侯爵令嬢5
遅くなりました
真っ青な空が広がる中、私は城の中にあるエルラ様のお父様の仕事場にお邪魔していた。
「君が、スティリーさんだね」
「スティリー・トライトと申します。今日はよろしくお願いいたします」
「よろしく。私はルートリューア。リューアと呼んでくれ」
リューア様、とても紳士的な人だった。
そして、とても知識が豊富で頭の回転が速い。
話をしていて、こんなにも必死になったのは初めてだわ。
「スティリーさんは、庶民の出身なんだって?」
「はい。3年ほど前まで、協会で育てていただいておりました」
その言葉にリューア様は考え込む。
なんだろうとリューア様の言葉を待っていると、リューア様が驚きの発言をなされた。
「スティリーさん。君には、魔法の才能があるかもしれない」
その言葉に目を見開いた。
魔法。
特定の人にしか現れない、普通の人とは違う力。
それは人々を救い、時には滅ぼす。
大昔、一度世界は魔法によって滅ぼされた。
それほど魔法は危険で美しいものだった。
「魔法の書物は読んだことある?」
「小さい頃に、魔法についての絵本は読み聞かせてもらっただけです」
私がそう言うと、リューアさんは本棚から一つ本を取り出した。
「これ、読んでみるといい。少し内容は難しいかもしれないけど、君に才能があれば意味を理解し、魔法を使うことができるだろう」
「…はい。ありがとうございます」
私は分厚い本を受け取る。
それからリューアさんに魔法についての初歩的なことを教わり、城の中を案内していただいた。
案内してくれたのは騎士団の団長さん。
護衛もかねているんだわ。
それにしても…
私は団長さんを見上げた。
「何か?」
爽やかな笑顔を浮かべる団長さんは、すごく体格がいい。
服の上からでもわかる筋肉を思わずまじまじ見てしまった。
「いえ、何でもありません。あの、一つお願いしたいのですが…」
「はい。なんでしょうか」
「こちらの騎士団にナオトさんが所属しておられると聞いたのですが、会うことは出来ますか?」
エルラ様から、城に行くついでにナオトさんに会ってきて欲しいと言われた。
なんでも、渡して欲しいものがあるのだとか。
それを預かっている私は、出来ればお会いしたい。
「会えますよ。ちょうど訓練中なので、訓練場になりますが」
「大丈夫です。我が儘を言って申し訳ありません」
その言葉に団長さんは笑う。
すぐに訓練場に向かった私は、ナオトさんを探した。
「ナオト。客だ」
団長さんの声に一人の男が反応した。
…え?
まさか、あれがナオトさん?
私は目を丸めて近寄ってきた男を見ていた。
「スティリー」
そう言って手を振る姿は、私の知るナオトさんだった。
服装だけで印象がガラリと変わるのね…
今はちゃんとした訓練服を着ているナオトさんは、立派な騎士様に見える。
他にも、少し合わないうちに逞しくなられたのかしら。
ナオト様に微笑む。
「お疲れ様ですナオトさん。誰だか一瞬分かりませんでした」
「服装違うからか? 今日はリューアさんに会う日だったよな?」
「はい。エルラ様からお預かりしているものがあるのですが…今は良くありませんね」
私はエルラ様から預かっている物を渡そうとしてふと思い出す。
そういえば訓練中ですわね。
私が笑って言うと、そうだなとナオトさんは苦笑した。
そこで団長さんに許可をもらい、訓練終了まで訓練を見学させていただくことにした。
「ナオト。俺は他にやることあるから、護衛を頼む」
「わかりました」
背筋を伸ばして団長さんの言葉に返事をしたナオトさんは、立っているのはなんだからと座れる場所へと案内してくれた。
「そういえば、リューアさんと会ってみてどうだった?」
座りながらナオトさんは言う。
「学ぶことがたくさんあって楽しかったですわ。リューア様は様々なことを知っておられます。会話をすることだけで大変でしたわ」
苦笑しながらそう言うと、ナオトさんはそうだなと笑った。
「リューアさんって、人によって言葉を選ぶんだ。俺みたいな馬鹿には分かり易いように話してくれる。スティリーが難しいって感じたんなら、それがリューアさんのスティリーへの評価なんだよ」
そう言われてそうなんだと納得する。
それと同時に、なんだか認められた気がしてとても嬉しくなった。
しばらくそうしていると、団長さんが誰かを連れて戻ってきた。
私はその人物を見て目を見張る。
その人物も、私を見て驚いた顔をした。
「リード⁉︎」
「スティリー⁉︎なんでここに」
リードは、私と一緒に協会に育てられた一人。
年が近いこともあって仲が良かった。
私がトライト家の養子になる1年前に、他の家に引き取られた。
会うのは久しぶりだわ。
「スティリー、リードさんと知り合いなの?」
ナオトさんが驚いたように言った。
私は戸惑いがちに頷く。
「小さい頃、一緒に協会に育てられたんです。騎士団に入団してるなんて知らなかった…」
「親にしか言わなかったからな。スティリーは?養子になったって聞いたけど」
「トライト家の養子に」
「トライト家だって?」
私の言葉に、リードは驚いた顔をした。
なんだろうと首を傾げると、なぜか納得のいった表情をする。
「なるほど。最近、トライト家の噂がやたら多いのはスティリーのせいだったわけね」
その言葉にちょっとムッとしながらも、団長さんに聞く。
「何故リードを?」
「リードは副団長なんです。挨拶をさせようと連れてきたのですが…知り合いでしたか」
団長さんも驚いているようだった。
え、副団長…?
その言葉に驚いてリードを見ると、自分の立場を思い出したらしいリードは今までと雰囲気をガラリと変え言った。
「お初にお目にかかります。騎士団副団長のリード・セヴァンスターと申します。以後お見知りおきを」
爽やかな笑顔で言い切ったリードに、私は目を瞬かせた。