奪い手にする神の掌 -マキナバンデッドハンド-
グランス王国国立学院には決闘場がある。
そもそも国立学院たるこの学院は貴族のみならず優秀ならばいかに貧しい身分であれ、いかな民族であれ、敵国のスパイであれ貴族であれ誰構わず受け入れる。
グランス王国初代国王にしてグランス王国国立学院の創設者である「暴虐王」アキラ・フドウ・グランスはこう言葉を遺しているーー
ーー身分も民族も血筋も気にする奴ぁ小さい小さい!!男なら!いやさ漢なら!俺のように力で全てをねじ伏せて見せろぉ!!ーー
ーーだが!しかし!しかしだ!俺様の武勇に縋るてめぇら弱卒に俺様と同じ世界に立てと言うのは非情というもの!故に!てめぇらは決闘でケリをつけろ!四の五の言う奴ぁ反逆者だ!裁判にかける価値のねぇ腑抜けにゃ興味も情けもねぇ!ーー
ーーてめぇの意思を貫くなら!真っ向勝負でケリをつけろ!ーー
かの暴虐王の武勇はその生涯に渡り、かつ文庫本10冊に相当する超大作であるため、この場では割愛する。
そんなかの暴虐王が創設した決闘場ーー
グランス王国国立学院大闘技場内決闘室に今、三人の生徒が入室した。
『決闘室使用開始、決闘結界起動、完全閉鎖、決闘形式「2vs1無制限不殺」決闘開始5秒前…』
高鳴る心音が耳障りだ。
『5』
足が情けなく震える。
『4』
『出撃準備完了、出撃用意』
『3』
『2』
『1』
静寂、
震えは来ない、落ち着いている。
大丈夫、彼女は普段通りだ…
『START!』
「【機械仕掛の女神】!「出撃」!!」
「【戦場の運命剣】!」
「-歪み捻れ惑い霞む、我が望みは逃避!-【仮初めの亡霊】!」
メシエの姿が掻き消え、逆に機械の女神が姿を現す。
そして、決闘室の床に壁に天井に無数の剣が突き刺さった形で現れる。
「剣!?こんなにいっぱい何を…」
言うが早いか、ナナイが手近に刺さった剣を一つ引き抜くと、剣の造形が変わる。
一目で剣とわかる、いやあたかも剣という概念を形にしたような簡素な形状から、細身の刀身と緑色の美しい装飾をもったレイピアへと形状を変える。
「「疾風のレイピア」か…悪くない!」
ナナイの特殊能力はかなり珍しいタイプのものだ。
【戦場の運命剣】はあらゆる剣の概念を出現させ、抜いた瞬間にその正体が露わになる。
そして、その中に一振りのみ相手に対して絶対的な効力を持つ物が隠されている。
「さて、女神のお手並み拝見と行くか!」
ナナイは疾風のレイピアの補正により素早さが増した突きを放つ。
狂気の笑みを浮かべたマキナもまた近場の剣を引き抜いてから、空いた左腕を前に突き出す、【飛翔鉄拳】の構えだ。
ロケット噴射が火を噴き、ワイヤーが伸びる。
予想外の技に対してナナイはすんでのところで身体をそらしてかわす。
「ぬううっ!?なんと奇襲性の高い攻撃だ…!万死に値する!」
「ナナイぃ〜!これをぉ〜!」
姿を隠したメシエが相変わらず間延びした声で剣を投げる。
小さなナイフだ。
錆にまみれた短剣…「腐蝕の短剣」だ。
金属を腐蝕させ、弱体化させる短剣だ。
一見すると単なるボロいナイフだが、確かな力を持った呪いの品だ。
いける、ナナイは確信した。
あの鋼の女神はあらゆる意味で危険だ。
全身武器であるのは間違い無く、よくわからないが金属で出来ている。
ただの剣では言うに及ばず無力感を感じる結末が待っているのだが、この呪いの武器なら話は別だ。
「マキナさん!気を付けて!」
リカルドはその武器の正体に気付き忠告する。
マキナは狂気の笑みを浮かべたまま剣を振りかざす。
あ、いや、少し違う。
