LESSON
「すぐにここを離れる。
そこで待っていろ。」
少女を玄関で待たせ、アキラはリビングへ行くなりテレビのスイッチを入れ、浴室へと向かった。
浴室の天板を外し、配線に紛れていたビニール袋を取り出す。
ビニール袋を破り、取り出したのは拳銃と銃弾。オーストリア製のグロック17だ。
日本の地下市場でもあまり出回らない代物だ。
すぐにリビングへ戻り、テレビを見つめる。
画面には四分割された映像が流れており、
それはマンションの周りに設置された防犯カメラの映像を傍受したものだった。
入口のエントランスに2人、画面で確認できるのは全部で6人。
アキラはテレビと照明を消し、玄関に向かった。
「話は後だ、いくぞ。」
香織は緊張しながらも、静かに頷いた。
ドアを閉めると、エレベーターへ向かう。
エレベーターは一階で止まっている。
アキラはボタンを押した。
エレベーターはこの階まで来た後、誰も乗らなくても自動的に1階まで降りていくはずだ。
エレベーターに背を向け、通路の反対側にある非常扉へ向かう。
アキラはその途中、柱に設置された非常ボタンを押した。
けたたましいベル音がマンション中に響き渡る。
非常扉を開けると階段があり、
10階から地下2階まで一気に駆け降りた。
地下2階に着き、突き当たりの施錠されたドアまで来ると、
アキラは二本の針金のような物を鍵穴に差し込んだ。
香織は息切れしたのか、呼吸は荒く肩を上下にしていたが、アキラは呼吸ひとつ乱れていない。
アキラはものの十数秒で鍵を外し、扉を開けた。
扉の向こうは暗闇で、アキラはすぐ脇の壁にあるスイッチを入れた。
照明がついて、打ちっぱなしのコンクリートの壁の中に巨大なボイラーが姿を現した。
この場所に、マンションの公共メインシステムが集中していた。
そのまましばらく真っすぐ進み、再び突き当たった扉を開き、階段を上る。
ここを上がれば、マンションの別棟側に出られようになっていた。
地下一階の踊り場まで来ると、アキラは立ち止まり外の気配をうかがった。
まだ、マンションの非常ベルの音が響いている。
「少し遅れて上がって来い。」
そう言うと、アキラは音も無く一気に階段を駆け上がった。
外へ出るのと同時に左に曲がる。
予想通り、目の前に背広姿のガタイのいい男がひとり、近くに別の人影はない。
男と正面に向き合う形だが、
先程から鳴り響く非常ベルの音と
突然現れたアキラに男の動きは鈍い。
一気に間合いを詰め、男が腰の銃に手をやるのを見ながら、右にステップし左腕を伸ばす。
腕を首に滑らせて、そのまま男の背後に回り、両腕を使って頸動脈を一気に締め上げる。
男は抵抗する間もなく気を失った。
そのまま男を地面に寝かせ、外に出てきた香織を連れてすぐそばのフェンスを抜けて道路に出る。
裏道を縫うように走り、車の置いてある駐車場に出た。
「さぁて、車の中で詳しく聞かせてもらうぞ。」
この状況に、アキラも少なからず困惑していて、うつむいている香織を問い質すような目を向けた。
と、
先ほどのアドレスからまたメールが届いた。
「………何だと?」
その内容に、アキラの困惑は一層深まってしまった。
その内容とは、
「森田雅明と接触してくれ
森田の情報が彼女と繋がる。」
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