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鋼の翼と嵐の災禍、他者の力を操る者 feat.父

嵐の災禍(ストームディザスター)」は意思を持つ剣だ。

故に自らの使い手には相応しい者をと思うのは当然だろう。


相応しくない者は容赦無く斬り裂き、血を吸って自らの力に変えた。

世界有数の魔剣の一部になれるのだから幸せだろう。


何人の魔人の血を啜った頃だったか、当時の持ち主が人間に討たれてしまった。

全く情けない事この上ない。

魔人が人間に負けるなど、油断もいいところだ。


人間の手に渡った後、人間は魔剣を封じ込めた。

暫くの間眠る様に過ごし、退屈な時をやり過ごした。

次に誰かの手に渡ったなら、どんな者だろうかと夢想した。


ある日、封印が解かれた。

事情を知る者が途絶える程に時が経ってしまったのか?

いや、それ程時が経ったとは思えない。


封印を解いたのは見知らぬ娘だった。


魔力の波長が独特だ、恐らく異界の出身かその血縁なのだろう。

見たところ戦士では無いが有望そうだ。

荒事の経験はあるのだろう、何処となく粗暴そうだ。


やれやれ、また一人血を吸うか…


そう思ったが、柄を握られてみればどうだ。

好相性だ、身体に満ちる属性は風。

探ってみれば特殊能力(アビリティ)も自らと相性がいい。

今までの使い手が霞む程の逸材だ。


娘、ケイコは魔剣を手にした。

魔剣は娘に使われるなら構わないと思った。

かつて青年だった人間もそれを認め、魔剣を譲った。


魔剣は決めた、この主は大事にしよう、と。

自らを振るうに相応しいこの上ない逸材だ、自らを墓まで持って行ってもらうのも悪くないと思える位に。



#####



[グランス王国国立魔導学院、闘技室戦闘領域内]



風の鎧というべき暴風を身に纏い、風の刃を放つ。

鳥井は【鋼の翼持つ者(メタルハルピュイア)】の翼に風を受け加速し、マキナは風に煽られ動きを邪魔される。


「んなろっ!魔剣ってーのは結構な便利グッズらしいな!」

「そーっすねぇ!なんか妙に手に馴染むし、使い方も自然とわかるってーのは便利っすねぇ!」


状況は確実に変わった。

光と闇、力と技、(マキナ)悪魔(ディア)が合体して最強の存在と化した

機械仕掛の神デウス・エクス・マキナ混沌幻想曲(カオスファンタジア)】だったが、相手も一筋縄ではいかない。


魔剣「嵐の災禍(ストームディザスター)」を装備し、

その能力による恩恵をフル活用出来る汎用性を持つ

鋼の翼持つ者(メタルハルピュイア)】。

風を支配する魔剣の自由自在な軌道を鞭の様に操る技量も、

剣に劣らず自在に宙を舞う特殊能力(アビリティ)も強力だ。


ディアの持つ知識からいえば、マキナにとって脅威となり得る存在と化したかつての妹分。

しかし、同時にその状態が長く保たない事もわかる。


魔剣からのバックアップもあるが、その能力を十全に引き出した状態は非常に魔力を消費する。

それこそ、鳥井であれば5分以上の維持は難しい程に。


「-天空に満ちる無形の塊は我が手足、我が支配において我が意に従い、数多の使徒を打ち棄てる!-

堕天墜翔フォールダウンバースト】!」


鳥井の口から魔術詠唱が聞こえたと思った時にはもう遅い。

叩きつける様な風がマキナを遅い、地面に叩きつけんとする。


「こなくそ!

