呪刻」エレン・ストラ。


シャイニィやアルクネスを散々荒らし回り、

遂にアルクネスにて御用となった大怪盗。

「闇夜の疾風」ジスカ。


諸国を旅する遊牧民族ウィドーの族長の娘。

被った猫に騙された男は数知れず。

「麗しの姫君」或いは「鞭を振るう僧侶」オルフィネ・ウィドー。


魔物と心を通わし、従える才能の持ち主。

目指すは「獣王」、その名に相応しい力を求める女。

「魔獣使い」アスカ。


邪神の手によって迫る世界の危機を知らされ、

過去から託された魔科学の遺産を委ねられた六人。


それぞれの望み、そして邪神の暗躍。

国が、育ち方が、価値観が違う六人は纏まりきらず、

精霊ネビュラは自らの、ひいては主人の計画が失敗するかとも思った。


「みんな来いよ!果樹園の桃の花が良い具合だぜ!」


そう言って他の五人を引っ張ったのはジェラルド・エヴェだった。

ネビュラの主人であるギクス・エヴェの子孫。

その姿に、纏う気配に誰もが呑まれた。


穏やかであり、時に非情な戦闘者であり。

しかし、無意味な死や恐怖を振り撒く邪神に対して明確に敵意を抱くこの若者の、

少年の様な純真さが、突然知らされた危機に戸惑う五人を引っ張った。


「俺のご先祖様が語った事なんだが、生まれや育ちの違う三人の(つわもの)が兄弟になって国を作る…

そんな別世界の神話があるらしい。

その神話に「桃園の誓い」って場面があって、この果樹園なら御誂え向きだと思ってさ」


五人の前に広がるは満開の桃の花と、

小さなテーブルに置かれた酒と六つの盃であった。


「成る程…世界の危機を防ぐべく我々は団結せねばならない…その決断を示す席という訳か」


ジェラルドをライバル視するエレンの口からそんな言葉が出て、ジスカが笑う。


「にゃはは、中々ロマンチストだねぇ?」

「ジェラルド、子供っぽいからね」


チェスターがしみじみと語り、オルフィネがくすりと笑う。


「でもいいの?誓った所で裏切らない保証はないのよ?」

「後のことはわからないさ、でも俺はみんなを信じたい!

みんなそれぞれの願いを叶える為にも、邪神なんかにこの世界を滅茶苦茶にされちゃあ堪らないからな!」


熱く語るジェラルドに同調し、アスカが盃に酒を注ぐ。


「いいじゃねぇの…乗りかかった船ってヤツだ!

邪神だろーが何だろうがブチのめしちまおうぜ!」


ジェラルドの熱に感化され、六人が盃を取る。


「良いだろう…ジェラルド・エヴェ、ならお前が我々のリーダーだ」

「いよっ!おだいじーん!」

「やれやれ…ちょっとした家出のつもりが大冒険になりそうね」

「ジェラルド、初めてよ!」


五人の声を受け、ジェラルドが盃を高く掲げる。

それに倣って五人の盃が掲げられた。


「天に在る我らが祖霊に誓う!

我ら六人!生まれや育ち、望み…何もかも違えども!

世界を救い、守る…その成就の為に!

せめて死ぬならば太平の世で…

死ぬときは同じである事を願う!」


この日、英雄が生まれた。


後に邪神を討つ、地上に生きる全ての生命の希望。


邪神討伐を成し遂げた英雄達の、その結束は強く、固く。


例え死んでも…永い時を過ごしても。

その結束は、誓いは、揺るがない。



#####



[悪夢の大迷宮]



轟音が響く、無限軌道が唸りを上げ、迷宮を駆ける。

一つ、また一つと壁を破壊し、真っ直ぐに中心部を目指す。


それは兵器だった。

神でありながら、しかし同時に悪魔でもある兵器。


機械仕掛の神デウス・エクス・マキナ撃滅と蹂躙の戦車イモータルデストロイヤー


それはあまりにも強大で、脆弱な人間が立ち向かうには少々神々しく、また禍々し過ぎた。


人智を越える超常の戦車が迷宮の壁を突き破り現れる度、

ある者は恐れ、ある者は平伏した。


「姐御ぉ!そんなインチキみたいなのありかよぉ!?」

「いーんだよ恵子ぉ!壁を壊しちゃいけないってルールはねぇからな!!」


「リカルド君!キミはマキナさんの暴走をなぜ止めない!?」

「いくらジュリアさん相手でも遠慮しませんよ!」


そしてある者は呆れ、諌めようとするもその兵器は動じない。


「てめぇら甘いぜ!これは喧嘩じゃねぇが、競争だ!

