天空神の雷霆 -ゼウスサンダー-
あたしは喧嘩か好きだ。
好きで好きで仕方がねぇ。
戦いの中でこそあたしは輝く。
あたしらしくいられる。
強い奴が好きだ。
特に真正面からお互いぶつかり合った奴との喧嘩は死んでも忘れやしないだろう。
鳥井 恵子。
あたしの舎弟になった女。
チェーン片手にあたしに挑んだ女。
あたしと一緒に、誰よりも多くの喧嘩を共にした女。
城田 剛。
寡黙で真面目ぶった男。
力で私に迎え撃った男。
あたしの背中を任せるに足る頼もしい男。
東条 刹那。
自らの剣を極めんとする男。
木刀片手に自らの強さを磨き続ける男。
弟の改の事を任せられる男。
東条 美奈。
兄を追い剣を振るう女。
その隠された凶刃を振るうあたしに一番近い女。
あたしを慕い、狙う女。
人間、神崎 真希波として拳を交えた強敵達。
あたしの大事な仲間達。
ジュリア・チェス・プレインズ。
リカルドに気があるらしい女。
隠してるらしい強さも、今曝け出してる強さも申し分ない、とことんまでやりあいたい女。
ナナイ・マテアルとメシエ・ファクト。
強さを合わせあい、弱さを補い合う女達。
まだまだ魅せてくれそうな可能性に疼かせてくれる女達。
そして、あたしの弟。
未知数の可能性、神崎 改。
ああ、本当に喧嘩ってやつはやめられない。
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「【在りし日の情景】!」
神の姿から人の姿へ、理屈はよく知らんがディアが言うにはあたしに宿る神性というのはもう消しようのないものらしい。
やっぱりなー、とは思ったけど。
封神剣ってのが神性に対して効果のある剣ってのは相手の喜びよう、それにあたしの勘ですぐわかる。
なら、最初っから当たんなきゃ済む話だ。
的が小さけりゃそうは当たるまい!
あたしの手に握られた【偉大なる破壊者】は太刀。
フツーの太刀じゃ折れるかも知れないが、それこそ知ったこっちゃない。
【丈夫な形だけの太刀】なら、問題にならない!
扱い易い長さと重さ、それを叩き込む力に耐える強度。
一振りで三体歩兵を倒して、勢いをつけて最上段からもう一発叩き込む!
「うおおぉぉっ!!【反重力の魔拳】!」
しかし、素早く封神剣を持った歩兵を庇ったのは城田だった。
厄介な事にこいつのタフさに特殊能力が合わさってるせいか、あたしの一撃を弾かれてしまった。
「貴様とて重力を支配する訳ではあるまい!」
「ハッ!小手先だけの力じゃねーみたいで安心したくらいだ!」
「当然だッ!」
あたしの力で存分な威力を発揮するはずの一撃を城田は反重力を発生させ押し返してくる。
まともに組み付かれたら厄介極まりない、あたしは距離をとって襲い来る次の相手を対処しなけりゃならなかった。
「姐御ッ!」
「恵子ォ!」
蛇腹剣と太刀が打ち合い、蛇腹剣を弾く。
しかし何度も飛来しては縦横無尽な斬撃を見舞う恵子は鬱陶しい、遊撃としては合格点をくれてやろう。
「いつまで手を抜いているつもりだ!神崎ィ!」
「お姉ちゃん覚悟!」
「ッ!ふんっ!!」
【飛燕の騎士】と【勇壮の騎士】の一斉攻撃、あたしはそれを力任せの一撃で対処した。
「手抜きたぁどういう了見だ?こちとらマジメに模擬戦やろうってんだ、手抜きなんか…」
「否、その考えこそ手抜き!」
「…んだと?」
ジュリアの放った言葉に対してあたしはちょっとカチンときた。
「ほーほー、アレか?キレさせて隙を突こうって算段か?」
「それもまた否…君はあの日表情が二通りしか無かったから仕方なかったとは言え…
私の見た君の狂喜の面は、そんな退屈そうな仏頂面より遥かに君に似合っていた」
続くジュリアの言葉に、あたしはハッとさせられた。
そうだよ、あたしは今、喧嘩を楽しんじゃいない…
教官役なんて任せられて、気負っちまってたのか?
