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あたしをもっと暴れさせろ!

現代社会、平和な日本の中で喧嘩に明け暮れる少女が居た。


名を神崎 真希波、高校生である。



「うおらっ!」

「ひぎいっ!」


「そうらよっと!」

「どわぁーーっ!?」


「うおりゃあああぁーーーーっ!」

「ぎゃあああーーーっ!!」


「ぜぇりゃああぁーーーっ!!!」

「逃げろぉー!敵いっこねぇー!!」



向かう所敵なし、連戦連勝常勝無敗の喧嘩女子高生。

「喧嘩マシーン」の異名を取る真希波は決して不良では無い。


彼女はただ、人よりだいぶ戦闘狂なだけなのだ。



「なぁ姉ちゃん、喧嘩の何が楽しい訳?」



ある日、弟に聞かれた質問に真希波はこう答えた。



「戦いの中のピリピリした空気、闘志と殺気、血の匂い、肉を殴る感触、骨を折る感触、音、悲鳴に咆哮、なんでも好きだけど一番はやっぱり緊張感とかスリルだなぁ」



彼女はきっと生まれてくる時代を間違えたのだ。


戦争真っ只中の時代とか、戦国時代とかに生まれていればこんな問題児にはならなかったのだ。



「あー、一度でいいから死ぬ程思いっきり喧嘩してぇなぁー!!」



これが彼女の口癖だった。



黒い髪と瞳は日本人らしい色だが、後頭部で一纏めにされた長い髪と鋭い眼光は美しさと威圧感を兼ね備えた容貌だった。



そんなある日の事である。


彼女は近所のヤクザの抗争に参加して死んだ。


弾丸を躱し、掠り、皮膚を、肉を斬られて尚戦い続け、敵の兵隊をまるまる一人で相手にして勝った。


だが、体力と生命力を使い果たして死んでしまったのである。


これを契機にヤクザ達の勢力争いは沈静化。


伝説の女番長、「喧嘩マシーン」神崎 真希波の死をもって関東は平定されたのであった………











話は、これからである。



「ちっくしょぉーー!気ぃ失っちまったぁー!!情けねぇー!だらしねぇー!」



見渡す限り白い空間で真希波は叫んでいた。

慟哭していたでもいいが、意味は大して変わらない。



「っつーか何処だよここはー」



周囲をグルリと見回す。

あわよくば誰かと目があって喧嘩を売られたいからだ。

面倒ごとの多い日本で喧嘩をするなら売るより買った方が正当防衛っぽい。


やり過ぎたら過剰防衛だが、そんなヘマはしない。



「イヤー!リカルドきゅんが死んじゃうー!?」



頭空っぽそうなバカ女発見。


挑発すると喧嘩を仕掛けて来そうなので近づく。



「おいそこのアンポンタン、ここは何処だお前ん家か?」



不法侵入は罪になる、出来れば外におびき出して喧嘩に持ち込みたい。



「うわビックリしたぁ!?何よあんたいつからそこに居たわけ!?」

「さっきだよさっきー、あたしちょい前まで喧嘩してたんだけどさー」



眼鏡をかけたオタクっぽい女だ。

口ばっか達者で喧嘩に持ち込みにくいのがオタクだ。


もうちょっとマシな奴に絡めばよかったと真希波は後悔していた。



「あ!貴女神崎 真希波ね!?「喧嘩マシーン」の!」

「お?何、あたし有名人?」

「死後魂が行方不明となり現在捜索中の女修羅!」

「え?死後?」



ポカーン、とした表情で真希波は問う。



「当然よ!肩を撃たれてドスで斬られて止血もしないで暴れまわったらそりゃ死ぬわよ!」

「おー……」



段々真希波も状況が掴めて来た。


確かに止血はしなかった。

アドレナリンがどばどば出てハイになっていたし、痛みを感じるよりも楽しかったからだ。



「死んだって……嘘だろぉ!?もう一回抗争やりてぇのに!?」

「貴女そんなゲームじゃ無いんだから……」



抗争は楽しかった。

血湧き肉躍るとは正にああいう状況をいうのだ。



「冗談じゃねぇよ〜!抗争で死んだなんて笑いものだぜ!?」

「や、貴女軽く伝説の女番長になってるって」

「伝説なんかより喧嘩がいいよ〜!!」



この女、喧嘩狂いナリ。


そんなアオリ文を考えついた女性……

輪廻転生を司る女神ティリーは閃きを感じていた。



「ねぇ貴女?喧嘩さえ出来れば良いの?」

「あー?まぁそうだな」

「日本では面倒ごとの方が多くて大義名分を得るのに一苦労している、と」

「……そーいや、あんたが誰でここが何処だか教えて貰いたかったトコなんだ」



