怒りの機神
例えば、なんて語り口は迂遠だ。
だが、あえて問おう。
マッハ10で戦闘機が家に突っ込んでくる、君はどうする?
マッハ10とは恐るべき速度だ。
マシュマロがその速度で形を保ったまま人にぶつかったなら人が粉々になる。
衝撃波なんかも問題だ。
マッハ1の衝撃波さえ人類が生身で受けるには無理があるだろう。
オリハルコンの塊である【機械仕掛の神特殊改修型】がマッハ10の速度を発揮し、飛翔する。
いや、飛翔するなんて生易しいものではない。
弾丸だ、この世に存在するあらゆるものを貫かんとする不滅の魔弾だ。
神々の産み出した不滅の魔弾は空を裂き、音を置き去りに族長の家を穿たんとする。
「-迫り来る死の刃、逸らせ、受け流せ、弾け、寄せつけるな。我が望むは絶対の理、不滅にして不動、無敵の壁は生命を護り、あらゆる害悪を阻む慈愛の盾とも成る-【絶対無敵の理】!」
滑らかな詠唱、膨大な魔力と共に半透明の壁が顕現する。
壮絶な衝撃を伴い、それらは激突した。
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[ユグドラシルシティ、族長宅門前]
「ぬはははは、到着であるな」
「リカルド君の言った通りの道筋で来ましたが…この大都会でよくまぁ迷わずに済んだものです」
特殊能力に数えられる異能ではないが、リカルド・フォス・ユグドラシルの才能は類稀なるものだ。
ま高い記憶力に裏付けられたリカルドの情報量。
エルフらしい才覚の代わりにしては地味かつ不足気味だったリカルド生来の能力は使い方一つでこうも有益だ。
(リカルド君を婿に迎えたならやはり文官としてその才覚を活かして欲しいが…)
(ぬはは、次期族長候補となれば難しいのであるな。
むしろ嫁に行った場合のジュリアの立ち位置が不安なのである、先行き不透明というやつなのである)
親子揃って似たような思考を展開するプレインズ親子の横で、改、刹那、美奈、恵子、剛の神崎組の五人がある一点を向いた。
いつの間にかでかい棺桶を背負ったマキナと全身白の少女が両手を合わせて取っ組み合いをしているのだ。
「あ、姉貴……こんなとこまで来て何やってんだ…」
「はわー、お姉さま楽しそう」
「諦めろ改、真希波は基本善玉でも喧嘩が絡むと駄目だ、見境がないとは言わないがかなりアレだぞ」
「姐さんは喧嘩好きだからなー」
「狂犬だ、あいつは。俺たちにも止められん」
改はあまり喧嘩をしている時の神崎 真希波を見たことがなかった。
それは真希波が喧嘩をする際常に改が側にいなかったからだ。
しかし他の四人は真希波との喧嘩経験者で仲間だ、その点が実の弟と他四人の仲間での差であった。
だからどうなると言うわけではないのだが。
「なあなあ、いいだろぉ?こんなとこで組み合うだけじゃなくってさぁ、もっと激しく喧嘩しようぜぇ?」
「リカルドの守護者としては血の気の多い貴女は不適切だと思うのだけれど、
棺桶になっている貴女とその中のリカルドはどう思っているのかしら?」
「そうですね、マキナ様は喧嘩好きな以外人格者であり一騎当千にして三界に並ぶ者無き天下無双の特殊能力ですから、
このあたりは並々ならぬ尊敬と崇拝の念を感じられねばマキナ様の信者はやっていけませんが全てを満たした私に不服はありません」
「えーと、とりあえずマキナさんと居るともっと新しい世界が見られそうかなーとは、今のところ」
白い少女はなるほどと頷くとマキナの顎めがけて鋭い蹴りを放つ。
マキナはそれをダメージを負う威力の蹴りではないと見切っていた。
