1-1.
たぶん、自分はおかしいのだろう。
セラは最近、この一文から自己解析にふける。
自分は今、花も恥らう十六歳。
白馬に乗った金髪碧眼の王子とまではいかないまでも、それなりに品位と品格がある、顔の整った貴公子に心をときめかせてもいいはずである。
かっこいい男を見たら、キャーとかワーとか騒ぎ立てるものではないだろうか。
いや、そんな激しいリアクションは自分にはできないということは重々承知だが、少しぐらい懸想してもいいと思うのだ。
思うというのに。
思索にふけりながら歩いていたセラは、ふと足をとめた。
ずっと向こうの木立の合間に、獣が見える。
毛先の赤い、濃い灰色の毛並み。金属のように光る赤い目。狼に似ているが、狼よりは一回り大きい体躯。
呪獣。
それは昔から悪魔と同じくらい恐れられてきた、知能ある魔物だった。
「セラお嬢さん、何かいましたか?」
右手に弓を持ち、皮の胸当てを装備した男が、セラを呼んだ。
「なにも」
セラは何くわぬ顔で首をふる。
「そうですか。今日中に小鬼を退治してしまいたかったんですが、無理みたいですね」
男はぽりぽりと頭を掻いた。男の背後には、同じような格好をした男が他に数人いる。
彼らは兵士だ。最近、このゾグディグの森に住み着いた小鬼を退治しに来た。小鬼は、放っておくと町に来てひどい悪戯をする。
「すいません、セラお嬢さん。明日もまた付き合ってください」
すまなさそうにする男に、セラはこっくりうなずいた。
「領主の娘。このくらい、当然」
「ほんと、助かります。セラお嬢さんがいると、魔物がむこうからやってきてくれますから。よし、もう日暮れだし、引きあげるぞ!」
男たちは帰り支度を整えはじめる。
セラは帰り際にもう一度、獣のいた場所をふりかえった。
だが、もうそこに魔物はいなかった。
それを名残惜しく思う。
――セラは、呪獣に恋をしていたのだ。