「全力で来い、神崎」
「姐御はもう昔の姐御じゃない…アタイらも、昔のアタイらじゃない!」
「そうだ、お互い以前とは比べられない異能の力を得た…
俺達からすれば、お前がかつての姿で戦っている今!お前が全力で喧嘩を楽しめない事くらいわかっている!」
「いくらお姉ちゃんでも、今のスーパーお姉ちゃんじゃないとこの人数差はひっくり返せないかもよー?」
城田、恵子、刹那、美奈…
あたしは言われてようやく気付いた。
【在りし日の情景】は過去の再現。
あの頃のあたしの全てを再現する為に、【機械仕掛の神特殊改修型】の力に枷を嵌めたような物なんだって。
なるほど、手抜きも手抜き。
なーにが「的が小さけりゃそうは当たるまい」だ、ぶっ飛ばすぞ。
ディアにだって楽しめ、なんてエラそーにほざいたじゃねぇかよ。
相手は人間だから、あたしは人間じゃないから、なんて…
「喧嘩に余計な理由つけてちゃ、楽しくもない、か……後悔すんなよ、てめーら!!」
あたしの身体を光が包む。
死んだ真希波から、今のマキナに変わる。
そうだよ、「喧嘩マシーン」は人間神崎 真希波の専売特許、称号なんだ。
いつまでも過去を引きずってちゃ、女々しいよな。
茶色の髪も、瞳も、赤く染まっていく。
白銀の装甲があたしを包み、あたしの神造魔導核が唸りを上げる。
「リカルド・フェス・ユグドラシルの守護者、【機械仕掛の神特殊改修型】!
…好きな事は、喧嘩だ!暴れさせてもらうぜ!」
リカルドには謝っておこう。
魔力切れになるくらい暴れさせてもらうぜ。
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「【機神閃光】!!」
機神の放つ破滅の閃光が遂に解き放たれた。
だがそれは破壊力は兎も角一直線に進むもの。所詮は単純な攻撃なのだ。
各々が散開する、戦力が散らばる。
集まる事で真希波を上回った力が散らばる。
「喧嘩はタイマンが一番だ…詰まる所、そいつとの喧嘩に集中出来っからな」
「なんともお前らしいな、神崎!」
ただ一人、散らばりながらもマキナに向かっていった東条 刹那にマキナの力の矛先が向いた。
「斬り捨てる!」
【飛燕の騎士】が手に持つ剣が瞬く間にマキナに襲いかかる。
鋭い踏み込みからの振り下ろし、返す刀の逆袈裟。
俊速の剣が瞬く間にマキナの胴に打ち込まれた。
「チッ!相変わらずはえー剣だ!」
「対して堪えている訳でもない癖によく言うわ!」
右腕を左から斬り払う。
胴に一閃、素早く戻して突きを三発、瞬く間に剣閃を積み重ねる。
マキナが腕を振るうと素早く後退し、間合いを保つ。
「ほー…刹那ァ、お前の守護者よく動くじゃねぇか」
「当たり前だ、俺の特殊能力だぞ?」
マキナの装甲には今はまだ傷は無い。
しかし、マキナはそれも時間の問題だと考え始めていた。
(剣を振るう速度が少しずつだが速くなってきてやがる…そういう性質なんだろうが、ヤベーな)
速さは力だ。
それはマキナも承知の上。
Aランク相当の速さで剣を繰り出している【飛燕の騎士】の剣速がこのまま加速を続けたなら
Sランクの速さに到達するのは正に時間の問題だ。
Sランクの攻撃を受ければ流石にマキナの装甲にも傷が付く。
それは既に経験済みの上、マキナの中で一つの仮説が立てられていた。
同じSランクなら…それが攻撃であれ、防御であれ、速度であれ、勿論魔術でも、この装甲に傷を付けるのは可能なのではないか、と。
「チッ!傷を負うのは癪だぜ!【機神…」
「おおおおっ!【重力の重圧】!」
ずずん!と空間が揺れる。
いや、重力が増してそのようにマキナは感じたのだ。
空を舞う鳥井や身軽な東条、そしていつの間にか城田にまで包囲されている。
動きを止めた機神を囲むべくジュリア達残りのメンバーも集まりだしていた。
「征くがいい!【双騎兵】!」
二騎の馬上に【八人歩兵】の生き残り五体の内一体、