瞬間と疾走の推進器(デモンズスラスター)】!」


しかし、【機神飛翔(マキナブースター)】に加えて、

直線距離において瞬間的な加速を与える悪魔の推進器を使用したマキナは風を突き抜けて進む。


狙うは本体。

鎧ごと胴体に拳を叩き込んで相手を沈めるなど手慣れたもの。

今は殺さない様に加減が必要だが、衝撃を中身に叩き込む殴り方は身体が違っても憶えている。


「【機神鎧貫拳マキナアーマーブレイク】!」

「【天障風壁(エアロウォール)】!」


ほとばしる黒と白の魔力を拳に纏い、叩き込んだ先には風の防壁。

本来光と闇に風が干渉することはなくとも、魔力となれば話は変わる。

風の魔力が光と闇の魔力を受け流し、散らす。


まともに受ければ致命的なダメージとなっていたであろう一撃にヒヤリとする間もなく、鳥井は魔剣を振るう。


嵐の災禍(ストームディザスター)」の刃が展開し、鞭の様にしなり、されど剣の鋭さを失わずに振るわれる。

魔力によって風の刃を生じさせた魔剣は、ただ闇雲に振るわれただけでも惨劇を引き起こすに足る凶器だ。


だがそれも、神の装甲を斬るには至らない。


ガリガリと装甲をなぞる風は確かに機神を押さえ込み、衝撃によるダメージも少なくないだろう。

だが、ダメージによる影響を与えるまでには至らない。


それは今のところマキナも同じ。

攻撃は避けられるか、風の障壁に阻まれてしまう。


問題は魔力だ。

無尽蔵に魔力を生み出す神造魔導核(デウス・エクス・コア)を有するマキナはガス欠の心配が無い。

対して人間である鳥井には時間制限がある。


全ては時間稼ぎの為とはいえ、鳥井にも欲はある。

自らの最大の力をマキナにぶつけ、過去に決着をつけたいという欲が。


「しゃおらぁっ!」


マキナの鉄拳が、蹴りが唸る。

悪魔(ディア)の知恵と(マキナ)の戦闘経験は敵対者の力量を瞬時に把握し、やがて攻撃の最適解を導き出す。


呑気にどつき合いをしていれば、致命の一撃を貰って死にかねない。

そんな嫌な確信が鳥井にはあった。

嵐の災禍(ストームディザスター)」の生み出す風の障壁【天障風壁(エアロウォール)】さえ

マキナの攻撃を受けきれなくなり始めている。


悪魔(ディア)との合体で平時より数段早く、マキナは鳥井の力をねじ伏せようとしているのだ。


そうなっては予定より早く片付けられてしまい、時間稼ぎにもならない。

ならばいっそ最大の力を叩き込んだ方がいい。

鳥井はそう考え、魔剣に目一杯の魔力を流す。


「おっ……いいねぇその魔力、必殺技か?」

「おう、姐御も必殺技だして構わねーんだ、何で出さない?」

「【機神閃光拳マキナフォトンナックル】か?

アレ系は今後自粛すんだよ、ゴキゲンな威力の代わりに装甲がダメんなるからな」


鳥井の問いにマキナは正直に答えた。


機神閃光(マキナビーム)】の砲身に使う腕部装甲にその放つ筈の魔力を溜め込み、殴った瞬間に炸裂させる。


要は弾づまりをワザと起こした上で暴発させているのだ。

カッコいいしゴキゲンな威力だしでお気に入りの技だが、その度に腕部装甲が破損していく。


以前にリカルドの姉三人との戦いで装甲が破損した経験から、あの技を多用すると装甲に多大な負担がかかるという事に思い至ったのだ。


「しかーし!要は装甲に負担をかけず!更には高威力の一撃を叩き込む技を思いつきゃ良いだけの話よ!」

「ざっけんな姐御!んなことされたら改まで吹っ飛ばされちまう!」

「そうなったらそうなったっつーだけよぉ!」


二人が自らの魔力を高めだした。

最大の力をぶつけ合おうというわけだ。


「恵子ォ!てめーが魔剣ならこっちは神剣!

