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神よ貴女は美しい

グランス王国国立学院。

この学院には当然ながら貴族が在籍している。

ある者は掛け替えの無い出会いを果たし、またある者は孤独を味わう。


当たり前の青春を謳歌し、学ぶ為に広く開かれた学院、それこそがグランス王国国立学院である。



[学院内貴族専用食堂]



貴族が居れば底には身分の差が生じる。

それは広く開かれた学院であっても同じ事だ。


貴族達の為に用意された煌びやかな調度品と一流のシェフが作る一流の料理。


一般生徒向けの食堂とは一線を画すその一席にジュリアはいた。



ジュリア・チェス・プレインズ。

誇り高きプレインズ公爵家の一員であり、中等科一年一組に所属する貴族の生徒だ。



「いやぁ、まさかあの「劣等生」に【機械仕掛の神デウス・エクス・マキナ】だなんて、世も末だねぇ」

「あら?良いじゃない別に、あいつが「劣等生」のままなら世界樹がどうなるか…」

「ハッ!少数民族のエルフだっていくら長老の孫でもあんな「劣等生」に長老の席を用意するかよ!ねぇ?プレインズさん?」



煩い男だとジュリアは感じていた。

第一ジュリアがよくよくリカルドと関わっているのは周知の事実。

この男はそれを知っているだろうに、どこか曲解した思考でものを考えているらしい。



「ジュリアもあんな最底辺の住人にわざわざ気をかけてあげるだなんて懐が深いよなぇ?」



この勘違い男はアンジェロ・ロッソ・サウピエント。


隣のマシな方が双子の弟であるカルヴァンス・ベノ・サウピエント。


サウピエント公爵家の跡取り息子とその補佐役の座が決まった次男。


ジュリアの見立てではプライドの高いアンジェロよりも、飄々としたカルヴァンスの方が跡継ぎに向いている。


アンジェロはリカルドに敵意を向けている。

それはリカルドのあまりにもエルフらしからぬ能力の低さからだ。


アンジェロは公爵家の子息。

周りの貴族も同調し、リカルドを虐げる。


ジュリアが庇い立てているからこそ未だにリカルドに対して大きな事はしない。

だがプライドの高いアンジェロなら我慢が効かなくなるのも近い筈だ。


ジュリアは同じ公爵の地位にあるサウピエント公爵家に対して波風を立てず、

また世界樹の護り手になり得るリカルドを出来る限り擁護する事で精一杯だった。



(相変わらず自己中心的で煩い奴だ……が、リカルドくんには悪いが私にも立場がある。

こんなくだらん男など切り捨ててしまいたいが、今は耐えるしかない…)


「兄さん、ジュリアさんは食事中なんだから、そう話しかけられちゃ困っちゃうよ」

「ん?ああそうだな、すまないなジュリア」

「いや、こちらこそすまないな。悪いが今しばらくまってくれ」



アンジェロの暴走をカルヴァンスが抑える。

ジュリアは内心で溜息を吐きながらリカルドの事を思い浮かべていた。



#####



[学院内一般食堂]



リカルド・フォス・ユグドラシルは強い。

今学院で一番の話題はこれだ。


ジュリアの側近であるナナイとメシエを退け、中等科三年のリン・マシマと互角。


そういう噂が立っているのだ。


半分ほどは事実だ。

ナナイとメシエはマキナが圧倒した。

だがデュオクロスと互角とは言い難い。

相手がリン・マシマでもそうだ。



食堂に来たリカルドはいつものように黒パン、野菜スティック、コーンスープ、野菜ジュースを買い求めた。

食堂のメニューは全て有料で、購入した食券と引き換える。


リカルドのエルフらしい要素の一つ、野菜好きが顔を見せた。


この世界に住まうエルフは森と共に生き、森を守る少数民族。

野菜や果物を好み、肉を積極的に食べない。


リカルドもまた一般的なエルフのように野菜をかじり、スープを飲み、千切ったパンをスープに浸して食べる。

野菜ジュースは食後だ。


そうして食事をするリカルドはいかにもエルフらしく、しかしそうあることで普段のエルフらしからぬ面が際立ってしまうのだが。



「やあやあユグドラシル氏、探したよ〜?

