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混沌の宴

リカルドの故郷、森都ユグドラシルを有し、絶対なる審判を行い世界の法を取り仕切る国、「法国家」グランス王国。

建国の主にして800年の時を経てなお生きる「暴虐王」アキラ・フドウ・グランスが治める国。


北の大陸より来る氷の魔物に抗い続け、高い国家防衛能力を誇る厳寒の国、「要塞国家」グラキエス王国。


創造神アルファディオスを崇め信仰し、他国と長い間宗教戦争を行ってきた「宗教国家」シャイニィ聖王国。


魔法の研究、歴史の究明、様々な学問を追求し、魔導具によって発展した「魔導国家」アルクネス魔導帝国。


かつて存在した国もあるだろう。

未だ未開の地に暮らす人々も居るのだろう。

だが、今はこの四つの国が全てだ。

この世界に生きる人々にとって、この四つの国こそが世界だ。


だが、そんな四つの国を支配する勢力があった。


かつて邪神を討った者たちが暮らしたという至上の国。


「超国家」アルティマ。


浮遊する領土、他国を圧倒する技術力。

全てが規格外にして神の許した特別な国。

神々の地上代行者とも呼ばれる国家。


世界は、この謎めいた国家によって平和の時代を保っていた。



#####



武闘大会の会場の選定は困難を極めた。


王都に存在する闘技場は設備も充実している。

だが今大会は何故か世界に名だたる伝説の強豪たちが集まってしまった。

通常の基準で大会を開催してしまってはただでは済まないだろう。

間違いなく王都に被害が及ぶ。


もはや一国のみで対処できる範囲を超えている。

グランス王国は今、滅亡の危機にあった。



#####



[世界協議空間]



