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死者は蘇らない

イエス・キリストは死後蘇ったという。


では、人は皆すべからく生き返る術を持つのか?

答えは否である。


死の淵より蘇った人間は多い。

医療技術の進んだ日本や、世界各国の国々。


果ては今よりも昔、医療技術の乏しい時代であっても。



しかし、それでも尚、完全な死者蘇生が存在するかと問えば否であろう。



人は産まれ、生きて、死ぬ。


次代に命を託しながら。


まるで、自らの肉体が死ぬ為に変質していくかのように老いて死ぬ。



であれば。


死者が蘇ったその時、人はその蘇った元死者に対してどう接すれば良いのだろうか?



#####



[グランス王国、ナシル村]



王都に近い村、ナシル村。

王都から旅立った冒険者の多くがこの村を訪れ、また散らばっていく。


周辺の環境から魔物が少なく、強さも駆け出しの冒険者には手頃だ。


彼方に見える王都の防壁を見れば、王都から離れた実感もわいてくる。


そして今、村には数人の若者が滞在している。

王都から来た冒険者が殆どだが、珍しい一団があった。


暗めの配色をした学生服の一団。

かつて暴虐王が好んで着用した「ガクラン」に酷似した学生服を纏う一団は少々毛色の違う集団であった。



「やれやれ…改と刹那はまだ帰ってこないってのかい?」

「無理、王都まで遠い、時間が足りない」

「お兄ちゃん達、本当にお姉ちゃんを見つけられるのかなー?」



大柄な男と少女が二人。

ここに二人の少年を加えた一団は王都の逆方向からこのナシル村へ辿り着いた。


王都の逆、グランス王国有数の危険地帯である「不死山脈」からだ。



その手前、「不死の大樹海」の奥地、世界樹を擁するエルフの里「白少女の聖域」。


更に王都へ近づけばゴブリンが多数生息する「小鬼の平原」。

冒険者駆け出しなら一度は挑むとされる「試しの迷宮」


そしてようやくナシル村へと辿り着くのだ。


つまり、この一団は最低でも駆け出し、最高でエルフの里まで辿り着いたか、その先を見たという事になる。


一団の服装はけして綺麗とは言えない。


だがその姿をから滲み出る威圧感は仮初めのものではなく、本物の実力者のみが身に纏うものだ。



「姐御は死んだ…死んだ姐御そっくりの奴を見たからって、それが姉御の筈がない。

いい加減夢から醒めるべきなんだよ、あたいたちは」


少女、いや。

神崎 真希波の一の舎弟、鳥井 恵子(ケイコ)は彼方を見つめる。



彼女達は皆、訳の分からぬまま異世界へ飛ばされた仲間達である。


神崎 改、東条 刹那、鳥井 恵子の三人。


大柄な男、真希波の戦友の一人である城田 (タケシ)

東条 刹那の妹にして真希波の戦友、東条 美奈(ミナ)


この五人で異世界へ飛ばされ、つい最近まで一緒に行動していた。



俗に不良に分類される彼等は改以外、不良としての経験と武器を持っていた。


だが、彼等が転移した「小鬼の平原」ではその武器は通じず、危機に陥ったところで特殊能力(アビリティ)が発現。


見事窮地を脱した彼等はゴブリンを倒し、稀に盗賊を相手取りながらも前進していた。



全てはあの日、「小鬼の平原」で見たものの正体を確かめるためである。



凄まじき破壊の閃光を放つ機神【機械仕掛の神デウス・エクス・マキナ】。


その狂喜に染まる表情は遠く離れた彼等の目にもはっきり見えていた。



「確かめる、悪くない」

「わかってんだよ……あたいだって、姐御が生きてるんならまた会いたいさ…でもよぉ、どうすりゃいい?」



恵子の肩は震えていた。


剛や美奈はどうすればいいかわからないといった表情をしている。



「あんたらだって見届けただろう?姉御の死に顔を……すげぇ顔してたよなぁ」



ポロポロと涙がこぼれて、止まらない。



「姐御は!「まだやれる」って顔のまま死んでた!

全身に鉛玉を喰らって!小刀(ドス)を突き立てられても!姐御はまだやれたんだ!

それなのに、死んじまってよぉ!さぞや無念だったろうさ!

あそこにあたいらが居たら!あの抗争の日!あたいらが姐御の助太刀に間に合ってたら!こんな思いしないで済んだかもしれねぇんだ!