ふふーんと、誇らしげに胸を張るティリーを胡散臭げに見ながら尋ねる真希波にティリーが答える。



「私は輪廻転生を司る女神ティリー、ここは私の住まいである輪廻殿、ちょっと訳ありだけど貴女にピッタリの転生先があるの」



ティリーの言葉を受け取り、咀嚼し、大まか理解した真希波の口がニヤリと歪む。



「正直日本に未練はあるけど……喧嘩さえ出来れば日本を離れるのも悪かねぇ」

「よぉし、商談を始めましょ?」



そう言うとティリーは真希波を噴水の前まで引っ張る。

水面には醜悪なデブがちっぽけで弱そうなガキンチョを追いかけ回すという映像が映し出されている。



「ファンタジーな世界を覗き見か?褒められた趣味じゃあねぇな」

「そうだけどこの子は特別、私達神々が地上に干渉する為の一大拠点である世界樹の管理者候補なのよ」

「はー?まぁ掴めて来たわ」

「単刀直入に言うと、貴女にはあの子の特殊能力になって欲しいのよね」

「はぁ!?」



普通、一般的なファンタジーなら貧弱な人を守る為に勇者が召喚されたり、降臨するものである。

だが、言うにことかいて特殊能力とは。



「いい?女神といえどもみだりに地上に干渉するのは御法度、何かを経由するのが一番なの」

「で、なんで特殊能力?」

「哀しい事にあの子は魔法もダメ弓矢もダメ方向音痴の運動神経ゼロ!

無い無い尽くしの落ちこぼれショタなのよ」

「今変なこと口走らなかったか?」



華麗にスルーを決め込んでティリーが続ける。



「かえって素質はあるから、特殊能力が発現する確率の方が高いんだけど…」

「問題でも?」

「これが悪魔の仕業の場合ね」



ようするに刺客を何度でも相手にする必要がある訳だ。

真希波としては好都合な話である。



「成る程?何の能力かわかんねぇからあたしを特殊能力に据えて、悪魔に対抗しようってわけ」

「貴女を直接地上に送り込むのも問題だから、貴女の魂があの子の特殊能力に宿る形になる訳だけど、質問は?」

「あたしが成る特殊能力は強いか?」



それこそ愚問とばかりにティリーが笑い、語る。



「貴女の魂なら【機械仕掛の神デウス・エクス・マキナ】のパワーを最大以上に引き出せる筈よ」



その瞬間、私の意識は闇に落ちた。



#####



「グッガアアアアッ!!」


気が付いた時には身体が動いていた。


振り下ろされる棍棒はトロかったけど、差を解らせる為に掴んで見せる。



「………あ、あれ?」



無事かー?………ん?

後ろに居たガキ…リカルドは無事だった、問題があるのはあたしだ。


声が出ない。


いや多分喋れやしないんだろう、新しい「あたし」は。



「【機械仕掛の神デウス・エクス・マキナ】……」



そうそうそれそれ!

カッコつけた名前だけど、気に入ってる。

真希波(マキナ)が入ってるのがなんとも堪らない。

思わず笑顔になる。



「え…」


「グッ、グオオッ!?」



おー、忘れるトコだった!

折角のファンタジー世界での喧嘩相手一号なんだ、愉しまないと損だな。


まずはパンチ一発!



「グゴッ…!?」



反応遅くね?

いや……あたしが速いのか!?



「グゴッ!?グゴゴッ!グブオオオッ!!」



うっひょーー!

このラッシュの速さ!回転の速さ!

めっちゃくちゃはえぇ!楽しい!

全身ボコボコに出来る!


あたしはテンションが上がるあまり、ついついリンチにしてしまっていた。


しまった、一方的な喧嘩は喧嘩じゃない。

もっと気を遣ってやるべきか…


オラッ!ガードクラッシュ!

かーらーのー目潰し!膝蹴り!

沈んだ相手の頭を踏んで勝利のポーズ!



…………やべ、勢い余って殺してしまった…



つーかなんだよこれ、簡単に頭を潰しちゃったよ…

手だってホラ、こんな血みどろの……


………やべー、あたしの身体が最強じゃね?

よく見たら指先すげー尖ってるんだけど。

そりゃいい様に目潰し出来るわ。


頭や胴体は前とあんまり変わらないけど腕とか脚とか完全にメカだし。


え?もしかしてあたし、今サイボーグとかアンドロイドとか、その辺?!



やべぇ、ワクワクして来た。

ロケットパンチとかビームとか出せるかな?



「あ、あうあ、うああ、ああ……!」



あ、よくよく考えたらガキに見せちゃいけない光景かも……

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