「ようこそ皆さん、お待ちしておりましたよ」


そこはなんとも味気ない空間だった。

黒一色の空間に円卓が一つ。

シンプルに話し合いをする為に用意された特殊な空間だからといえども花の一つも欲しいものだ。


世界各国の首脳陣は定期的にこの空間に集まり国家間の交流を行っている。

各国に設置された転移魔法陣を使えば如何なる地理的障害を無視してこの空間に転移できるのだ。

王国。



グランス王国の「暴虐王」アキラ・フドウ・グランスを始め、各国の首脳陣が円卓の座につく。


「今回は我がグランス王国が直面する問題の為に招集させて貰った、

急な招集にも関わらず全員が出席してくれたことに感謝する」

「ハッハッハ!堅苦しいのは抜きにしようじゃないか暴虐王」


暴虐王の謝辞にいの一番に答えたのは屈強な肉体を持つ老人。

「氷壁王」アルヴィン・ガルム・グラキエス。

グラキエス王国の王である。

国家間の交流において潤滑剤の役割を引き受けてくれる好人物だ。


「貴国には我らアルクネスも世話になっている…」


悪人面の割りには良識的な男、

魔導帝国アルクネスの誇る大魔術師にして皇帝。

「刻印帝」ヴァンデルムスカ・ゴルフェイス・アルクネス。

彼もまたグランス王国の肩を持った。


アルクネス魔導帝国はお国柄で魔法研究が盛んなのだがその分禁忌に手を染める者も多い。

そんな時に「暴虐王」が有する「天秤座の宝玉(リブラ・オーブ)」で定期的に犯罪者を炙り出して貰っているのだ。


自国どころか世界中の犯罪を相手取ることが出来る「暴虐王」は国際的にも重要な人物だ。

罪と罰を測り、罪を暴き出し、裁く力を与える「天秤座の宝玉(リブラ・オーブ)」。

そして善なる行いに比例してその力を高める特殊能力(アビリティ)善良なる力パワー・オブ・ジャスティス】。


それはあまりにも独善的で、あまりにも正論に過ぎる。

彼の前では如何なる罪も相応しい罰で裁かれる。

罪人は彼にとって最も与し易い敵である。


ゆえに人は彼を「暴虐王」と呼び、恐れ、崇めるのだ。


だが、彼を快く思わない者も居る。

シャイニィ聖王国の「女聖王」セフィール・ゴルディ・シャイニィもそうだ。


歴代の聖王は国民の中から神託によって選ばれた者が務めるもの。

正に王権神授説を地で行く国家なのだ。


しかし、かの「暴虐王」は「天秤座の宝玉(リブラ・オーブ)」より神性を引き出している。

それによってかの王は建国より今までを生き長らえているわけだが。


「…して、我々が招集された理由とは?」


「女聖王」にしてみれば崇める神とは別の神、つまり異教の邪神に呼び出され、仕方がなく来ているくらいの状況なのだ。

不機嫌にもなる。


「セフィールさんもその辺にしておいて下さい、誰が招集しようがされようが場を整えてさあやろう、

そこの面倒くさいことは私がやっているんですよ?無碍にされては困るというものです」


最初に声を発した者、つまり最初からこの空間にいた空間の主。

「超国家」アルティマの人工精霊ネビュラが「女聖王」を制した。


若い「女聖王」は他の三人に比べ老獪ではなく、宗教家らしい神への信仰とその熱意が強い。

そんな彼女を含め、癖のある支配者たちの手綱を握るネビュラは静かに溜息をついた。



#####



世界を影から支配するとか、正体不明とか随分な言われようの国、アルティマ。

その起源は一人の天才が創り出した浮遊要塞と人工精霊である。


天才と呼ばれた女は後の世に邪神が世を乱す事を察知していた。

そこで彼女は自身の創り出した技術の全てを浮遊要塞に封じ、来るべき時まで海底に沈めた。


邪神の動きに呼応して浮遊要塞が海上に浮上し、調査の為に上陸した者達の中に後の邪神討伐の英雄達が居たのだ。


英雄達は突如として現れた島、浮遊要塞の秘密とその存在理由を知り邪神の企みに立ち向かった。


全てが終わった後、英雄達は浮遊要塞を国土とした国アルティマの樹立を宣言。

国土である浮遊要塞を維持管理していたネビュラがそのまま国家元首まで押し付けられた。


英雄達が散り散りになり、世界が英雄達を伝説にしてもその国はいつだってそこにあった。

その実体を隠し、公には伝説の存在になった。


だが実際はこうして世界を裏から纏め上げるため暗躍しているのである。



#####



「さて、今回皆さんが招集された理由についてですが…

大武闘大会についての案件です、ここまでは宜しいですね?」

「大武闘大会か!うちの国からも何人か腕自慢が出る気のようだが、今年の選手層はどんな塩梅かね「暴虐王」?」

「長い歴史の中でも類を見ない顔触れだ、邪神が復活しても倒せる面子が揃っている」


さしもの「暴虐王」も圧倒的な力を持つ英雄達を全員纏めて抑えつけるなど難しい、不可能だ。

その様子を見て「北壁王」がむむむと唸る。


「むむむ…「暴虐王」がそんなに言うなら嘘ではないのだろう?

どんな人外魔境になっておるのだ…」

「何がむむむだ「北壁王」、超常の戦いにこそ真理は姿を表すもの、見逃せば二度は見られぬだろう事は確実よ」

「いやいや…つまりグランス王国滅亡の危機ということではないですか?

