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闘いの祭典

[グランス王国国立魔導学院、学院長室]



大武闘会の開催日が近づいている。

その事実をまざまざと見せつけるかのように王都はより賑やかになり、人でごった返している。


今回の大武闘会は例年よりも参加者の層が広く、加えて名だたる実力者達がこれでもかと言うほど集まってきている。


「今年の大武闘会はエライ事になりますねぇ…」


魔導学院の長であるナイアルは例年通り大武闘会の実況を担当する。

彼は本来学院の長などよりもこういった大会の実況者として名を馳せた男であった。


それが「暴虐王」の采配によって今の立場に収まったのだから周囲の反発ももっともである。

だが、結局は「暴虐王」の名の下に反対意見は粗方押し潰されて今に至る訳だ。


兎にも角にもナイアルにとって一年振りの本業である。

肩に力が入る様な事は無いが、気合が入るのも無理は無い。


「ナイアル、居るか?入るぞ」


学院長の部屋に返答も待たず押し入るのは「暴虐王」ただ一人。

の、筈なのだが今日に限っては人を伴っている。

護衛も付けずに国中を闊歩する「暴虐王」にしては珍しい事だ。


「おやおや王様、相変わらず強盗みたいですねぇ?

僕に何かお申し付けですか?」

「なに、大武闘会の解説をこいつに任せたいと思ってな」


ナイアルは連れてこられた人物に視線を向ける。

シルクハットにタキシード、にも関わらず肌の色は小麦色だ。

おまけにサラッサラなストレートの金髪は光を受けて煌めいている。

口元は微笑みの形に整えられ、如何にも胡散臭いというか怪しい。


だが、この世界の誰もが知っている。


理不尽な世を嘆く時、いつの間にやら現れる。

誰もが人生で一度は出会っていて、誰もが一度は救われる。


「絶望の淵に立って網を張る男」

「天使や悪魔より身近な隣人」

「永遠の男」

数多の奇跡を成し遂げる彼を人はそう呼ぶが、彼はたった一つの称号と暗号名(コードネーム)しか名乗らない。


「時空紳士」ループマン、時空神クローニアの懐型にして世界最高の切り札(ジョーカー)がそこに立っていた。


「やあナイアル、久し振りだね」

「ループマン!ループマンじゃあないか!」


そう、ナイアルとこの怪しい風貌の紳士は旧知の仲だ。

ナイアルは平民で、大した血筋の人間では無い。

だが、彼には時空魔法の適性があった。


時空魔法とはその名の通り、

時と空間を司る時空神クローニアとその眷属しか扱えぬ秘術である。

使い方を誤れば命を落としかねない魔法属性だが、本来人に扱えるものではない。


ナイアルはその時空魔法を不幸にも暴走させてしまい、

そこをループマンに助けられたのだが後遺症が残ってしまった。


老いぬという事、それこそがナイアルの後遺症だ。

時空神クローニアには温情を頂き、簡単な時空魔法を扱える様にしてもらった。


つまりナイアルにとってループマンは恩人であり、時空神の眷属としての同僚でもあるのだ。


「今回は僕が解説役を仰せつかったのさ」

「珍しいねぇ、クローニア様以外からはどんな神に指図されても突き返す君が」

「フン…指図したのは俺ではなく時空神本人だ」

「僕が死人の時間をチョイといじれば死人になる未来を変えられる…

相変わらずクローニア様の慈悲深さには畏敬の念を禁じ得ないさ!」

「あはは、君も相変わらずな信奉者ぶりで安心したよ」


世界を司る三柱の神々たる時空神、創造神、そして今は邪神に堕ちたる破壊神。


この三柱の神々の内最も秀でた神である時空神の眷属二人の和気藹々とした様子を前にして、

若干の疎外感を覚えるのは例え神に匹敵しようが一国の主だろうが関係は無いのだ。


「暴虐王」の名にそぐわぬ感傷に浸りながら、この一時はただのアキラ・フドウとして感傷に浸ろう。

アキラ・フドウはそう思った。



#####



「時空紳士」の称号は伊達では無い。

このループマンという見かけこそ怪しい紳士は時空神の眷属として活動している。


未来を確定させたものを現在とし、

現在から過ぎ去ったものを過去とする。

幾多に分岐する未来、世界が選んだ未来の先にもしーー


人の手に負えぬ終焉が訪れるのなら、どうすれば良いのか?


