Meeting
香織が駅を出た時、日は落ちて午後6時になろうとしていた。
香織は手紙を開き、そこに書かれた住所と地図を頼りに、繁華街の雑踏を避けるように歩きはじめた。
始まりは、この手紙からだった。
香織が暮らす施設にこの手紙が届いたのは、一週間前のことだ。
封筒には香織の名が書いてあったが差出人の名は無く、
その中には手紙が二枚と壱万円札が一枚入っていた。
手紙の一枚には、見知らぬ住所と地図が書かれていて、もう一枚のほうにはこう書かれていた。
「香織、
近いうちに、あなたを訪ねてくる人がいるかもしれない。
その時は、地図に書かれた場所に行きなさい。
黒岩アキラという人がきっと力を貸してくれるから。
同封した一万円札は、あなたのお守りよ。大切にしてね。
……………。
本当にごめんなさい。
お母さん、必ず香織を迎えに行くから、待っていて。」
お母さんは突然わたしの前から姿を消した。
わたしはお母さんに捨てられたの?
そう自問自答していた香織にとって、久しぶりに感じる母親のぬくもりだった。
香織は唇を噛んで、必死に感情をコントロールしようとしたが、それとは裏腹に、どんどんと溢れでる涙を止めることはできなかった。
だが、この手紙が何を意味するのか、この時の香織にはまだわからなかった。
今日までの一週間は何事も無く過ぎたが、
香織が学校から帰ると、
遠くに見える施設に黒塗りのベンツと背広を着た二人が見えた。
遠目ではあったが、あんな車が施設に来るのを見たことがない。
香織の頭に手紙の文章がよぎった。
と、
背広のひとりがこっちを見ているような気がした。
その時にはもう、香織は駅に向かって走り出していた。
誰から逃げているのかもわからず走った。
暗闇の中を走っている感覚に襲われ、倒れそうになる。
しかし、
突然、香織は肩を捕まれた。
「…、おまえは………。」
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