封神剣を引き抜いた歩兵とナナイが同乗し、マキナに肉薄せんと迫る。
「過日の雪辱、少しでも晴らさせて貰う!【戦場の運命剣】、【運命変転】!」
ナナイの手に握られていた剣、「突撃の杓文字」
…何故剣の概念に含まれるのかすら定かでない大きさのしゃもじが光の粒子になり、再び形を変える。
「来たれ!天界七聖剣が一つ!「綺羅聖剣ローゼンクロイツ」!」
美しく煌めく剣を携え、ナナイが跳ぶ。
それに続いて歩兵も跳んだ、
重力に囚われたマキナ目掛けてその剣を降り下ろさんとしているのだ。
「んなろっ…!重力なんぞに負けるか!【機神疾駆】!」
機神の翼が重力の戒めを振り解き、天へ駆け上がらんと唸る。
しかし間に合わない、戒めから逃れただけではまだ、二つの剣の脅威から逃れられた訳ではないのだ。
「ちぃっ!!【機神閃光拳】!【機神五指閃光】!」
左手から放たれた五本の閃光が歩兵の五体を切り裂き、右ストレートでナナイを狙う。
が、突如としてマキナの動きが鈍る。
原因は城田にあった。
「【超重力の渦】!」
「んがっ!?てめぇさっきから邪魔だな!!」
「邪魔で結構!」
「うぉぉぉぉ!【百花繚乱・綺羅光刃】!」
急制動をかけられた拳には平時における威力がない。
拳を叩き込まれる速度と込められた破滅の光こそが【機神閃光拳】のキモなのだ。
光を纏った剣の一撃が拳にぶつかる。
本来の半分程の力しかない一撃に対し、乱れ咲く様な無数の剣閃がぶつかった。
結果は、相殺。
死を齎す閃光を掻き消した花の如き剣は未だその煌めきを減じない。
「「紅の乙女」の異名を持つ女剣士レイラ・クリムゾンが手にしていたという
この「綺羅聖剣ローゼンクロイツ」…概念だけとはいえ、天界七聖剣の名に偽りのない威力よ!」
「ほー…大層な剣を引っ張ってきたわけだ」
ナナイとマキナは無傷、城田は先程から縦横無尽に活躍していた為か、最早魔力に余裕がない。
さて、どうするべきか…マキナがそう考えている内に事態は急変する。
鬱蒼とした樹々が瞬く間に現れ、戦闘空間を密林へと変える。
カルヴァンスの【混沌の樹海】が発動したという事を察知出来たのはジュリアとナナイとメシエの三人。
しかしそれ以外の者は突如一変した状況に対応しきれてはいなかった。
「のわっ!?人食い植物!?」
早速マキナがハエトリグサの様な食人植物に襲われるが即座に叩き潰す。
それを見てジュリアが指示を出す。
「チャンスだ!ナナイはメシエを援護!メシエは私と同時に魔法を叩き込む!【双子教皇】!」
「わかりました!」
名の通り教皇を模した石の人形がジュリアの前に並び立ち、詠唱を開始する。
この二体の人形は杖だ、ジュリアと同じ魔法を詠唱し、重ね合わせる魔導具なのだ。
魔法と戦闘術を併せ持つスタンダードな戦闘スタイルのジュリアだが、やはり本職の魔術師には魔法で劣る。
しかし、この状態であれば本職の魔術師に匹敵する術が出せる。
「「「「-荒々しき猛りは天を揺らし、輝き放つ雷は地を砕く、天空に座す神々の怒り、地に降り注ぐ粛清の雷、全ては驕れる者のため、悪しき望みを胸に抱き、良からぬ企みを企てる者に降す裁きの雷!-【天空神の雷霆】!!」」」」
発動された魔法が光を放ち、天より激しい雷を落とした。
神の名を冠する凄まじき一撃は強烈な光と衝撃を放ち、人の手に負えない速さで着弾する。
いや、神でさえその手には負えないだろう。
異界の神ゼウスの雷霆はあらゆる敵を討ち果たしたもの。
同じ神を討てぬ道理がどこにあるというのか。
「ちぃっ!こっちに来てから一番効いたぜ!」
機神は未だ健在、しかしその姿は今までとは全く異なる。
全身の装甲にヒビが入り、右腕の装甲が欠落。
単純な変化故に強烈な印象を与えるそのダメージ量。
間違いなく直撃を受けて健在である事に誰もが驚愕し、そして確信する。
機神を下すまたとない機会に巡り合ったのだと。