偉大なる破壊者グレイトデストロイヤー】の錆にしたらぁ!」

「「嵐の災禍(ストームディザスター)」…

不甲斐ねぇが、お前の力を貸してくれ!」


マキナの持つ剣、【偉大なる破壊者グレイトデストロイヤー】。

「変幻自在の魔剣ニャルラト」の自在性。

不思議殺し(ミスティックキラー)」の魔力吸収、魔力、精神体特攻。

不滅の刃(デュランダル)」の強靭性、凡ゆるものを斬る概念。

神が持つに相応しき力を持ち、神が振るうに足る逸品である。


対する鳥井 恵子の手にする魔剣、「嵐の災禍(ストームディザスター)」。

その相性は抜群、歴史に名を残す魔剣だけあって神の為の剣にも劣りはしない。


「-無双の力に無二の剣、二つ揃えばこの世は自在、変幻自在に形を変えて操るこの身は神の器!真理だ何だは知らずとも、斬って捨てるが我が道理!-」


『-我は汝に望む、汝が為のこの刃、摂理を歪め支配する我が力、我が奥義を以って汝が望む決着を!-』

「『-狂え風精(シルフ)共、我らは厄災、破滅の使徒、その幾億万の力を貪り喰らい生み出すは全て吹き飛ばし薙ぎ倒す嵐!-』」


マキナの【偉大なる破壊者グレイトデストロイヤー】に破滅の閃光が宿り、満ち溢れていく。

それに対して鳥井の「嵐の災禍(ストームディザスター)」もまた、凄まじき風を纏う。


「【機神閃光斬マキナフォトンスラッシュ】!」

「【貪り尽くす者(ボレアース)】!」


激しい光と風の魔力がぶつかり合い、激しい閃光が視界を奪った。

だが双方相手の姿を逃さず捉え、再び打ち合う。


神の力に対抗して打ち合うなど無謀でしかない。

しかし、鳥井はそれを成して見せた。


嵐の災禍(ストームディザスター)」の生み出す風を翼に受け、存分に加速して打ち合う。


三度、四度と繰り返し、その度激しい閃光と衝撃が空間を支配する。


「ごあっ!?」


七度目の打ち合いで遂に鳥井が限界を迎えてしまった。

加速が足りず、減衰した威力ではマキナの剣を受けきれずに剣ごと腕を跳ね上げられてしまった。


「甘かったなぁ…寝てろや、恵子」


鳥井の腹に蹴りを叩き込まれた鳥井は声も上げられずに地面に激突した。

それと同時に鳥井が消える。

戦闘領域の外に転送されたのだとわかるその光景を見届けた後、マキナは上空を見上げた。


「さぁて…見せて貰おうじゃねぇか、改よぅ」


機神に応えるかの様に、神崎 改は姿を現した。



#####



姉貴は何時だって強かった。


昔はよく泣く子だったなんて母さんは言ったが、俺はやはり勇ましい姉貴しか知らない。


父さんは日本人離れした巨漢で、母さんは活発な日本人。

二人の特徴をまるまる引き継いだ姉貴と違って、俺は大人しいほうだった。


姉貴に守られっぱなしだったけど、姉貴と張り合える様な力の無い俺は早々に姉貴への対抗心をなくしていった。


姉貴は俺を猫がわいがりして、過保護だった。


父さんはそんな俺を見て、自分の得意分野で姉貴に負けない様にすれば良いと言って、ガハハと笑った。


姉貴は時を重ねる毎に強くなり、武勇伝を増やし続ける一方で、俺は姉貴に負けない学力で張り合った。


周囲にはあの喧嘩マシーンも弟には敵わないだとか、甘いだとか言われながら比較的穏やかに過ごしていた。


姉貴だってその内喧嘩しなくなるか、ヤクザな稼業でも始めるだろうなんて思っていたある日、姉貴は死んだ。


姉貴も人の子だったという訳だ。


母さんは泣いた、父さんも泣いた、俺だって泣いた。

姉貴は俺たちにとって、大切な家族だった。


姉貴を巻き込んだヤクザやら極道やらは父さんと姉貴の遺影に深く頭を下げに来たし、恨めやしなかった。


姉貴の友達…というか、ライバル達もその死を惜しんだ。


俺はというと、後悔していた。


俺がもっと強かったら、姉貴と背中を合わせて戦えたかもしれない。

俺か諦めなかったら、姉貴は俺を一人前と認めてくれたかもしれない。


全てが手遅れだと思っていたあの日、全てが変わった。


俺達はいつの間にかこの異世界に来ていた。

訳も分からず不思議な力を身につけていて、その力でファンタジーでしか見た事の無いゴブリンと戦った。


希望も無いまま生き残るために戦い続けて、俺達は見た、見てしまった。


姉貴だった。


とんでもないビームを出して暴れている、あの日と変わらない姉貴の姿。


俺達の行く先は決まった。

姉貴を追いかけるのだ。

それが本当に姉貴なのかどうかを確かめる為に。


結論から言って、姉貴は姉貴だった。

リカルドとかいう子供の力になって、いや、「力」そのものになっていた。