噂は聞いてるよ?いや流石にメキメキと頭角を現してきたねぇうん」


そんなリカルドの最近の悩みといえば、これだろう。


「ねぇねぇユグドラシルくん!そろそろ色良い返答が欲しいんだけど……?」

「おうおうおう!ユグドラシルに最初に話を持ちかけたのはオレら!答えを聞くのはまずオレらが先であるべきじゃねぇかな〜」



学院内カーストにおけるリカルド・フォス・ユグドラシルは最底辺に位置する生徒である。

根は善良だが引っ込み思案で気が弱く、

身体能力はからっきしの勉強家。


しかし、そんな彼に与えられた天恵による守護者(ギフトガーディアン)機械仕掛の神デウス・エクス・マキナ】。


トロールの様な凶暴な魔物も瞬殺。

死の行商の様な凶悪な悪魔をも圧倒。

プレインズ公爵家の家臣であるマテアル家とファクト家の有望なる精鋭さえもその神の前では赤子に等しい。


それこそは【機械仕掛の神デウス・エクス・マキナ】。


圧倒的武力を誇る守護者。

戦いに愉悦求る狂瀾の女神。


誰もがその狂気に恐れるだろう。

誰もがその雄姿に焦がれるだろう。


故に誰もがそれを欲した。


さらなる飛躍を求め。

さらなる栄光を求め。


叛逆を望み、勝利を求めた。



力とは、魔性だ。



それは誘蛾灯のように人を惹きつけ、惑わせる。



「なぁおい!そろそろなんか言えやコラァ!」



故に、人は過ちを犯した。


男子生徒がリカルドに手を伸ばし、その腕を掴もうとした瞬間。

光を呑み込む漆黒の魔法陣が虚空に現れる。



「へ?」



驚きの声も束の間に、漆黒より出でし黒腕がひ弱な人間をねじ伏せた。



「うぐぁ!?」

「愚かなる人間め……我が神の守護せし御子に手を出そうとは」



漆黒より姿現すは悪魔。

それも、鋼の女神と同じく、四肢を鋼の異形とする悪魔。



「悪魔!?学院内に悪魔だと!?」

「【機械仕掛の神デウス・エクス・マキナ】が狙いか!?」



対悪魔戦闘はグランス王国国民の義務である。


人を堕落させ魔に誘う悪魔。

一部の魔術師は悪魔と契約を交わす事で更なる魔力を更なる魔導の深淵へと歩みを進める。


だがしかし、悪魔とは契約の隙をつき人を惑わす。


絶対の契約に従うのが悪魔なれど、契約に穴を見つければ悪魔はそこを狙ってくる。


様々な国家があれど、魔術師が悪魔と契約を交わすというのは国家事業として扱われる。


それは強い力を管理、制御すると同時に暴走を防ぐためのこと。

これを秘密裏に行うことは犯罪であり、極刑に処される。


故にこうして悪を為さんとする悪魔を発見し、退治したならば国から恩賞を得ることが出来る。



「ふん……貴様等のような下等な存在には我が行動理念は理解出来んだろう…

大人しくそこで見ているがいい!」



尊大に振る舞う悪魔の前に神聖なる白き鋼の女神が姿を現す。

機械仕掛の神デウス・エクス・マキナ】だ。



「ああ……!我が神!【機械仕掛の神デウス・エクス・マキナ】よ!我が願いを聞き入れ給え!」



しかし、神は悪魔を裁かず、悪魔は神に従うそぶりを見せた。

その異様な光景に周囲の学生達はざわめいた。



「何者をも寄せ付けぬ鋼を持つ者、抗えぬ無二の力を持つ者、我が神【機械仕掛の神デウス・エクス・マキナ】よ!

その雄姿に誰もが惹かれ、誰もが欲しただろう!

しかし、それでは足りない!私にはもっと望むものがある!


それこそは従属!

幾千幾億の時を焦がれ、待っただろう!

我が身を御身に近付けるため、どれ程の手段を講じたであろう!

しかし、最早すべて意味も無い!

その御姿!その技!その御力!

全てが未だ遠く、果てない!

けれど、嗚呼美しく気高き我が神!

貴女に従う喜びの他に、我が望みはあるだろうか!?


悪魔として此の世に産み落とされ、闇の中でたゆたおうとも、我が業は満たされない!

我が業は情景!

その姿に、有り様に愚かにも嫉妬し己を虚飾し、その全てを模倣せんとすればするほど遠い!


ああ我が神!【機械仕掛の神デウス・エクス・マキナ】よ!

この愚かなる悪魔に救いを与え給え!

我が身を賭して御身に仕えたなら、それはどれ程の幸せだろうか!?


その美しさを、その強さを肌で、心で知る喜びの他に喜びはあるだろうか!?


私には最早それ以外は無意味!

満たされることなど無い!


我が神!嗚呼我が神よ!我が願いを聞き入れ給え!

我が望みは従属!対価は我が全てを捧げます!


どうか我が望みを聞き入れ給え!」



神が悪魔の顎に手をやり口付けを交わす。



後の世に伝わる秘術【守護者の契約コントラクト・ガーディアン】。

その最初にして最大の前例。


「機神と魔機の契約」と歴史に記されるその風景は、ただひたすらに甘い。


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