飛翔鉄拳 -ロケットパンチ-
それは、異形の神。
後ろで纏めた赤い髪、無機質な光を宿す赤い瞳。
女性的な曲線を描く胴体とは裏腹にその手脚は異質な機械で構成されている。
【機械仕掛の神】。
古代の文献に名を残すのみの謎めいた存在。
その存在が今、トロールを血祭りにあげたのだ。
(に…逃げなきゃ……!)
リカルド・フォス・ユグドラシルは生命の危機を感じていた。
トロールを何故殺したのか?
何故リカルドを助けたのか?理由は解らない。
しかし、その残虐性だけは理解出来る。
高潔なる神であるならばあり得ない行い。
しかし、邪神や悪魔の類であれば納得できる。
人間を惑わし、世界を破滅と混乱に陥れる存在。
それが現れたのならば、普通ならば逃げ出すものだ。
しかし。
(お、追いかけてくる!?)
こっそりと逃げ出す算段だったのだが、鋼鉄の女神はグングン追いかけてくる。
しかも、やはりと言うかなんと言うか若干浮いているのだ。
尚、先程の蹂躙の際は地に足がついた状態であった。
(ひぃぃぃ!ピッタリ追いかけてくる!)
悪魔の一般的な対処法その一、話しかけられない様にする。
逃げるのが一番なのだが、残念ながら特殊能力【機械仕掛の神】は所謂「守護者」に分類される。
能力者から余り離れられないが、固有の技能や基礎的な能力に特化した特殊能力だ。
本来なら自らの特殊能力の判別は容易なのだが、
神崎 真希波という中の人が存在する【機械仕掛の神】はその性質上自らの特殊能力であると認識しづらいのだ。
「リカルド君!伏せたまえ!」
必死に逃げるリカルドに向かって声がかけられる。
それは学院のクラスメイトであり、同じ班の班長をつとめるジュリア・チェス・プレインズの声だった。
「前進せよ【盤上の騎士団】!【八人歩兵】!」
剣を持った八体の歩兵の石像が現れ、【機械仕掛の神】に向かって突撃する。
二体が先行し、鋭い突きを放つ。
歩兵の石像は皆、生半可な鉄では傷付ける事すら敵わぬ強固な岩石で出来ている。
剣も同様に、下手をすれば鉄の剣を上回る斬れ味を持つ岩石の剣だ。
如何に悪魔といえども苦戦は必死であり、眼前の歪な女神像さえ容易く討ち取ってみせる。
少なくとも、能力者であるジュリアとその能力を知るリカルドは確信していた。
しかしながら鋼鉄の女神は規格外だ。
歩兵の頭を鉄拳が粉砕する。
剣が、拳が届くには未だに距離があるにも関わらずだ。
「う、嘘ぉ!?」
「拳……!?いや、ガントレットが飛んだ!?」
【飛翔鉄拳】。
【機械仕掛の神】の基本技能の一つで腕部装甲……俗に言うメカ腕を肘の辺りで切り離し射出する兵装である。
ロケット噴射で推進し、ワイヤー巻き取り機構で再接続される、使用の際腕部が露出する。
そんな浪漫兵器が今、剣と魔法の世界で炸裂した。
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これは、人類にとって大きな一歩だろうが、あたしにしてみれば最高の喧嘩への一歩である。
つまり、あたしは今!猛烈に感動している!!
あたしの両腕が唸って飛んだ。
そう、ロケットパンチだ!
あたしは今!スーパーロボットになっているんだ!!
喧嘩への情熱溢れるあたしに「喧嘩するぐらいなら漫画でも読んでろよ!」と漫画を大量に叩きつけた弟、改。
改のお陰であたしはスーパーロボットも好きになった、勿論喧嘩はやめなかったけどいつかスーパーロボット見たいに暴れてみたいと思う様になった。
そして今!あたしはスーパーロボットになっていたんだ!
なんかよくわかんねぇガキ(気障ったらしい奴)がなんかリカルドに向かって声かけた後、あたしに向かって兵隊を差し向けて来やがった。
不完全燃焼気味で千客万来な気分だったあたしはノリで『ロケットパンチッ!』なーんてやった訳だ。
意外に飛ぶんだな拳が。
あたしは頭と胴体以外兵器になっているとばかり思っていたが、どうやらゴツい籠手やブーツを履いてる様な状態らしい。
フィット感抜群で感覚もあるからコレが生の腕と脚と思ってたあたしには朗報だ。
兵隊を一撃で粉砕する辺り、やっぱ生身の人間にブチかますのはやめといた方がいいかなーなんて思っていると、ガキ共が動き出した。
「お、おのれ悪魔!奇っ怪な技能を使って私を惑わす気だろうが、屈しはせんぞ!」
悪魔ぁ?んだよそれ……
この素敵に無敵な喧嘩マシーンを侮辱してんのか?褒めてんのか?
つーか、あたしが敵と勘違いされてる訳?
マジかよ!喧嘩出来んじゃん!やっりー!
『良く無い!』
『うおおっ!?なんじゃこりゃあ!?』
気持ちよーく喧嘩したいあたしの邪魔をする天の声、てゆーかこの聞き覚えのある声は…
『ティリーてめぇ!お楽しみはこれからだってー時に!!』
『貴女は本当に喧嘩が好きなのね!見境が無いのも程があるわよ!自重なさい!』
不思議な力で説教なんぞしやがって!
かー、白けるシラけるー!
ポリ公と先公みてーだ。
『いい?誤解を解く為にも一旦リカルドきゅんの中に戻ってもう一度出るのよ!』
『めんどくせぇな〜、そこの兵隊全滅させてからでも遅くねぇだろ?』
『つべこべ言わずにやる!貴女が無茶をしなければ貴女の望む様な喧嘩は幾らでも出来るわ!貴女がリカルドきゅんと対立さえしなければね!』
そう言われちゃ仕方が無い。
一回楽しみをフイにするだけで倍喧嘩が出来るなら文句はねぇしな……
あたしが念じるとあたしの身体は光の粒になってリカルドの身体に溶け込んでいく。
「うわわわわわ!!?あ、悪魔が僕の身体の中にぃ!?」
「こ、この現象は!」
で、もう一回念じるとぬぼーっと出て来るわけだ。
「これは…!まさか、こいつがリカルド君の特殊能力!」
「えっ……えええ!?この…【機械仕掛の神】が!?僕の!?」
おー、偉いぞ兵隊のチビ!
これで思う様喧嘩が出来る……ハズ。
「先程まではきっとリカルド君が制御出来て居なかったから、自己防衛本能が働いたのだろうね」
「そ、そうなのかな…?」
「きっとそうさ、さぁ指示を出してご覧よ」
ぐぬぬとばかりに気合を入れて念じるリカルド。
努力は認める、が。
俺は自分より弱い奴に従う気はねぇ!!
「ジュ、ジュリアさぁ〜ん!言うこと聞かないよぉ!」
「なんと…よもや自立思考する守護者だとはな」
さぁて、次は一体どんな奴と喧嘩が出来るのかね?
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