それを!あたいらが尻込みしちまった間に、姐御は……」



最後にはかすれるように、言葉が途絶えた。


普通、ヤクザの抗争に飛び入り参加できる人間はそういないだろう、

真希波が特別だっただけで。


だが、恵子はそれを悔やんでいた。


真希波の一の舎弟を自負していた彼女にとって、真希波についていけず、真希波と共に戦えぬまま死なせてしまったという事は恥であった。



#####



泣いている。


マキナが見たのは涙だった。



ナシル村に到着し、見つけたのは懐かしい衣服。

懐かしい喧嘩仲間。


だがどうだ。

マキナの可愛い舎弟が泣いているではないか。



鳥井 恵子は見上げた舎弟であった。


出会いこそ喧嘩相手だったが、敗北した後マキナの軍門へと下った恵子。


義理堅く、古風な気質を持ちながらも今時の少女らしさを持ち合わせた恵子。


色気より食い気より喧嘩を好んだマキナに女らしい楽しみを提供しようとした恵子。



そして、ヤクザの抗争に飛び入り参加しようとしたマキナを必死に止める恵子。



全てが好ましかった。

姐御、姐御と慕われるのも悪くなかった。

喧嘩に明け暮れる日々に女らしさという彩りを与えてくれる舎弟は神崎 真希波にとって一種の清涼剤だった。



その舎弟が泣いている。



マキナはその時、「神崎 真希波の死」をようやく実感した。



#####



「刹那、改、戻ったのか」

「ああ、予定より早く戻れてよかった」



ナシル村に残っていた三人とマキナ達が対面する。

マキナとマキナに似た姿をしたディアを見て三人は硬直した。



「え?真希波お姉ちゃん?ほんもの?ですか?」

「あー、やっぱり驚くよな」

「真希波…生きていたのか?いや…」

「改くらいのものだろう、驚かないのは」

「え、そうなのか?」



「あ、姐御……」

「マキナ様?」



マキナの腕の装甲が光の粒子になって消える。


マキナが恵子の頬を撫でた。



「心配かけちまったみてーだな、城田、美奈…恵子」



マキナの口から真希波の声が出た。

マキナの顔が真希波の心のままに表情を変えた。



「ほ、ほんとに姐御なのかい…?」

「おう、天下無敵の喧嘩マシーン、神崎 真希波サマのご登場よ」



恵子は周りを顧みずに泣いた。

それは親に再会した子どものように純粋で、喜びに満ちた涙だった。



「成る程、これは…」

「ディアさん?なにかわかるの?」

「ええ、マキナ様の魂は強い魂ですが、やはり死によって欠けていたのでしょう。

それ故に今まで自由な感情表現に支障をきたしていた。

しかし、弟君やかつての御友人がたの心に残るマキナ様の御姿、すなわち人の心に生きるマキナ様の思い出がマキナ様の欠けた魂を補完したのでしょう」

「へー、そんな事わかるんだね」

「悪魔ですからね、しかし人の心とはやはり素晴らしい。

マシンへの情熱といい、人間とはやはり奥深い存在です」



ディアの悪魔にしては珍しい人間への評価を聞きながらリカルドはマキナを見た。



(マキナさんは死してなお人から慕われていた…まるで、歴代の族長のように。

……僕も、なれるんだろうか)



リカルドは次期族長候補として、その資質を自らに問いかけた。



#####



「しかしまぁ…お前ら見事なまでにボロボロだな」



マキナは五人を見て思う。

身にまとった学生服は目立たないまでもボロボロである。


まぁ、要するにワイルドさを演出するかのようなボロボロさなのだ。



「修羅場を潜った、それなりにな」

「そーですよ!大変な目にあったんですからー!」

「同感だ、日本にいればまず体験し得ない遭難だった」



口々に飛び交う旅先での苦労を聞くに、遭難状態に加えて魔物の襲撃を受けたらしい。


あとは文化レベルなどが現代日本と違う為に苦労したようだ。



「ふーん……まぁ、今のあたしは守護者型(ガーディアン)特殊能力(アビリティ)だから、人間的な苦労はねぇな」



マキナは人間を辞めている、呑気なものだ。

今や必要栄養素はケンカニウムだけなのだろう。


しかしマキナの発言に食ってかかる者が居た、恵子である。



「そうだよすっかり忘れてた!姐御!なんだってあんなもやしっ子のお守りなんかしてるんだい?」

「あー…まぁ、なんつーの?あいつのお守りをする事があたしが転生する条件だったからな…」



ポリポリと頭をかくマキナを一先ず放置して恵子はリカルドを見る。


細い。

肌も白いし、気弱そうだ。

喧嘩慣れした人間では無い。いやエルフだけども。



「……姐御ー、ほんっとーに大丈夫なんですかこいつ?

こんななりでよくもまぁ姉御と一緒にいましたねぇ」

「ん、まぁリカルドといると喧嘩の種に困らねぇしなぁ」



事実である。


リカルドは気が弱い。

だが芯は強く、自分の意見は主張する。

おまけに記憶力が良く、勉学に励むたちだ。


今までは特殊能力(アビリティ)も無く、単純な身体能力(ステータス)において格闘、戦闘技能が劣りがちであるが故に劣等生扱いを受けていたのだ。



しかし、今のリカルドには【機械仕掛の神デウス・エクス・マキナ】が居る。


劣等生と舐めてかかる奴は喧嘩相手にして問題無いし、なによりリカルドを見下している奴が学院には多いのだ。


神崎 真希波にとってそういう素行に問題がある奴は喧嘩相手だ。

伸び上がった鼻はヘシ折らなければならない。


校内有数の問題児も真希波の手にかかれば大人しくなった。

頻繁に喧嘩をする真希波だったがこれでも授業態度は良く、面倒見も良い。



「喧嘩マシーン」である事以外、神崎 真希波という少女は優良な生徒であった。


「好戦的かつ戦闘狂である以外は成績も授業態度も良く、先生をよく手伝ってくれる良い生徒でした」

と小学校卒業時に担任教師から総評された事はある意味で伝説だ。



「マキナさん、ケイコさん、皆さんに折り入ってお願いがあります」

「ん?どうしたよ」



リカルドの言葉に皆の視線が集中する。



「僕に喧嘩の仕方を教えてください」



リカルドの言葉は唐突だった。

しかし、この一言からリカルドは一歩確実に踏み出した。

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