サヨナラと異世界と
[世界樹の街道 馬車の中]
プレインズ公爵家の家紋をあしらえた馬車が街道を行く。
無人の御者席、馬車を引くは【盤上の騎士団】の【双騎兵】。
馬車の中には九人の人影があった。
プレインズ公爵家当主ライゾウ・キフ・プレインズ公爵。
その娘ジュリア・チェス・プレインズ公爵令嬢。
プレインズ公爵家家臣団のジュリア専属の家臣であるナナイ・マテアルとメシエ・ファクト。
世界樹の御子リカルド・フォス・ユグドラシルとその守護者【機械仕掛の神特殊改修型】と【機械仕掛の悪魔特殊改修型】。
そしてもう二人。
転移者 神崎 改と東条 刹那。
「喧嘩マシーン」神崎 真希波の弟とその戦友といったところである。
「ふぅむ、はてさて、いやはやこれは……美しき姉弟愛といったところであるのかな?」
「姉貴、いい加減離れてくれよ。
恥ずかしいし、姉貴そっくりの人の目がヤバイ」
改の言うとおりである。
ディアの視線が改とマキナに突き刺さっている。
理由はたった一つ、先程からマキナに抱き抱えられあたまに顎を乗せられたままで馬車の座席に座っているのである。
しかもマキナは無表情で。
もっとも、狼狽えているのは改だけであってマキナはちっともこたえていない。
マキナにとっては二度と会えない筈の身内との奇跡的な再会だ。
一緒に居る刹那とは後で喧嘩したいと思っている。
「マキナ様の御尊顔そっくりの男…弟君…うっ、だ、駄目だ自重するんだしかしああ美しいマキナ様マキナ様マキナ様…」
「ぬははは…禁断の愛か!
いささか背徳的に過ぎるがしかし、アレだな!うむ!……うむ!」
「父上、無理に言葉にしようとする意義もないかと」
馬車内に奇妙な空気が溢れた。
一番気まずいのは改だ。
「あ、あーと、そうだ、自己紹介がまだだったよな?
俺の名前は神崎 改、神崎 真希波の弟だ」
「……東条 刹那、一応神崎姉弟の友人ということになる」
「あ、えっと、リカルド・フォス・ユグドラシルです。今はマキナさんに守護者をやってもらってます」
二人の自己紹介を受け、リカルドが返すと改と刹那はマキナを見つめた。
「しかし…まさかこんな異世界くんだりまで来て死んだ友人に、しかもこんな形で再会しようとはな…
事実は小説より奇なりとは言うが、いまいち現実味が無いな」
「そう言うなって、確かに姿はちょっと違うけど顔や体型なんかは一緒だ。
俺も自信がなかったけど、この反応は間違いなく姉貴だよ」
「そのちょっとがデカいんだ…」
一同は気を取り直し、一番最初に話すべき話題へと突入した。
そう、転移してきた二人の事情である。
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[回想・日本 神崎家]
「姉貴…」
神崎 改の姉、唯一の肉親である神崎 真希波が死んだ。
喧嘩を何より好んだ姉の身を案じ、それでも支え続けた改であったが、
唐突に訪れた肉親との死別を受け入れることは容易ではなかった。
極道の抗争に助太刀として参戦し、二大勢力を討たんと現れた第三勢力相手に孤軍奮闘した末に致命傷を受け死亡。
その死に様はかの武蔵坊弁慶のように仁王立ちであった。
「姐御が死んじまうなんて…まさか夢にも思わなかったなぁ」
「然り、強い女だった」
「真希波お姉ちゃん…」
「奴は確かに人間離れした怪力と戦闘センスをもった女だったが……奴もまた、人の子だったという訳だ」
神崎 真希波と闘い、慕った戦友達。
少ない親戚筋の集まった葬式の際もこうした戦友達が集まっていた。
改の前には骨壷が置いてある。
真希波の骨だ。
女にしては大きな背丈でいつも弟の前を歩いていた彼女もまた、こうして小さく纏まってしまった。
「くっ…ぐぅ……」
どうしようもなく溢れた気持ちが涙となって頬を伝った。
真希波の戦友達もまた、どうしようもない気持ちを抱えて打ち震えていた。
突然、それは起こった。
「!?……地震」
