KISSする機神と予期せぬ再会
[リカルドの精神世界]
『えへへぇーマキナ様ぁ……』
ベッドの上、擦り寄ってくるディアの頭を撫でながら暫く思索にふける。
ちょっと可愛がってやったらいつもの面影を残さぬ程デレた。
いや、ディアはいつもツンツンしてる訳じゃない。
ただ好意的かつクールな感じだ。
さて、あたしはよく誰かと寝ている女だ。
喧嘩の一環ということで昔張り合っていた女番長と寝て以降、
あたしは「夜の喧嘩」をするようになった。
男も女も拳を合わせて肌も合わせると仲良くなれるので、喧嘩友達に困らなくなると思って積極的によろしくやっていたのだ。
まぁ、結果として喧嘩友達は増えたが、「夜の喧嘩」をする奴ばかりなのはいただけなかった。
で、だ。
そろそろリカルドへの勧誘がウザくなってきたので対抗策をと呟いて、ディアが提示したのは儀式だった。
悪魔は儀式が好きなのかと思えばそうではなく、ただ恐れ知らずな周囲にあたしらのヤバさを感じとらせようという意図らしい。
御誂え向きにリカルドにつっかかって来たカモをディアが制圧、そのまま出て行く。
そういえばディアは今回が初現実世界だったはずだ。
前に何やってきたかは知らないがリカルドの守護者始めてからは初めての現実世界のはずだ。
で、まぁ長々と芝居がかった前口上に飽き飽きしつつそういえば儀式の締めって何すりゃいいのか聞いてなかったなーなんて。
まぁ、キスをくれてやったわけだ。
リカルド放心、周囲唖然。
ディアは使い物にならなくなった。
いち早く復帰したリカルドがその場を離脱し、午後の授業に突入。
今はジュリアのガードと牽制が効いていて周りに勧誘は居ない。
で、あたしはスイッチの入ったディアを骨抜きにした、と。
いやー……ティリーの奴にも通信で怒鳴られたし、ミスったなーとか思うわけだ。
#####
「突然ですが、明日から僕は故郷に帰ります」
「そんな、別れる奥様のような事を言わないでください我が契約者」
『つーか守護者の解雇って出来んのか?』
出来たら携帯みたいでなんかやだなと思いながら。
放課後、リカルドはすぐにベッドに直行した。
そして精神世界に来たのだ。
第一声は「なっ!?なんで裸なの!?」だった。
あたしらはさっきまでベッドの上でお楽しみだったんだ。
仕方がないだろう。
ちなみにキスの件は準備段階から無許可無相談だった。
プリプリ怒るリカルドをみて変態が目をつける訳だと納得する。
「いや、あのね?今日の件がもうお爺様に伝わったみたいで、明日からは「黄金色の一週間」だし一度帰って来なさいって」
リカルドがディアに茶化されて慌てて補足する。
ディアの奴はしばらくして元に戻ったが、リカルドへの態度が最初よりフレンドリーになった気がする。
雰囲気が柔らかくなったというヤツだ、寝て正解だったな。
「エルフの里、それも世界樹のある場所というと「白少女の聖域」ですか?
随分遠い筈ですが…」
「うん、学院にも何人か同胞はいるし通信方法が無いわけじゃないから…」
成る程、後継者をホイホイ留学させるあたり進んでるとは思ったが連絡手段も発達してた訳か。
「……まぁ、神ならばともかく、後継者が悪魔と接触したとなれば仕方の無いことでしょうね」
「あ、いや、別にディアが悪いんじゃなくて…」
「いえ、いいんです。
学院に私という存在を知らしめ近寄り難くする方策は成功と言えるでしょう。
そこにエルフの監視網を織り込んで居なかった私の落ち度です」
リカルドもディアも申し訳なさそうに謝り合う。
なんだかちょっとおかしくなって、リカルドの頭をくしゃりと撫でた。
ちょっと弟の小さい頃のことを思い出してしまった。
「ま、マキナさん?」
「ふふっ…リカルド様、どうやらマキナ様は帰省することに乗り気のようですよ?」
「ホント?……っていうか、いい加減マキナさんが直接喋れば早いと思うんだけど」
「輪廻神ティリー様によるとですね、マキナ様のステータスで喋ったら騒音兵器も真っ青の音が飛び出しかねないそうで……」
あー、と納得して頷くリカルド。
失礼な奴だなという気持ちを込めて頭をぼっさぼさにしてやった。
#####
[グランス王国王都 駅馬車広場]
リカルドはその日駅馬車に乗って里に帰る腹づもりだった。
しかし、悲しいかな情報は流れるもの。
昨日は学院内から遠くエルフの里に情報は渡ったのと同じく、しかし悪い意味で情報は拡散した。
「リカルド・フォス・ユグドラシル!