剣を抜いては光に変えて自らに取り込んでいる。
「んなっ!?」
「マキナさん!?窃盗ですか!?」
【奪い手にする神の掌】。
神崎 真希波は基本は素手で喧嘩を好んだ。
しかし、武器や防具も好きなのだ。
喧嘩をすれば何がなんでも勝ちに行った。
故に、神崎 真希波は武器を手に取った。
【 機械仕掛の神】も変わらない。
胸元から溢れ出した光の粒子が両手に集まり剣の形をとる。
しかしその形状は概念そのもの、シンプルな鋼の剣だ。
「素人が二刀流など万死に値する侮辱だッ!」
「マキナさんっ!」
尋常ならざる女神は尋常ならざる方法をとる。
手首を高速回転させて右手の剣をドリルの様に回転させ、左手の剣をプロペラの様に回転させる。
右手の剣が素早く突き出され、「疾風のレイピア」が削り取られる。
更には左手の剣が拷問車輪の如き勢いで振り下ろされる。
「うおぁあ!!?」
「ナナイ!!」
間一髪で狂気の波状攻撃をかわしたナナイは青ざめる。
右手の剣が掠めた場所は間違い無く円形に削り取られており、左手の剣が掠めた場所はガッパリと抉られている。
「リカルド!貴様!殺す気か!?」
「ま、マキナさん!?」
そう、マキナは今絶好調だった。
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ジュリアの取り巻き共が決闘を仕掛けて来やがった。
あたしはとにかく喧嘩がしたかったから反論もしねぇし異論もねぇ。
ただし腰巾着一号ナナイの能力、これがスゲー面白い。
ワクワクする。
楽しくって楽しくって……
『うっかり殺しっちまいそうだぁ!!』
穴あけ機となった右手の剣で突けば決闘室の床も人体も構わず穴ボコのチーズにしてやれる。
左手の剣なら触れただけでスライスしてやれる。
武器ってのは戦い方のバリエーションが広がって良いな。
やっぱロボが素手だけってのも味気ねぇし。
第一あたしにゃ雷を出すなりなんなり出来ねぇから、余計にそう思う。
『マキナ様!?うっかりで殺しなどしては不味いです!』
『平気平気ィ!どーせいつまた喧嘩ができるかわかんねぇなら楽しまなきゃなぁ!』
『そういう意味では無く!』
『殺すのは面倒だからってんだろ?加減するって!』
ってもまぁ、こんなゴリ押しの喧嘩がいつまでも楽しいかって聞かれちゃあそうじゃねぇ。
いつか楽しくなくなる時が来ちまう。
今はこうして嬲りに嬲る方針で楽勝出来るだろう…つまり、舐めプだ。
もっと歯応えのある喧嘩相手にゃあ通用しねぇし、第一こっちがつまらない。
『同感だよ、【機械仕掛の神】』
冷たい氷みてぇな声の後、衝撃と共にあたしは吹っ飛ばされていた。
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「マキナさんっ!?」
驚愕。
それは当然の話だ。
剛力無双を誇る鋼の女神が吹き飛ぶ。
これだけでも相当な衝撃だ。
だが、決闘室の壁を破って女神を吹き飛ばした相手の姿が問題だった。
ガシン、ガシンと響く独特な歩行音。
甲冑の様で甲冑ではない装甲。
バイザーの奥に光る人工的な光。
それはロボットだった。
誰が見てもおよそゴーレムではないが、しかし装甲に刻まれた文字は魔法陣に使われるものだ。
「さて?気は済んだか?」
『て、テメェ……!何もんだっ…!』
マキナよりも高い目線から、鋼の巨体はこう名乗った。
「全距離制圧型汎用戦闘兵器デュオクロス、グランス王国国立学院中等部三年所属、リン・マシマのパートナーだ」
そこに立っていたのは、確かな実像を持った機械だった。