まずいんじゃないですかそれは?中止したほうがいいですよ」


「女聖王」の言い分ももっともな事だ。

だがしかしネビュラは首を縦に振らない。


「なりません、今グランス王国には悪魔集結の兆しがある…

天界に助けを求めるよりは人間の手で討ち払った方がいい。

今やグランス王国はいつ爆発してもおかしくない一触即発の爆弾、

どうせ爆発するなら一度で済ませ、尚且つ余計なものも纏めて吹き飛ばして貰わねばなりません」


成る程、ネビュラの言葉によって今回の招集の理由が読めた。

各国の協力体制の元に武闘大会を開催させ、悪魔についての諸問題を解決させたいのだ。


悪魔契約者は国家に大きな利益をもたらす場合がある、だがリスクの大きい事に変わりはない。

契約に縛られているといっても悪魔は悪魔。

人間ひとり堕落させ、少しずつ人間社会を蝕む事など容易い事なのだ。


「悪魔が入り込みやすいようにあえてより大規模に、そして盛大に散ってもらうという訳ですな」

「其方が言うと悪魔は我々の様な気になってくるな?「刻印帝」」

「フッフフフ…アルクネスの皇帝というのは代々独裁者、総じて陰険な魔術師で、相当な悪人面の血筋だからな。

悪魔にだって負けんよ」


世界を統べる四人の王が手を取り合い、一致団結して事に当たる。

今もまだぎこちなく、不和も消え去った訳ではない。

人が人である限り消えない問題点を前にしながら、精霊ネビュラは不敵に微笑む。


「我が創造主にして戦神ギクス・エヴェよ…

遥か彼方の天上より、我らが戦いを見守っていて下さいませ…」


それは主に捧げる忠誠。

それは主に誓う宣誓。


世界を巻き込む宴の幕が開かれる時は近い。



#####



[グランス王国国立魔導学院]



あの劇的な模擬戦から数日が過ぎていた。


あの後、復活したリカルドは新たな力を得て新生した。

生まれ変わったと言ってもいい。

相変わらず運動音痴、方向音痴だが記憶力とそれに伴う知識量は抜群。


しかし、エルフ族にとって致命的とさえ言える魔法を行使する才を投げ打って得た心象兵装(ココロウェポン)神の鍛冶師の護符デウス・スミス・タリスマン】によって、彼の立場は変わった。


守護者(ガーディアン)特殊能力(アビリティ)二体に護られるだけの本体ではなく、

強力無比な守護者(ガーディアン)特殊能力(アビリティ)と未知数の力を持つ油断ならない人物になった。


といっても彼の真の実力は未だ知れ渡っていない。

これはリカルド本体に手が届く以前の問題が解消されていないからだ。


機械仕掛の神デウス・エクス・マキナ特殊改修型(カンザキカスタム)】と

機械仕掛の悪魔ディアボルス・エクス・マキナ特殊改修型(ディアカンザキ)】の二枚看板を破るものはそうそう居ないと言うわけだ。


学院内カーストでも最下位(マキナとディアを除いた場合)の

「劣等生」がいまやその(レッテル)を破り、ある程度固定されていた序列が崩壊しつつある。


そう、学院は戦国時代に突入したも同然。

武闘大会を前に隠れた実力者もその姿を現し始め、混迷を極めつつあった。


「いやぁ…実に大変じゃないかリカルド君、まるで魔界の成り立ちを見ているかの様だ」

「なんでまだ居ンだクソ親父ィ!」


マキナの鉄拳がオウギュストのこめかみ目掛けて振るわれる!

オウギュストそれを裏拳で防御!

発生した衝撃波にリカルドは木の葉の様に宙に舞うッ!


そう、オウギュストはまだグランス王国に居た。

ていうか学院の近所に居る。

最近は堂々と学院に入り浸り若い戦士たちを焚きつけまくっているという。


要するに戦国時代突入はオウギュストの所為である。

教師陣は泣いていい。


「いいか真希波…大会迄に娘と息子がどれだけ強くなるか?

