ラッキーセブン
次に私が向かったのは、ゲーセン。
「田中様、何をなさるおつもりですか……」
デビッドは店の入り口にある棒を握った私をおっかなビックリで見ている。
「何って、ゲームよ
今更ここにきてあんたを殴って逃げるとでも思った?」
と言うと、デビッドは否定も肯定もしなかった。ってことは、内心そう思ってるってことでしょ? コラ、ここはウソでも否定せんかいっ!
私はその辺のイラもバチに込めて、KIRARAのヒット曲を叩く。コースはもちろん、オニ。こう見えても私、運動神経は悪くないのよ。華麗な私のバチ捌きをデビッドは口を開けて見ていた。
「やってみる?」
「わ、わたくしは……」
私がそう言うと、デビッドは真っ赤な顔をして私の顔を見た。
「やってみなよ、赤いのと青いのが流れてるでしょ。それが、この丸の中に入るときに、赤はここ、青はここを叩くだけ、カンタンでしょ?」
私はでも画面を見ながら遊び方を説明する。
「は、はぁ……」
「デビッド、こんな仕事してたらいけ好かない上司とかいるんじゃないの? 思いっきり叩いたら、ストレスも発散できるよ」
それでも躊躇している彼に、私がそう言ってバチを渡すと、
「て、天使にストレスなんて存在しませんよ」
と言いながら、素直にバチを受け取ってふんっと鼻から息を吐く。やっぱいるんじゃない、そういう上司。
「じゃぁ、いくよ!」
と私は2人モードの料金を機械につっこんで、足を肩幅に開いて構えた。慌てて、デビッドも同じように構える。
曲なんて知るはずもないデビッドは、最初こそさんざんだったけど、その内どんどんリズムに乗れるようになって、一気に達人級。だって私がちらっと見たら打つのを忘れそうになるぐらいの鬼気迫る集中力だったもん。
だだ、そんな状態で5曲も6曲も叩いてると、デビッドの息が上がっている。へぇ、天使でも息があがるんだぁと、妙に感心しちゃった。
いっしょに叩いていた私も疲れたし、ちょっと休憩しようと、私はちょっとだけゲームコインを買ってスロットのコーナーに移動した。大人のスロットみたいに換金はできないけど、それだけにコイン排出率は高いのよね。あまりたくさんコインを買わなくても結構長く遊べる。一応、ここにはコインチャージのシステムもあるけど、もうチャージする必要はないんだから。
ダメダメ、しんみりしちゃったら。思いっきり楽しむつもりで来てるのに。私は、
「ここにこれを入れて、このバーを前に引っ張る。
それからこのボタンを順番に押すのよ」
と言って、デビッドにも何枚かコインを渡してスロットを回す。7・7ときてテンション上がったけど、最後は、何かラグビーボールみたいなのだった。
「おしぃっ、後ちょっとだったのに」
「7が揃えばいいのですか」
と言いながら、今度はデビッドがコインを入れる。
「そうそう、ここに書いてあるでしょ、7が揃うと300枚って。でも、そうそう出るもんじゃない……」
それに対して、わたしがそう返事したとき、デビッドのスロットマシンがピカピカと光って、一瞬の間の後、マシンが猛烈な勢いでコインを吐き出し始めた。
「わわっ、な、何が起こってるんですか!」
デビッドが慌てて機械から飛び退く。す、すごい。私もBARを揃えて150枚ってことはあったけど、777なんて初めてだよ。しかも、一枚目でだなんて。
これだけあったら、しばらくどころかずっと遊んでられるよと思ったところで、私はすごく寂しくなった。私はこれを使ってどこまで遊んでも、結局自分の運命を少しだけ後に引き延ばしてるだけなんだなって思ったから。私やっぱ……覚悟を決めなきゃ……いけないよね。
私は、その様子を
「すっげぇ」
と言ったたぶん中坊男子に
「これ、全部あげるわ。でも、こんなとこでサボってないで、ガッコ行った方が良いわよ」
と、いささかオバサンチックな発言と共にコインボックスごと渡して、とっとと店を出た。
「田中様! どうしたんですか!!」
「帰る、もう帰るよ……お願い、デビッド、連れて帰って」
私はそう言って、慌てて追いかけて来た『お迎え天使』にしがみついて泣いた。
一子、やっと決心できました。
物語はクライマックスです。
さて、一子は無事天国にたどり着くのでしょうか。
では、次回。