空になびくポニーテール
高校1年。夏。偏差値54。極一般的な高校。
高校1年と言えど、既に友達の輪が出来始めた今日この頃。
私は恐ろしいことを耳にしてしまったのだ。
「そういえば、あそこのカフェのカプチーノすっごいおいしいんだってぇー」
「えぇー、あたしコーヒー嫌いだから飲めないのよ」
「あははは、おこちゃま!あはははははははは」
そんなに、コーヒーが飲めないことは悪いことだろうか。
「でも、この前カフェでのんだモカはおいしかったわ」
「あぁ、モカねぇ」
………………………
もか…とな?
「そりゃモカはおいしいわよ」
……………………
そうして、彼女らは私の席の近くから遠ざかっていくのであった。
実は今までの会話に私は存在していない。そう、実はこの会話は私の席の隣で起きた会話の一部始終である。
だが、この会話には私の人生の薄っぺらさを実感するのに十分な会話だった。
なぜなら、私はモカやカプチーノを知っていても……
それらが一体どういった違いがあるのか分からないからだ!!
そしてもう一つ、ここ水桜高校での私のポジションは
ボッチ
中学の頃の友人は別の高校に行ってしまい友達も居ないのだ。
そして既に時は夏、夏休みはまだ遠いが夏休みが来るのを恐怖するしかないこの高校生活は私にとって憂鬱の二文字でまとめられる。
さらには、カプチーノやモカの違いを教えてくれる友達も居ないのだから悲惨な状況だ。友達が居ないということはカフェに同行してくれる友人も存在し得ないのだ。
これは一念発起して、私は動き出さなければならない!
と言うわけで、来たのは家から一番近くにあるコーヒー専門店ディティールコーヒー。
空を見れば雲ひとつ無い快晴。さすがに夏が到来していることを実感せざるおえない天気であって、それ即ち夏までボッチというステータスを守り通したことを意味している………泣ける。
だがこうして今、意を決してここまで来た自分が居るんだ。何かを変えられるかもしれない。いや、変われ。
「コーヒーを専門的に扱うといわれて有名であるチェーン店、ディティールコーヒー」
独り言を呟いてみる。
カフェという空間を彩るために設置された観葉植物や木製で出来た椅子などを見ると、周りの建物達に雰囲気を呑まれることなく確立した存在感をかもし出していた。名前負けしないなと言った感じだろうか。
吹き行く風は、観葉植物を揺らし和むような雰囲気だが、今の私には新たなる挑戦の予感としか捉らえられなかった。
家から徒歩10分、チャリで3分。
そんな近所に行くだけだというのに、空色の私の髪はポニーテールにして、昨日意気込むために買ったショートケーキの絵が入ったヘアピンを自分好みの角度に付けて来たのだ。服装はちょっと休憩がてらカフェに入りに来た学生という設定で水桜高校の制服を大胆にスカート短めにしてみたり、胸ポケットには意味も無くボールペンを刺してみた。
正直ここまでチャリで来たのでスカートがめくれてパンツが見えないか不安であったが、それは意気込みの中に溶け込んみ、逆にこの勝負パンツを見ろと言わんばかりの気持ちだ。すいません、嘘つきました。ちょっと後悔。
「完璧」
新しい一歩を踏み出すのにこれ以上に完璧なシチュエーションがあろうものか、いや、もっと良いシチュエーションはあるだろう。だが私みたいな平凡な女子高生(ボッチ系の中での話)にはこれで十分。
意を決して、いざディティールコーヒーの中へ!!
……………………
……………
……
もし………………もしだぞ?
メニューが多すぎて注文に悩んで店員さんを困らせたらどうする?
さらに最近のチェーン店などは英語でメニューを表記してその隣に日本語で書いてあったりする。それは外国人にとってはありがたい話ではあるが、日本人にとってメニューを見づらくする要因以外の何者でもないのだ。カフェという外国から来たものである感は出ていいのかもしれないが、やはり見づらい。だから、私の知識にあるモカとカプチーノを探し出すのに時間を要するかもしれない。むしろ、見当たらなかったときの事を考えるともう、恐怖感は増し増しだ。
「侮りがたしカフェ」
また、独り言ちって私は自転車のスタンドを蹴りサドルに臀部を乗せるのであった。
意気込みなぞ無くなった私にとっては、スカートの短い現状は泣ける状況ことである事の何者でもなかった…………
今日は良い夢見れるといいな。
コーヒー専門チェーン店・・・そんな得たいの知れない空間に入ることができない・・・
皆さん、そんなことありませんか?