だが神崎 真希波としての経験から顎を狙う攻撃に対し瞬時に白い少女の手を放し回避する。
白い少女は重力を感じさせない動きで大きく飛び下がり、ゆっくりと着地する。
そして大きく手を払うと、展開されていた【絶対無敵の理】を解除した。
「ようこそ【機械仕掛の神】、【機械仕掛の悪魔】。
そしておかえりリカルド・フォス・ユグドラシル。
我が名はマグナ・ベアト・ユグドラシル。
世界樹ユグドラシルが持つ無形の意思を樹の精霊として束ね器とした妖花に込めた世界樹の管理者」
「おう、よろしく」
マキナとマグナは軽い握手を交わす。
「なんか聞いて良かったのか?今の」
「問題ないわ、世界樹は名の通り世界の物。
神の為、人の為、悪の為、全てに開かれた存在なのよ。
もっとも、直接地上に干渉出来ない神々にとって悪魔が世界樹に近づくのは我慢ならないみたいだけど」
マグナはそう言って笑うと世界樹に向けて歩き出した。
「最初に創造された人間を大元に、
神々の守護を受けたエルフ、ドワーフ、獣人、龍人…
そして、邪神に生み出されし亜人たち。
神々とその使徒である天使、邪神とその眷属たる悪魔。
全ての種族に、あらゆる命に開示される世界の真理を神は良しとしなかった。
故に神々は天使を遣わし、エルフ達に使命を与えた。
『世界樹を、この世の全ての叡智を守護せよ、さすれば汝らの繁栄は永遠となる』…ってね」
「なるほど?次期族長候補の価値が高まる訳だぜ。
お前は誰が族長になろうが、誰が世界樹を使おうが構いやしねぇ。
だから今のガチガチに護られている族長より、ある程度自由に動き回るからこそ手薄な次期族長候補を狙う…合ってるだろ?」
「そうね、まだ付け足すけれど」
マグナはそう言って、自らの胸に手を添えた。
「私の、世界樹ユグドラシルの精霊たる私を受容する器。
【白き華の少女】ベアトリーチェもまた、狙われる存在なのだよ」
マグナはその後も言葉を続けた。
世界樹の精霊の器、肉体として完成された存在である白少女。
その魂は永遠の少女。
無垢な乙女の持つ魔力は、その身に宿す力は神にも近しい。
そして、マグナと同等の権限を持つベアトリーチェは世界樹に大地の、大気の魔力を介して接続し、
例え世界の裏側からでも、地の奥底でも世界樹の叡智を引き出せる。
そして、心優しいだけで強くはなく、才覚も無いリカルドが次期族長候補として有力な理由。
「リカルド・フォス・ユグドラシルはベアトリーチェの寵愛を一身に受ける…
つまりは、世界樹を自由に扱える白少女を自由に出来る存在なのだよ」
「……なーるほど、合点がいったぜ。
実力も度胸も無いリカルドを操り人形にでもしちまえば世界をまるっと頂けるも同然ってな訳だ!上手すぎる話だなぁ!
……胸糞悪りぃ!!」
地面が割れる。
マキナの踏み抜いた足が地を割って、轟音を響かせる。
「胸糞悪りぃぜ!要は!正面切って世界樹奪おうって度胸のねぇ腑抜けどもが!
他人の迷惑顧みず下衆な手段で盗み取ってやろーとしてるってことだなぁ!?」
「正にその通り、花マル大正解だ……で?
そんなにキレて、何をするつもりだい?」
「決まってらぁ!ブチのめすんだよ!!
腑抜けどもがこれ以上腑抜けたマネ出来ねぇ身体にしてやるのよ!」
その言葉を、その意志を待っていた。
そう言わんばかりにマグナは笑った。
「なら、見せつけてやろうじゃないか!君の正義を!君の強さを!
丁度いい時期だ!始めようか!大武道会を!」
【機械仕掛の神】。
物語は変わり始める。
あらゆる悪の一切は駆逐され、神の名の下に全ては終幕する。




