侯爵令嬢6
短いです。
衝撃の再会をした私は、個室でリードと話をすることになった。
積もる話もあるだろうと、団長さんが気を遣って下さったの。
淹れたての紅茶を一口飲む。
先に口を開いたのは、リードの方だった。
「スティリー、新しい家はどうだ?」
「お父様もお母様もいい人よ。私によくしてくださるし。期待には、答えられてない気がするけど」
そう言って苦笑する私にリードはそうかと笑った。
「そう言うリードは?セヴァンスター家って、結構高位な貴族だったはずだけど」
私が聞くと、リードは苦笑する。
「トライト家には負けるけどな」
「ご両親とは上手くいってるの?」
「ああ。2人とも凄くいい人でな。なんで今まで騙されなかったのか不思議だ」
その言葉に笑う。
リードの父、ミラービィ・セヴァンスター様と、母、リラードリア・セヴァンスター。
2人は凄く穏やかで、誰も怒ったところを見たことがないのだそう。
リードは、なぜ引き取られたのか話してくれた。
「セヴァンスター家は代々、騎士家系なんだ。けど、実の子が体が弱くてなれなくてさ。それで、どうしようかと迷っている時、たまたま出かけた町外れで見かけた丈夫そうな俺を養子に迎えたそうだ」
セヴァンスター家の家系図を思い出す。
確かに、当主もその前の当主も騎士団で何かしら高い地位を得ている。
例えば団長、副団長、総指揮官などなど。
セヴァンスター家は、実力者ぞろいとしても有名だったわね。
「セヴァンスター家の長男は確か…港の管理者だったっけ?」
「あぁ。兄上は、めちゃくちゃ頭がいいんだよ。すごく頭の切れる兄上を尊敬してるんだ。俺頭悪りぃし」
そう言って照れ臭そうに笑うリード。
今のお兄さんと上手くいっているようね。
良かったわ。
しかし、協会にいた頃よりも凄く成長したわね。
協会にいた頃は、2人で悪戯をしてよくミランダ先生に怒られていたもの。
懐かしいことを思い出しながら微笑む。
「変わったね」
「そうか?」
私の言葉にリードは不思議そうな顔をする。
「うん。なんだか、大人になった」
「そりゃな」
そう言って笑うリードに、今更ながら協会に居た頃とは違うということを思い知らされる。
何故か、チクリと胸が痛んだ。
どうしてだろう。
今の状況に不満があるわけじゃない。
むしろ幸せ過ぎて困るくらい。
不満はない。
ないんだけど…なんだか悲しいなぁ。
自分の過去が、薄れて行くみたいで。
なんだか、悲しい気持ちになった。
「…スティリー」
「ん?」
私は首を傾げる。
リードはしっかりとした、真っ直ぐな目で私の目を見つめた。
「俺は、お前がどんな高位な地位になっても協会にいた時のように兄妹だと思ってるからな」
その言葉に少し笑った。
昔から、リードは私の考えてることを当ててしまう。
そして、私が一番欲しい言葉をくれるの。
そんなちっとも変わらないリードに嬉しくなった。
やっぱりリードはリードだって。
「うん。ありがとう」
私がそう言うと、リードは笑顔を浮かべた。
その懐かしい、優しい笑顔に、私も自然に笑顔になった。
しばらく紅茶を飲みながら雑談していたのだけど、リードが思い出したように言った。
「スティリー。ナオトとはどういう関係なんだ?」
いきなりな質問にキョトンとしてしまう。
「ナオトさん?大切な友人よ。ナオトさんって、何でも知ってるの。とても物知りで、話していて飽きないわ」
私がそう笑顔で言うと、リードは複雑そうな顔をした。
何故かしら。
「リードはナオトさんの事が嫌いなの?」
「まさか!あいつはいい奴だし、腕もいい。騎士団の皆にも好かれてるよ」
リードは私の言葉に慌てて否定する。
それじゃあどうしてそんな複雑そうな顔をするのかしら。
不思議な気持ちで首を傾げると、リードは溜息をついた。
「まぁいい。今日は楽しんで行ってくれ。それじゃあそろそろ訓練も終わる頃だろ。行くか」
「ええ」
何がいいのかさっぱりわからなかったけれど、根掘り葉掘り聞くことでもないような気がしたので、リードの言葉に頷いた。
同時に立ち上がり、部屋を出て訓練場へと歩く。
廊下ですれ違うたびにリードが頭を下げられていたのを見て、改めて副団長なんだと思った。