ーーその答えこそこの男の存在意義だ。


過去に飛び過去を現在とし、そこから新たな未来へと世界を導く。

そのついでに人の手に負えぬ難題に手を貸すのもまた、このループマンの仕事なのだ。


故にその知識は多岐に渡り、情報量も馬鹿にならない。

だからこそ思い出話や土産話に相当な時間を割き、本題である大武闘会の話に入るのに5時間程かかった。


「さて、漸く本題に入るが…

今回の大武闘会には面倒な面子が集まっている、今回に限って、だ。

恐らく邪神軍の活動もあるだろう、天界の奴らも確実に対処に出てくる。

グランス王国としては大武闘会を成功の内に終わらせたい、頼めるな?」

「もちろん、「暴虐王」の命とあれば」

「このループマン、忠誠は時空神(クローニア)様に捧げた身だが…

「暴虐王」にその力を貸せとは他ならぬクローニア様の命、その仕事を引き受けよう」


来る開催日に向けて運営側も着実に準備を進める。

天使も悪魔も関係なく、開かれる闘いの祭典のために。



#####



[グランス王国国立魔導学院、学生寮]



「いよいよ始まるんだね…」


月を見上げてリカルドは呟く。

誰ともなしに溢れた言葉を返すのは小さな影、世界樹の器、「白き華の少女(ホワイト・アルラウネ)」ベアトリーチェ。


彼女はその力を使いリカルドの元に現れ、こうして何気なく語りかけてくるのだった。


「ねぇねぇリカルド、リカルドは優勝してどうしたいの?」


世界樹の精霊マグナの器であるベアトリーチェには、器として相応しい「力」がある。

それは世界樹へのアクセス権限であり、精霊マグナに続いて二位の権限を持つという事。


彼女か、彼女が愛するリカルドを掌中に収めればこの世界における数多の情報を我が物にできる。


世界樹の精霊であるマグナでさえ、器であるベアトリーチェを押さえられれば手出しは出来ない。

その情報を手にした者が得るのは、敵対者の弱点か、世界の真理か、上位存在へと至る道標か?


ともかく、それが悪意ある者の手に渡る様な事になれば世界は傾く。


それを「気に入らない」マキナには優勝よりも、強者との戦いや悪魔やら何やらの妨害などが目的と言える。


では、リカルドには?

この無垢な少女はそれが気になって仕方が無い。

「君を守る為サ」なんて甘い言葉が聞ければ花マルだろうが、リカルドは根が真面目だ。

多分その様な台詞はその口からは出てこないだろう。


「僕か…僕はねベアトリーチェ、ずっと君に選ばれた事が不思議だった」


リカルドが語る言葉にベアトリーチェは驚く…

彼女がリカルドを愛する理由など簡単だ、一目惚れの様なものだ。

その際たる理由は、彼が先祖返りを起こした血と魂の持ち主であり、世界樹と繋がりやすいから。

要は動物が優れた伴侶を探すのと似ている。


「でも僕には濃い血と、強い魂があるってディアが教えてくれて…漸く納得した」

「言わなかったっけ?」

「言ってないよ…でも、それで良かった。

僕は何も出来ないと思っていたけれど、僕にも出来る可能性があるんだって…マキナさんとディアが教えてくれた」


マキナという力、ディアという力。

最初こそ無力な自分に過ぎたものと思った。

しかし、自分にはまだ可能性があるのだと、与えられた力に相応しい自分になれるのだと、今ならわかる。


「僕は優勝して…誰の文句も言わせない、次期族長に相応しい男だって証明してみせる」


血と魂の質だけで惹かれたリカルドがいつの間にか逞しくなっている。

そんな姿を見てベアトリーチェは微笑むのだった。



#####



[グランス王国、国立闘技場]