あの日と変わらない、いや、もっともっと強くなって姉貴はこの世界に来ていたのだ。


俺の、俺達の目標が決まった。

姉貴に勝つ。

勝って、あの日姉貴と戦えなかった過去に決着をつけよう。


これは俺の目標で、みんなが俺に力を貸してくれた。

いつの間にか俺の目標は俺達の目標になっていた。


俺が漫然と使っていた「力」【奇妙不可思議な隻腕(ストレンジアーム)】。

見聞きした、見知った「力」を借りて、右腕にその「力」を宿す。

相変わらず多力本願だとも思ったけれど、父さんの言葉が蘇った。


「いいか改…お前と真希波は確かに父さんと母さんの子だ、だがお前達はお前達だ、同じ人間じゃない。

なら、得意な事も苦手な物も違っていいんだ、だからお前はお前に出来ることでマキナに勝っていればいいんだ」


父さんはいつも俺達姉弟を見守ってくれた。

そんな父さんがくれたアドバイスは決して間違いじゃない。


俺は俺の「力」で姉貴に勝つ。

例え、誰かの「力」を借りる「力」でも…

それが俺の特殊能力(アビリティ)なんだ。



#####



「【奇妙不可思議な隻腕(ストレンジアーム)】!

地の戒めを操る隻腕(グラビティアーム)】!」


黒い鎧の隻腕が重力を操り、自らをその戒めから解き放つ。

機神閃光(マキナビーム)】で飛び、

重力から解き放たれた改は無重力空間に放り出されたかの様に浮かび上がり続ける。


激しい閃光がピカピカと光り、風の余波が感じらる。

マキナと鳥井が打ち合っているのだと、改は察した。


「そろそろか…」


石畳の上に土煙とヒビが生じるのが見て取れる。

鳥井がマキナによって地に叩きつけられたのがわかった。


『俺の力なら恐らく、あのじゃじゃ馬を捩伏せることも出来るだろう…

君の挑戦が君にとって良い結果で終わる事を祈るよ』

『じゃあね弟くん!お姉さんとリカルドくんによろしくっ!』


プレインズ公爵家を訪れた奇妙な二人の特殊能力(アビリティ)

彼らはマキナと改達の戦いの為にその特殊能力(アビリティ)を明かしてくれた。

そんな二人をふと思い出し、改は気を引き締めた。


(あの二人と、俺達五人、それ含めても俺の使える特殊能力(アビリティ)は十以上か…)


眼下に見下ろすマキナの姿に改は身震いをした。

初めて正面から対峙する姉の姿は聞き及んだだけではわからない迫力がある。

まるで巨大な何かが突っ込んでくるかの様なプレッシャーだ。


「決着つけよーぜ改ァ!」

「上等だ!行くぜ姉貴!」


絶大なる力を持つマキナを前に、借り物の力を集めて改が立ち向かう。


「【魔術と科学重ねる隻腕(デュオクロスアーム)】!」

「いけすかねぇ奴の腕だなっ!」


改の右腕から光学式魔導剣(シャイニングエッジ)が飛び出し、

マキナの【偉大なる破壊者グレイトデストロイヤー】と鍔迫り合いになる。


「プレインズ公爵が教えてくれたのさ!魔導学院きっての実力者だってな!」


対物魔導小銃アンチアーティファクトライフルが弾丸を撃ち出しマキナを僅かに仰け反らせる。

その隙を狙う様にして光学式魔導剣(シャイニングエッジ)が振るわれ、マキナの装甲に突き込まれる。


「クソがッ!あのスカしたロボ野郎次会ったらスクラップにしてやる!」

「姉貴がそうまで言うなら、やっぱあの人すげぇ人だったんだな!!」


マキナにとって、デュオクロスという存在は気に入らないものだった。

マキナが今よりも特殊能力(アビリティ)の身体に馴染んでいなかった頃とはいえ、良い様にあしらわれたのだ。


実力伯仲、しかもその性格からしてマキナの苦手な委員長タイプなのだろう。

堅物そうな喋りといい、相方のリン・マシマを見守る態度といい、かなり出来る方なのだろう。


マキナの喧嘩相手が主に悪党が相手だったのは当然、自ら正しい力の振るい方を意識した故の事だ。

だが、強さへのこだわりが人一倍強いのが神崎 真希波という女だった。


だからこそ、決着のつかなかった相手には執着する。


「【英雄の隻腕(ジグムントアーム)】!」


その隙を改が上手くついた。

機神の隻腕(マシンアーム)】未満とはいえ堅牢な装甲、マキナを翻弄する技とギミックを持つ

魔術と科学重ねる隻腕(デュオクロスアーム)】。


しかしそれに頼りっきりになるほど改は未熟ではない。

むしろ「腕」の特性ではなく、デュオクロスとリン・マシマの特殊能力(アビリティ)の方が改にとって重要なのだ。


英雄の隻腕(ジグムントアーム)】に切り替えて長くなった腕と剣の長さが

魔術と科学重ねる隻腕(デュオクロスアーム)】に固執しだしたマキナを文字どおり突き飛ばした。



「【魔術と科学重ねる隻腕(デュオクロスアーム)】!

