Hop!
「母親は……西村冴子。
聞いた事が無いな…。」
アキラが呟いた。
車が走りはじめてから30分、今は神奈川県の国道を走っていた。
大まかな説明は終わって、香織は徐々に落ち着きを取り戻していた。
黒岩アキラも幾分か緊張を解いていたが、
頻繁に届くメールをチェックしながら、しきりにやり取りをしていた。
香織は、アキラが先程までの雰囲気とは全く違うことに驚いていた。
完全武装したシルベスター・スタローンが、
突然何処にでも居る街中の人に変身したような、
そんなギャップを香織は感じていた。
若く見えるけど、……
年齢は……お母さんと同じくらいなのかな…?
「あの………。
おじさ……お兄さん。」
香織の言葉に、アキラは苦笑いした。
「15歳の割に、社会勉強してるじゃないか。
まぁ、お兄さん、って年でもないからな。」
香織は少し悩むような仕草をして
「じゃぁ、アキラさん!」
と、思い切ったように言った。
「ああ。それでいいよ。」
アキラが笑って答えると、香織も笑い返してきた。
香織の緊張が徐々に解けているのは、アキラにもわかった。
もともと快活な子なのかもしれないなと、アキラは感じていた。
それにしても……。
あまり時間が経っていないせいか、
アキラと繋がりのある情報屋とのやり取りで、めぼしい情報はまだ入っていなかったが、
とりあえず、アキラはこれまでの事を整理した。
香織の今の状況と、手紙の内容からすると、香織の母親である西村冴子、もしくはその周辺の人物とアキラは何かしら接触をした可能性が高い。
そして、母親の西村冴子についてだが、
事情は分からないが、香織が物心をつく頃には、既に香織は施設に入っていた。
香織と母親は手紙のやり取りを頻繁にしていて、
母親は月に一度は施設を訪ねており、一緒に旅行に行ったこともあったそうだ。
ところが、一ヶ月程前から手紙は来なくなり、母親が現れることもなかった。
そこへ来て、一週間前にこの手紙が届き、俺の所に来たというわけか。
そして、森田雅明だ。
アキラのもとに届いた森田雅明の殺しの依頼。
その森田が、この件と繋がっている。
にわかには信じられない事だった。
見知らぬアドレスの相手とも接触しようと試みたが、向こうからの反応は無かった。
そして、
同封された壱万円札、だ。
真っさらなピン札なのだが、スカシの部分にマジックペンで、
「お守り」
と書かれていた。
本当に「お守り」のつもりで同封したのか、
何かしらのヒントが込められているのか、
今の時点では図りかねた。
とにかく情報が少な過ぎる……。
森田に接触するしかないのか……。
助手席を見ると、
香織がサイドドアに寄り掛かるようにして寝息をたてていた。
時間は午後9時になろうとしていた…。
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