それを想うだけで戦国時代の一つも造る、それが魔人(ヒト)の親というものだ」

母さんの血筋(ニンゲン)の流儀にちったぁ合わせろい!!」


何というべきか。

リカルド・フォス・ユグドラシルは木の葉の様に地に降り立ちながら、一組の親娘を見つめた。


そう、オウギュストはやはりマキナの親だったのである。

暴虐を好み闘争を是とする尋常ならざるマキナの源流はこの男にあるのだと痛感せざるを得ない。

現にマキナが今相手のペースに乗せられツッコミに回ってしまっているではないか。


実力、性格、暴力性に於いてマキナを凌駕するこの男は人間社会の常識やら良識で劣る。


マキナの理不尽な強さが、まさか人間と魔人のハーフという狭い井戸の中の基準だったとはエルフ(リカルド)どころか悪魔(ディア)にさえ読めまい。


機神として新生し、破壊神の権能を得て漸くどっこいというべきか。


とにかく、成長の余地を残すマキナに対し、さらなる技の、人格の円熟をもって相対する

オウギュストはマキナにとって越えるべき壁であろう。


「終いにゃブチのめすぞクソ親父ィ〜ッ!」

「返り討ちにしてやっぞ親不孝者娘〜ッ!」


ガンガンと頭と頭をぶつけ合いメンチを切りあう二人はよく似ているとリカルドは思う。

すごくよく似てる。

多分顔付きとか体型は母親譲りなんだろう、

ただし中身は驚く程よく似ている。


リカルドはここ数日でかなり気持ちに余裕が出来ていた。

力を手に入れ、その力をどう活かすかを知った時から今までが空回りをしていた様に思える。


最早リカルドは以前までの無力な駄目エルフではない。

新たな力を得てエルフの正道から外れた邪道エルフだ。


マキナやオウギュストに言わせれば弱い奴が悪いのだから邪道の方がマシだろう。


「リカルド・フォス・ユグドラシルッ!僕と戦い給えッ!」


突如現れる闖入者。

その名はアンジェロ・ロッソ・サウピエント、

弟のカルヴァンスも居るがこちらは様子がおかしい。


というか、そこら中に仮面を被った生徒が居てマキナ達を囲っているのだ。


「どうかな?僕の【策略の仮面舞踏会(ビトレイマスカレード)】は…

君と戦うに当たって選りすぐりの兵を支配下においた、如何に君達でもこの数には敵うまい?」


自信満々に述べるアンジェロだが、その兵隊の数は百人程度だ。

しかも大した力を感じない、隠している様子もない兵隊ばかり。

大方示威行為のつもりなのだろうが、全然意味が無い。

よりにもよってまともなカルヴァンスにまで仮面を被せている。


「リカルド…あいつぁなんだ?馬鹿か?」

「いやぁ…ハハ、いつもならカルヴァンス君が手綱を引いてるものだから忘れてたけど、

アンジェロ君ってなんかこう、迂闊なんだよなぁ…」


弟であるカルヴァンス・ベノ・サウピエントは兄を調子立て、諌め、時として身体を張って兄をコントロールする天才だった。


アンジェロとまともにコミュニケーションがしたいならカルヴァンスをフィルターにしないといけない。

自尊心と意味不明なまでの自信に満ち溢れたアンジェロとサシで話すのは疲れるからだ。


「で?アンジェロよぉ?お前、どうやって兵隊を掻き集めてきた?

カルヴァンスがそんな調子じゃ交渉だってロクに出来ねぇお前が!」

「中々舐めた口をきいてくれるじゃないか…

僕には君の想像の及ばぬ協力者がいる、優秀なサポーターさ」


自信満々に語るアンジェロ。

彼の用意した兵隊達を見ればジュリア、ナナイ、メシエの三人。

改、鳥井、城田、東条姉弟の五人。

その他もろもろの生徒諸君。


「揃いも揃ってまぁ…てめぇのサポーターとやらは余程優秀らしい」

「当然、特権階級たる僕に相応しいサポーターさ。

優秀な駒を一人用意してくれてね、後は駒が駒を増やしていくのさ」


アンジェロが自らの駒とした人間を前に歩み出させる。

自らの武器を見せびらかす様な愚行を前にマキナは呆れるが、その人物に注目した。


軽やかな身のこなし、隙のない歩み方。

そこらの不良では到底敵わないだろう事は容易に見てとれる。


だが、この歩き方には覚えがある。


マキナの広い交友関係の中で一人異彩を放つ人物、太田(おおた) 卓美(たくみ)

彼女が暗殺者にハマっていた頃に話していた事だ。


『忍者にも言える事ですがね〜?こう、足運びが軽やかなんですよぉ。

武道の達人みたいにぃふわっ!スッ!シュバァ!

重さを感じないってゆーか、鮮やか?

惚れ惚れしますわ〜フヒヒヒッ』


見た目ギャルの癖に行動派オタクだった彼女が見よう見まねで再現したあの動き、それを洗練させた様な動き。


「暗殺者….かねぇ?相手にとって不足なし、か?」


武闘大会前の練習試合にはうってつけと、マキナは拳を握る。

暴力の宴が始まる。

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