国家管轄内における違法な悪魔との契約行為の疑いでお前には逮捕状が出ている!
大人しく投降せよ!」
王国騎士団。
名の通り国家の防衛を担任する組織であり、国内の秩序を維持する組織でもある。
当然、事件とあらば捜査から犯罪者の逮捕までを担い。
勿論、魔物が現れ被害が拡大すればいずれは騎士団が動き出す。
無論、国家権力である。
リカルドは真っ青な顔で目の前の状況を見つめていた。
神が悪魔を従え悠然と佇む姿を。
「くっ、繰り返す!大人しく投降せよ!無駄な抵抗はやめろ!」
マキナが地面に【偉大なる破壊者】を突き立て威圧する。
「…我が神の前で威勢の良いことだな?
人間如きが我らに楯突いて……ふふ、果たして何秒「無駄な抵抗」が出来るのかな?」
ディアが悪魔の笑みを見せ、マキナもまた表情を狂気に歪ませる。
騎士団の面々は既にして【機械仕掛の神】の能力と危険性について周知していた。
曰く、悪魔と紙一重の守護者と。
悪魔と紙一重、つまり扱いようによっては悪魔と大差ないという事だ。
春の日が差す休日の王都に全く似つかわしくない緊張感が走る。
優しいはずの日差しはじりじりと焼けつくような熱に感じられ、
穏やかなはずの春風は乾いた荒野に吹く熱風のようだった。
「あいや待たれぃ、待たれーーぇい!」
パカラ、パカラと馬の蹄の音が鳴る。
リカルドは最早誰でもいいからこの状況を打開してくれる助けを求めていた。
馬は複数あった。
陣羽織を着た男の馬にジュリアが同乗している。
更にはナナイとメシエが御者席に乗った馬車が猛スピードで追従しているではないか。
リカルドはふと調薬師である実父が秘伝の胃薬を調薬しては服用していたのを思い出した。
「双方待たれいっ!拙者の名はライゾウ・キフ・プレインズ!プレインズ公爵家当主であーるッ!
この一件、プレインズ公爵家が預からせて貰うッ!双方矛を収めよッ!」
プレインズ公爵家当主を名乗る男の一行はその名を聞きどよめく騎士団の隙を突き、
神と悪魔の眼前に躍り出た。
「ぬはははっ!流石に神と呼ばれるだけはある!
その名に違わぬ重圧よ!」
「父上!彼女は戦闘狂です、下手に刺激しないでください!」
リカルドは安心していいのか不安になればいいのかわからなかった。
ジュリアの父親は知っている人が見れば完全に日本の武将だ。
リカルドの胃がキリキリと痛み出した気がした。
「マキナ様、どうやら相手は公爵、つまりは権力者です。
契約者にこれ以上の危害を加えられぬ為に貴族の後ろ盾を得る丁度いい機会かと……マキナ様?」
マキナの顔から表情が抜け落ちている。
それはつまり、戦いへの歓喜以外の感情が表情に現れるべき状態であるといえた。
無表情か狂気の笑みしか無い二択の表情の中で、とりわけ機械そのものである無表情からマキナの感情を読み取るのは至難の技だろう。
だが、いったい何故、表情が変わったのか?
マキナの視線は馬車に向けられていた。
「む…ぬははっ!成る程成る程!
神たる器に相応しき魂であれば、感じ取れる世界もまた常人ならざるものという訳か!」
「?…プレインズ公爵といったかな?いったい貴殿は何を知っているのかね?」
「百聞は一見にしかずと言うではないか悪魔殿、まずは見るが早しという事よ」
馬車の扉が開け放たれる。
出てきたのは2人の男。
黒髪黒目のこの世界では珍しい、だがマキナには見慣れた色合わせ。
マキナは駆け出していた。
誰にも止められぬ騎兵の如き前進ではなく、一人の喧嘩少女だった頃のように。
その無表情の仮面から、涙という感情を溢れさせて。
「姉貴!」
男の片割れーーー神崎 改。
死別し、二度と再会出来ぬ筈の姉弟が異界の地にて漸く出会いを果たした。




