Practice
カズマが自宅のマンションに行くのは久しぶりだった。
自宅とはいっても、名義だけ置いているようなもので、実際にそこで生活しているわけではなく、普段はビジネスホテルやカプセルホテルを利用していた。
カズマのマンションは15階建て2棟が繋がる形になっていて、自宅は10階にあった。
カズマが自宅の前まで行くと、ドアの前に少女がいた。
セーラー服姿にパーカーを羽織り、身体を丸めるようにして座り込んでいた。
眠っている…。
この子なのか…?
少女の肩を揺する。
「おい、起きろ。」
少女の身体がビクッと反応し、突然ドアにへばり付くようにして立ち上がった。
カズマと目が合い、こちらの様子をうかがっている。
「おまえ、誰だ?」
カズマが会話を切り出したが、少女は黙ったままだ。
「ならいい。
面倒な事にかかわるつもりはないからな。
じゃあな。」
そう言うと、カズマは少女に背を向けて歩きはじめた。
「……黒岩……アキラさん…ですか?」
少女のかすかな声が聞こえて、カズマの足が止まった。
……黒岩アキラ。
懐かしい響きだった。
この仕事を本業にしようと決めた時に捨てた名前だった。
定期的に戸籍を購入してそのたびに手に入れる名前は、カズマ……黒岩アキラにとって単なる記号でしかなかった。
忘れていた「自分」が突然、目の前に現れたような気がして、アキラは複雑な感情に襲われていた。
「おまえ、何でその名前を……、」
そこまで言って、アキラは周りの空気が変化するのを感じた。
「おまえ、追われているのか?
……とりあえず中に入れ。」
ドアのカギを開けながら、アキラは少女に促した。
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