「きゃあっ!?」
「おいおい止しておくれよ!こんな時に揺れることも無いじゃないさ!」
「御託はどうでもいい!結構揺れが強いぞ!身を守れ!」
空間が歪み、風景が変わっていく。
気がつくと、そこは見知らぬ空間だった。
「くっ…!ああもう!なんなんだいここは!」
「不明」
「俺たちの他にも結構な人数がいるな…あいつらはなんだ?」
体育館ほどの大きさのある白一色の空間にはかなりの人数が倒れ伏している。
『レディース!エェン!ジェントルメェン!皆様ようこそお越し下さいましたァ!?』
体育館のステージの上、よくわからない物体が叫び出した。
大きな目とクチバシのついた仮面。
ピエロのような衣装な身を包んだ
……こどもくらいの何者か。
胴体は地面より浮き上がり、手袋と靴のみが独立するかのように追随している。
『くたばったまんまで良いからお聞きくだサァイ!OK?……イェーイそれでは始めまっしょう!』
ふざけたように嗤い、踊る道化。
何人かの人影は勢いに呑まれ動かない。
『ヒャハハッ!コングラッチュレーションおめでとう!皆々様方は今いる世界を捨てて、別世界へと旅立つ権利を手に入れましたァ!
……文句やナンダは受け付けてねぇ!とっとと不可思議な異世界ライフをお楽しみしやがりくださいませってなぁ!』
道化がそう言うと世界は再び歪み、幾数人の人々は異世界へと投げ出された。
そこからは厳しい道程となった。
改と真希波の戦友達は協力して人里へと移動した。
人里離れた山中へと転移して一週間ほどでようやく大きな村に辿り着き、そしてある光景を見た。
地をえぐる閃光。
吹き飛ぶ有象無象。
そして、破壊の光放つ【機械仕掛の神】。
その狂喜の笑みを浮かべた機神を見て、一行はその笑みの中に神崎 真希波を見つけた。
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「……と言う訳で、俺達は王都に近い村まで移動した時、運良く公爵様に拾われて急行して来たんだ」
「ぬははは、人相書きの機神殿とあまりに良く似た面構えであったのでな?何かあると思って連れてきたのよ」
リカルドは首を傾げた。
アラタとセツナの話はよく分かったが何故プレインズ公爵がタイミング良く現れたのかが不明だからだ。
「リカルド君、父上は最近エルフとの交流に力を入れていてだね、
それでまぁ、私も君のことを話したりしたからその、事情通なのだよ、うん」
「はぁ、まあジュリアさんが説明してくれていたのなら、納得です」
ジュリアはしどろもどろになりながらリカルドに説明している。
その頰は赤く染まり、必死そうに弁明する理由もジュリアにはない筈なのだが。
誰の目から見ても気があるとしか見えない。
(ぬはははは、ジュリアめ中々親密そうではないか?
リカルド君も嫌ってはないようであるし、エルフらしからぬ欠点とやらも機神殿が居るようなら気にするほどの欠点ではあるまいし?
劣等生の事を頬を染めて語るのを訝しんで里に尋ねてみれば次期族長候補最有力というし…
公爵家の未来も明るいやもな、ぬはは)
ライゾウは内心上機嫌だった。
後継ぎの男児に恵まれず、産まれたジュリアが婿を迎えねばプレインズ公爵家を親戚筋に任せる他ないかと消沈していたがしかし。
堅物に育った愛娘がしどろもどろになり、幾許かの恥じらいを見せるほど心許した相手。
それがエルフ族の次期族長候補ならば婿入りは無理でも嫁入りを許容できる。
愛娘の将来が明るいと思うと笑みがこぼれるのであった。
「さて、もうそろそろ近場の村…ナシル村に着く頃であるな、ジュリアよ、そろそろ速度を落としても良いのではないかな?」
「あ、そ、そうですね父上!失念しておりました」
村が既に肉眼で捉えられる距離まで来ている。
マキナは改から離れ、窓から外の様子をうかがう。
今となっては懐かしい気配がして、もうすぐ巡り会えることに知らぬ間に震えた。




