気付いてくれない
ゴミステーションを離れた私は、とりあえず駅に向かった。制服も生徒手帳も定期もなかったけど、かろうじてスクール鞄と、その中の財布(もちろん中身も)無事だったし。とりあえずお金を出して電車に乗れば学校にはいける。
もしかしたら、学校でも私を知ってる人は一人もいないかもしれないけど、今は他に行くところもないし、する事もない。それにじっとしてたって、マジで鬱な気分で落ち込むしかない。こういう時は考えないで前に進む! それが一番。
駅に着いた私は切符を買って電車に乗った。私の格好は起きたときのまんまのTシャツに短パン。いかにもパジャマって格好じゃなかったのはラッキーだったかもしれないけど、それにコーディネートするのがスクール鞄だというのは何ともアンバランスだ。そんな格好の私を見咎める人は誰もいない。何事もなかったように電車は学校の最寄り駅に着き、私はいつも着慣れた制服の群れの中に混じって学校を目指して歩き出した。
そして、駅を出てすぐのところにに停まっているバスから、一年の時から仲良しのヨッコが降りてきて、
「おーい」
と、私に向かって手を挙げた。やった、ヨッコは私のことを覚えていてくれてるんだ!! やっぱり学校にきて良かったと思ったとたん、私の後ろから、
「ヨッコ!」
と、誰かが走ってきて、ヨッコの腕にまとわりつく。ヨッコの方も、
「みちる、おはよ」
と、嫌がりもせずそのまま歩いていく。
「みちる? じゃぁ、有澤?」
私は、走ってきた子が有澤みちるだと知ってなおビックリした。だって、ヨッコと有澤って、お互いが天敵同士だったはずで、昨日まではお互い口もきいてなかったはず。そう言えば、有澤の顔、今日はなんだか地味なような気がする。ん? そっか、メイクしてないんだ。
そうして私が二人をガン見してたら、有澤がそれに気づいた。
「ねぇヨッコ、あの子知り合い? さっきからあんたを見てるよ」
「知らないよ。みちるの知り合いじゃないの?」
とコソコソした声でのやりとりがあり、顔を見合わせて、
「「ヤダ、気持ち悪~い」」
とハモったあと、チラチラと私を見ながら足早に遠ざかって行った。
その後も、私は学校の門の前で何人もの友達を見送ったが、誰も私を『田中一子』だと認識してくれる子はいなかった。で、なぜ門の前かと言うと、端的に言えば、私は学校の中に入れてもらえなかったのだ。
ここの生徒だと認識してくれる人がいない限り、制服を着ていない私ははっきり言って不審者。中に入ろうとしたら、生活指導の古谷に呼び止められて、放り出された。古谷ってば、一年の時の担任だったのに、何で忘れてんのさ。
やがて、授業が始まるチャイムが鳴って、先生も生徒もまるで潮が引くみたいに教室の中に消えて、私は一人取り残されてしまったのだった。