限界を超える者(オーバーエンド)】!

百魂統括(ソウルドライバー)】!」


距離をとった改の腕は瞬く間に変化を見せた。

腕がボコリと膨らみ、バキバキと異音を立てて変化する。


「うおおおおおっっ………!

魔を束ねし怪異の隻腕(タイラントアーム)】!!」


それは異形の腕。

デュオクロスの【限界を超える者(オーバーエンド)】、

特殊能力(アビリティ)の限界を超え、コピー出来る特殊能力(アビリティ)を全て発現させる。

更にリン・マシマの魂を自在に操作する

百魂統括(ソウルドライバー)】が全ての能力を一つに纏め上げる。


それが【魔を束ねし怪異の隻腕(タイラントアーム)】。

(あね)に対する(おとうと)の用意した切り札。


有り余る特殊能力(アビリティ)を一つの力に変え、叩き込む。


その一撃を、その拳を何か見分けられぬ(マキナ)ではない。

腕部装甲がどうとか、補充、整備とかは頭から消えた。

何もかも御構い無しの一撃をぶつけ合い、勝つ。

もはやそれしか頭に無い。


「負けるかァ!【機神混沌拳(マキナカオスナックル)】!!」


光と闇。

相反する二つの属性が一つの拳に宿る。


神と悪魔。


破壊と創造。


相反しながらも表裏一体といえる全てが重なり合い、一つの拳になった。


光とも闇ともつかぬ、二色が世界に満ちる。

黒い閃光が瞬き、白い闇が戦闘領域を包み込む。


真希波と改の闘いが決着した瞬間であった。



#####



[グランス王国国立魔導学院、闘技室]



誰もが皆、言葉を失った。


あまりにも壮絶な一撃を目の当たりにし、改の生存を疑った。


しかし、目の前に転送されてきた改は気絶してはいるが無事だ。


言葉を失ったのはむしろここからだろうか。

安堵の声を上げる間もなく、「そいつ」は現れた。


気絶した改とリカルドを抱えて、「その男」は現れた。


筋骨隆々、スキンヘッドに威圧的な鋭い眼光。

はち切れんばかりの肉体を包んだスーツは今にも弾け飛びそうだ。


そんな「男」が、いきなり、何の前触れも無く現れた。


普通ならその名を問うだろう。

だが、この場に居る誰もがその「男」を知っていた。


悪魔が住む「万魔殿(パンデモニウム)」がある「魔界」。

その魔界に適応し、進化した人類、「魔人」。


優れた肉体と魔力を持ち、人間が千人居ても敵わないという

荒くれ者の魔人達を力で支配する魔界統治機構「十魔」。


誰もが恐れ、敵対する事を嫌う力の権化。

唯一絶対の方たる「力」の体現者。


十魔第三席、「破壊拳」のオウギュスト。


分かりやすく言い換えるなら、出会ったら死ぬ相手が突如として生徒達の前に姿を現した。


(馬鹿な…ッ!何故、魔人がここに居る!?)


ジュリア・チェス・プレインズは戦慄した。

全く予想もつかない唐突さで現れた魔人に対し、ジュリアの思考は動揺しながらも、冷静に答えを探り出そうとしていた。


(闘技室の詳細な情報は無いが、あの種類の領域は外部からの侵入は出来ない筈だ!

外部から干渉したとして、内部にも外部にも知られずに入り込める筈が無い!

そして、何故リカルド君とアラタ君を捕らえている!?

一体何が目的なんだ!?)


この場に居る誰もにとって、まるで寝起きに突然死する様な突拍子の無さで現れた脅威にジュリアは嫌な汗を止められない。

他の生徒も大多数が同じである。


しかし、少数派の生徒がいた。


鳥井 恵子を始めとする四人はかの魔人を知っていた。

「魔人」という括りではなく、「父親」という括りで。


「あれは…あの男は!」

「見間違える筈が無い!あの男!」

「ええ!あの方は間違いなく!」

「姐御の親父さんだッ!」


「そうだッ!この俺がッ!改と真希波の親父なのだッ!」


四人の掛け合いにノリノリで答える魔人。

この男こそが、「破壊拳」オウギュストでありーー


神崎家の大黒柱、オウギュスト 神崎なのだ。

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