参加者同士がぶつかり合う戦いなんだぜ?

…全力出すなとか、手加減しろってのは御門違いなんだよ!」


偉大なる破壊者グレイトデストロイヤー】を振るい迷宮の壁を容易く破壊し、前進する。

その姿はまさに暴虐の化身、破壊の象徴のようである。


その前進は誰にも止められないかと思われた。

だが、ここは「悪夢の大迷宮」。

参加者全てが魔物であり、罠であるこの迷宮において

その被害を被るのは神でさえ例外では無い。


「【光龍斬空刃】ッ!」

「【冥龍斬空刃】ッ!」


迷宮の壁を突き破り現れたのは「守護剣聖」ジェラルド・エヴェと

「斬輝剣聖」エレン・リィリスの二人であった。


聖剣と魔剣で打ち合い、弾き合う怒涛の高速剣戟。

属性違いのエヴェ流戦闘術を繰り出す二人は迷宮の壁どころかマキナ達すら意に介さず戦い続けている。


「ぬあっ!?あぶねー!」

「マキナさん一旦迂回しよう!ここで消耗するのは得策じゃないよ!」

「チッ!そうかよ!」


天井に【飛翔鉄拳(ロケットパンチ)】を叩き込み、一つ上の階層に移動する。


「【天昇光龍剣】!」

「【冥龍崩天撃】!」


しかしマキナを追うように二人は奥義によって跳び上がる。

容易く破壊されていく迷宮に関心も寄せず、二人の剣聖は技の応酬を続ける。


「やっぱそうなるか…リカルド!」

「【六連腕部装甲(アシュラアーム)】接続ッ!」

「【機神六連閃光(セクスマキナビーム)】!!」


リカルドが武装を呼び出し合体させる。

阿吽の呼吸で行なわれた動作に淀みはなく、流れるようにして破滅の閃光を解き放つ。


尋常の相手ならばそれでおしまいだ。

だが相手は守護神ジェラルドと上級悪魔エレン、数多の戦場でぶつかり合った歴戦の戦士である。


「【守護光翼陣】!」

「【魔眼光線(ゲイズビーム)】!」


守護神ジェラルドがその刃のような翼を広げれば機神の放つ破滅の閃光は悉く防がれてしまう。

そして悪魔エレンは手にした魔剣の鍔にある不気味な眼から放った光線で反撃を繰り出す。


この時【守護光翼陣】は敵であるはずの悪魔も範囲に収め、

悪魔は防御を全く考えずに攻撃を放った。

まるで「互いにどう動くか知っている」ように。


マキナは反撃の【魔眼光線(ゲイズビーム)】を振るった左腕で払うと、二人を見据えた。


『俺の友達にはいつまでも新婚みたいな夫婦が居てだな…』


思い起こすのは父、オウギュストが酒に酔って語った話。


『かなり連携の取れた二人でな、どんな困難でも二人背中合わせで立ち向かうのさ…』

『喧嘩友達?』

『そう、最高のな…旦那の方がジェラルドで、奥さんがエレン。

ジェラルドは太陽みたいに笑ういい奴でな…

敵味方以前に、無意味に誰かが傷つくのを嫌う奴だ』

『じゃあ、奥さんも?』

『エレンの奴は日本刀みたいな奴でな…

清廉で実直、しかしいざやるとなったらどんな手でも使う。

普段は正々堂々って顔してるんだが、それが逆に気に入ったんだな』


朗らかに笑う父の顔、言葉から伝わる二人の姿。

目の前に立つ二人の姿がそれに重なって、違和感を齎らす。


「芝居は辞めてくれ…親父の言う親友の一人がアンタみたいな妖刀染みた女とは思えない」


マキナはエレン・リィリスに違和感を感じていた。


ディアが語った、悪魔の中でも有数の実力者。

「色欲」の悪魔らしさを感じる妖艶さとは裏腹に、情け容赦の無い立ち振る舞い。

その姿は確かにディアの語る悪魔そのものだ。


だが、父が語った友人エレンと似ているのは髪の色が緑、くらいのものだ。

こちらの世界に来る前は「頭を緑に染めるとか、旦那もよく気にしないなー」

とは思ったが、今にしてみれば納得できる。


しかし、ファンタジー極まりないこの世界であっても緑色の髪の毛で、エレンという名前の女が何人いるのか?


