一寸先の闇
浅はかだった。
物事には順序と言うものがある。いくら一念発起したといっても、赤ちゃんが突然ポケットに手を入れて歩き出すことなどあるはずが無いじゃないのと同じだ。まず、最初はアンヨが出来るようになってからおぼつかない足元で歩きながら手は平均感覚を守るための天秤に過ぎない。それをポケットに入れていては歩けるはずが無かろう。そして、幼稚園や保育園に行くころになってから寒さからポケットに手を入れることを覚える。最終的には、反抗期の象徴としてポッケに手を入れるのだ。
だが今の私はなんなしにポッケに手を入れていた。べべべ、別にポケットに手を入れているとボッチしていても孤高な少女を演じることができそうだからなんて思ってないし!!ポニーテールが風になびいて、やや下を眺めつつ歩く私は実にそんな少女を演じられてはいそうだが、別に演じてるわけじゃないし!
「なんだか、カルマに落ちいった気分……」
必然かもしれないが、涙がこみ上げそうになっていきた。いや、いつものことだけどやっぱり一念発起しても変えられない自分にね。
そんなこんなで、私は今日もディティールコーヒーの前に自転車を置いて立ち往生していた。右隣は本屋。左隣は薬局。ポジション的には本屋側で立ち往生。
だって、ディティールコーヒーの前で立ち往生していたら、もしかしたら私がカフェに入れない系女子だと言うことが見透かされてしまいそうじゃないか。道行く人が、それほど私の存在に気づく人もそうそう少ないことは知っているが、気づく人は気づくから怖い。
「はぁー」
ため息なんてついてみる。
だってため息をつけば、待ち合わせの人まだかな?なんてニュアンスが見て取れるじゃない?正直こんなに悩みこんでいる自分にもため息をつきたいけども。
そして、今日は何故ディティールコーヒーの前に来たのかお教えしよう。
物事には順序がある。
ならば、まず私が取るべき行動とは、カフェの前に来る練習でもすればいつかは入れるのではないか!という話だ。
アンヨから始まりポッケに手を入れる順序があるのだからこれもあながち間違ってはいないはずなのでは?…………
だが、目の前にディティールコーヒーがあるのを見ると入りたい願望も出る。
「ちょ、ちょっと一歩だけ…」
一歩!そう一歩が大事なんだ!
………………………
………………
………
もし……………もしだぞ?
一歩踏み出した瞬間、知り合いが現れたらどうなる?
もし、中学の知り合いなどが現れた場合には
『あ!トルテちゃんじゃん!』
元気良く私に向けて手を振り、中学以来会っていない再開に心弾ませる知り合い。
その反面では、一歩踏み出してディティールコーヒーに入ろうとしていることを悟られるのではないかとガクガクする私の心境があるではないか。
さらに会話は続いて
『あら?M子じゃない?どうしたの?』
と言いながら、その一歩前に突き出した右足は、後退させるしかない。
『あれ?トルテちゃん今からディティールコーヒーに入るところなの?丁度いいね!私もトルテちゃんと久しぶりに色々と話したいこともあるし入ろう?』
はっ!!!!
これは、ディティールコーヒーに入る手立ての一手なのでは?
『べべべ、別に独りでカフェに入ろうとしたわけじゃなくて、ほほ、本屋に行こうとしたのよ!でも、M子が行きたいなら入ってあげなくもなくもないけど…』
そうして、ディティールコーヒーの中にGET IN!
そして震える足を堪えながらも知り合いという心強い仲間がいることを過信して私はレジへ……
『トルテちゃん何飲む?』
…………………
………
……
消沈(先日の繰り返し)
「もう、妄想はやめよう」
一縷の希望を見出した先には闇しかない。
今日も私はカフェに入れなかった。
妄想は時として自分を苦しめることもある。
この小説の行き着く先に不安感を抱いた方に、言っておきましょう。
当面の予定だと、あと3,4話くらい同じような感じで続くかもしれません。
その後に主要キャラ追加って感じ・・・かな?