その日は世界各国からグランス王国に人が集まっていた。

世界最強の強者を決める戦いの為、グランス王国に繋がる転移門を潜る人々の中に目立つ男が一人。


真紅のローブを身に纏う白髪の魔術師、世に名の知れた「紅の賢者」である。


「はぁ…や〜っと着いたねぇ」

「仕方がないじゃないか、転移魔法使ったら家の場所がバレるかも知れないし」

「それはそうなんだけどね〜?」


隣を歩く若い女は「夜風」を名乗る怪盗である。

この二人はかつての邪神討伐メンバーであり、

今は世俗を離れて山中に建てた洋館に隠れ住んでいる。



「守護剣聖」「斬魔剣聖」「獣王」「闇夜の疾風」「紅の賢者」「白の術師」

六人の英雄達の名は長い時を経て、今はその称号のみが伝えられるばかり。

しかし、その全員が人間の枠を超えて今なお生きているという事実はあまり知られていない。


「紅の賢者」「白の術師」は現代においても尚様々な功績を残してる。

六人の英雄達の中では知名度の高い二人と言える。



白髪に真紅のローブというのが「紅の賢者」の基本スタイルであり、憧れて真似る魔術師も多い。

だが、誰もが真似できない点が一つ。


異界宝杖「レーヴァテイン」

かつての魔科学技術によって異界神話に剣であるとも杖であるとも語られたものを形にした武器。


邪神討伐において語られる最大の合体技、エヴェ流戦闘術奥義【神威八百万総神撃】

その発動の為にエヴェ流戦闘術奥義を体得した「紅の賢者」の為に

通常時は杖、任意で弓、槍、剣へと自在に変形する魔科学の真髄をもって造られた宝杖なのだ。


例え見た目だけ真似ても、その杖の高度な機構までは模倣出来ない。

技術的な差があり過ぎるからだ。


「レーヴァテイン」は所有者の魔力を吸い、その魔力と同じ色の炎を灯す。

虹色に揺らめく炎は十の属性を操る「紅の賢者」が手にするからこそ。



つまり、目立っている。

比類なきまでに目立っている。

国際的映画スターが最近話題の映画で演じた役の衣装そのままで空港に現れた様なものだ。



「ねぇチェスター?それ(レーヴァテイン)仕舞わないの?」

「馬鹿言わないでよジスカ、僕の真似をする偽者扱いは流石に屈辱的だからね」


「紅の賢者」チェスター・ソルラと「闇夜の疾風」ジスカ・ソルラ。

かつての時代にシャイニィ聖王国に産まれた英雄と、その伴侶となった怪盗。

現代においては誰をも圧倒する力を持つ二人は悠々と闘技場の中に向かって歩く。


強者と相見える為に、その中に必ずいるであろう英雄(とも)と再会する為に。



#####



闘技場の中にはもう既に多数の観客と約五千人に膨れ上がった参加者が集まっていた。


参加者達は皆闘技場の舞台に集められ、予選前の交流が始まっている。



参加者はまさしく玉石混交、「紅の賢者」「夜風」と異名を持つ万夫不当の大英雄も居れば、無謀にも冒険者始めたてという様なルーキーまで。


そんな中、既に火花を散らしている集団があった。

「守護神」ジェラルド・エヴェ率いる天界の勢力、

対するは「斬輝剣聖」エレン・リィリスを擁する邪神の勢力である。


今はそれぞれ人間の姿をしているが、わかる者にはしっかり判別できてしまう。


「これはこれは…皆さんお揃いの御様子、腕試しですかな?」


右目に片眼鏡(モノクル)をかけたいかにも悪役然とした男、

傲慢の悪魔であり邪神軍第一師団師団長であるゲイラ・プライドである。

かつて邪神が健在であった頃よりその地位にあり、

弱体化した邪神軍を統率する実質的なリーダーといえる。


「いいや…お前達悪魔の動きを見張るっていう目的もある」

「おお…それは怖い」


ジェラルドはゲイラを睨みつけ威圧するが、ゲイラは余裕そうな笑みを浮かべるばかり。

何かいやらしい策でも用意しているのだろう事は容易く予想出来る。


今の邪神軍の中でも実力派の悪魔のみこの場にいるという観点から中級あたりの悪魔が世界の闇に紛れ込んだ可能性は高い。

だが今ジェラルドが注意すべきは目の前の悪魔が何を企んでいるか。

それ以外の悪魔は他の天使に任せるしかない。


「流石の我々もこの国では迂闊な事はしない…が、精々無駄な努力をする事だ」


差し当たってジェラルドは目の前で挑発を続けるゲイラを無視して他の悪魔を確認する。

ライバルである「斬輝剣聖」エレン・リィリスを始め、拘束されている悪魔や実力のある悪魔を見定める。


拘束されている悪魔は強いが、制御が難しいのだろう。

実力のある悪魔を見分けるのは簡単に出来るが、観察する限りではそう数は居ない。

少数精鋭で予選を勝ち抜こうという魂胆なのだろう。



グランス王国で大武闘会を開催する場合、その選手層は多様化する。

「暴虐王」の目が届く為、悪魔が参加可能であるという点が他国の武闘会との一番の差であろう。

それ故に規模も話題性も他国とは比べ物にならない。


当然、その選手層の多様化によって例年様々な予選が企画されており、今年の予選の内容については未だ明かされていない。



『御来場の皆様、大変長らくお待たせ致しました。

これより開催式を行います』



来た、観客席の観客達と舞台の参加者達の視線が貴賓席の「暴虐王」に集中する。

威風堂々、玉座より立ち上がった「暴虐王」は拡声器の類を使わずにそのまま語り始める。


「よくぞ来た!命知らず共よ!!」


その瞬間、世界が揺れた。


五千人の参加者達の、それ以上に集まった観客達の怒号の様な歓声。


「今回の大武闘会はこの地上全ての街に中継されている!

つまり、勝者も敗者も関係なく貴様らは世にその姿を曝け出す!

精々己の身に恥じぬ戦いをするがいい!!」


世界に名が広まる、その事実に尻込みする様な者には惨めな敗北が待っている。

無慈悲な宣言の前に奮い立つ者、自らの手の内を曝け出す事に抵抗を覚える者、様々な者が居る。


だがしかし、そこは栄誉と望みを求めてやって来た「命知らず」達である。

利害と天秤にかけたとしても、己の望みには変えられない。


「予選を通過出来るのは百人!貴様ら五千人にはこの限られた枠を争ってもらう!

予選形式はこの後、改めて発表される!

ここに大武闘会予選の開催を宣言する!!」


弱者は淘汰され、残った強者のみが本戦に出場できる。

勝利の栄光を得るのは天使か、悪魔か。

それともーーー



「ウッシャァァァァッ!!血祭りにあげてやるぜぇぇぇ!!!」

「我が神に戦いの歓喜を!!我が主に勝利の栄光を!!」

「……勝つのは、僕だ!」



今はまだ、その結末を誰も知らない。

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