髪色のパターンが多いこちらなら、エレンという女であってもそうそう被るとは思えない。


そして、ジェラルドという男の存在。

最早無関係であるとは到底思えない。

天界と邪神軍という敵対する組織の一員である事にも何か裏がある。

そうマキナは感じていた。


「そうか…お前がオウギュストとアズサの娘か…

アズサに似ているとは思っていたが成る程。

まさか特殊能力(アビリティ)になっていたとは聞かなかった」

「生憎、向こうで死んだら縁あってリカルドの守護者(ガーディアン)になって〜、

なんて事情はつい最近の事情だからよぉ、知らなくて当然かもな」


エレン・リィリスの手にする魔剣の眼が輝き、その姿が揺らぐ。

するとどうだろうか、見た目のみならず身に纏う雰囲気すら変わっていく。


妖刀のような妖しさ、美しさは嘘の様に消え去り、

隠されていた本来の姿が露わになる。


凛とした佇まいに隙はなく、無駄な色香を感じない。

しかし対峙した誰もがその美しさに目を奪われる。


彼女の纏う気配は強大で、しかしとても「静か」だ。

抜き身の刃のような危険性は感じられない、だが隙を見せれば斬られる、そう感じさせる力がある。


オウギュストが日本刀と評するのも頷ける。

目の前の悪魔は居合の構えで構えられた刀なのだ。

それも、敵を斬る為ならどんな小細工でも使う剣士が使う様な。


「身内以外に我が友…「業魔剣リィリス」の偽装を見破ったのはお前が初めてだ、神崎 真希波」

「聞いた話じゃあ「色欲」の悪魔だって聞いたが…

その様子だと何の悪魔だ?「傲慢」か?」

「残念だが七つの大罪に属する魔剣ではない…お喋りが過ぎたな」

「いいじゃないかエレン、何もあいつを理解する術は戦うだけじゃない」

「理解だぁ?」


ジェラルドの言葉をマキナが聞き返す。

エレンが口を開こうとするジェラルドを止めるが、逆に後ろから抱き竦められて腕を封じられてしまう。


「俺達は「秩序の剣ソード・オブ・コスモス」。

天界、魔界、人間界に散らばって不穏な兆候を探る…ま、自警団みたいなモンさ」

「随分と手広くやってるじゃねぇか」

「まぁな、みんなして力が有り余ってるから手広くやれるのさ」


朗らかに笑うジェラルドの姿は戦う様にも、神の様にも見えない。

だが、片手に握った剣とその未知数の力の気配は隠しきれない。


「俺達は人間辞めるまでに色んな奴と戦ってきた、オウギュストとも戦った。

その中でも一番面倒で厄介なのが邪神オメガディアスって奴だった」

「一応知ってるぜ、悪と破壊の権能を持った邪神…

世界を破滅させようとした快楽主義者だって」


マキナは自らの力となった破壊の権能を微かに現出させる。

その力は模擬戦の時よりもずっと強く、強大になっている。

まるで、何処からか集まって来たかのように。


「ちょっと前に降って湧いたこの力…あんたらの目当てはこれだな?」

「ご明察、とでも言って欲しいのか?」


エレンが油断なく剣を構える。

それを見てマキナは自らが手にした力がどう扱われているかを実感した。


「破壊の権能は邪神が一度討たれた後、世界に散った…相応しい神も、資格ある者も居なかったからだ。

だが、貴様が現れてしまった」

輪廻神(ティリー)のやつが世界樹の御子に憑けるのにいい魂を見つけたとは聞いていたが…

まぁ、期待以上の結果を出した君をだ、破壊の権能を手にしたからといって失うのは惜しい」


エレンは相変わらず油断なく、しかしジェラルドは柔らかに構える。

マキナの眼にはまるで静と動、対を成す阿吽の仁王像の様に見えた。


「俺達なら本気出せばあっという間にゴール出来るさ、だから…」

「本気で来い、此方も本気で行く」


ジェラルドが剣を構え、エレンと合わせる。

ただそれだけだ、先程の様に術技を繰り出した訳ではない。


だが、それだけで威圧感が増していく。

二つの力が互いを高め合い、一つになる。

誰が見ても明らな程強く、危険な組み合わせ。


「頼もしいじゃねぇか」


しかし、それでも神崎 真希波は笑う。

降って湧いた力に対して、試してみたいという気は確かにあった。

模擬戦の時はまだ制御が出来ていたが、日増しに大きく強くなる力をぶつける先を探していた。


血は戦いを求め、更なる高みを目指す。


なんだかんだと大義名分を得て、筋の通った喧嘩をする。

強い力を持つ者には責任が伴う。

それを放棄すれば即ち無法、父も自らも嫌う単なる暴力となる。


全ての条件を整え、何も気にせずに喧嘩をする、

それのなんと心地良いものか!


「胸貸せや先輩ッ!」


二組の神と悪魔がぶつかり合う。

迷宮の一角が黄昏色に染まる。


その規模は最小にして危険性は最大、

前代未聞のラグナロクが今、始まる。


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