Ready
「藤原さん、今日夜勤だったんだ?」
時間は午後6時を回ったところで、
日勤を終えたカズマが、先程まで一緒に勤務していた藤原に声をかけた。
「急に鈴木くんが休むことになってね。年寄りには夜勤がこたえるよ。」
背中を丸め、疲れきった声で藤原が答えた。
このビルには、派遣会社から5人が警備員として来ていて、カズマもそのひとりだった。
ビルのテナントは15軒分あったが、不況のあおりか、今のところ5軒が空き店舗となっていた。
勤務は5人でローテーションを組む形になっていて、
日勤は基本的に2人体制、藤原と顔を合わす機会も多かった。
休みたければ警備会社に報告しなくても、お互いに調整するぐらいの融通は利いたので、
カズマもあっちの仕事柄、何度か勤務を代わってもらうことがあった。
「それじゃ、お先に失礼します。」
「うん、お疲れ様。」
藤原と挨拶を交わし、カズマはビルを後にした。
カズマは繁華街を歩きながら、森田雅明の件について考えていた。
検査屋からの追加報告がカズマに届いたのだが、
それによると、
カズマのもとに森田の「殺し」の依頼がくる前に、誰かが森田に「脅し」をかけていたようなのだ。
ところが、誰が何の目的でやったのかの情報がほとんど入ってこない。
この状況からすると、森田は相当重要な情報を握っており、森田がその情報で何らかの取り引きを持ち掛けた。
ところが、取り引き相手はそれに応じず、森田の処分を決めた、というところだろう。
「♪♪」
と、その時、カズマのケータイにメールが入った。
「…………!」
カズマの顔が曇った。
見知らぬアドレスなのだが、文章は数字の羅列、カズマが使用している暗号文で送られてきていた。
その内容は
「女性が自宅へ向かっている。
保護して下さい。」
時間は午後7時になろうとしていた……。
■