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ステップ  作者: 鷹橋達也
23/26

MEMORY(2)

部屋に残ったアキラと智子は、高杉に促されてソファーに座った。



「……それにしても、

お前からの贈り物だが、大阪の件を差し引いても釣りが出過ぎるぞ。」


高杉は困惑した顔をアキラに向けてきた。



「そうですか?」





「金融・郵革大臣の香山、

財務大臣の岸部、

国対委員長の杉内、


そして幹事長の三沢。



こいつらは全員、

俺の作った『郵革新法案』に反対してた連中だが、


この一週間で、

揃いも揃って突然賛成にまわると言ってきやがった。


……お前の仕業だろ?」




高杉の問いただすような視線に、アキラは笑って答えた。


「時間が無かったので、少々無理はしましたが、


うまくいったようですね。」




この一週間、アキラは高杉に会うための裏工作をしていた。



アキラは、

高杉が成立を目指している『郵革新法案』の障害になっている人物をピックアップし、


情報屋から彼等を脅せるだけの情報をかき集めた。



そして、その情報を彼等に直接手渡したのだ。




「一応、すでに俺の手元に情報がある人物か、情報を集めやすい人物に的を絞りました。


そうでなかったら、さすがに一週間では無理だったので。」



「なるほどな。」


そこでアキラは苦笑いした。


「あなたと違って、うしろめたい過去を持つ政治家は多いですからね。」




アキラの言葉は、逆に言えば、


高杉を脅せるだけの決定的、かつ致命的な情報を手に入れることは、

アキラや他の情報機関でも難しいということでもある。




アキラは大阪で高杉を銃で脅したが、


実際、その時のアキラは、

次の一手になるような高杉の情報を掴むことはできていなかったのだ。




「俺が秘書をやっていた時の親分も、

同じように情報で脅されたことがあってな。


俺も代議士になってからは、

その辺は気をつけるようにはしてたんだが……。



今思えば、俺は運が良かっただけなのかもな。


親分はいろんなもんを背負わされてたからな……。」




政治家でなかったら、

きっと何処かのヤクザの親分になっていたであろう高杉が、


政治に対して、これだけ清潔に真っ正面から向き合っているという事実に、アキラも正直驚いていた。


「あなたのところに潜入した西村冴子も、大した情報をCIAに上げてはいなかったんでしょう。」



その言葉を聞いた高杉が、苦悶の表情になりながら話しはじめた。



「弓ちゃ…、…冴子くんは大変な事態になっていたんだな…。」



「いつもと同じ様に呼んであげて下さい。」


高杉が、冴子の名前を言うことで記憶を引き出そうとしているのを見て、

アキラはまるでここに冴子がいるように高杉に言った。




「……そうだな。


…俺が弓ちゃんと初めて会ったのは、5年くらい前だったかな。



当時、私設秘書を探してた俺は、同じ派閥の仲間から弓ちゃんを紹介されたんだ。


履歴書なんて見ずに、俺が面接したんだが、



一目見て、思わず『採用だ』って言っちまって、


その日のうちから働いてもらったんだ。


まぁ、他の秘書はびっくりしてたがな。」



それはそうだろう、とアキラは思った。


普通は身辺調査をやって、

その上で問題が無ければ採用するというのが常識の世界で、


面接した日に働き始められたとなっては、

秘書が慌てふためく姿は容易に想像できる。



もちろん、CIAから送り込まれた冴子が、身元がわかるようなヘマをするはずはなく、身辺調査は問題無しだったのだろう。



「俺の独断で採用したようなものだったが、


それが正しかったということは、事務所の人間みんなが知ってるよ。



俺が進めていた法案なんかも、弓ちゃんのお陰で成立したのが沢山あったからな。




美人で頭が切れて、

その上、社交術にも長けていたから、


政財界のパーティーがあると、決まって弓ちゃんに同伴してもらったもんだよ。



パーティー会場でも、弓ちゃんは際立って華があったが、

そんな時でも、

隙を見せず男を寄せつけないオーラみたいなのが弓ちゃんには漂っていたよ。」




そこで智子が口をはさんだ。


「私も何回か高杉さんに同伴させられたことがあったけど、


弓ちゃんがきてからはパッタリ無くなったものね。」



高杉が笑いながら話を続けた。



「智ちゃん、それは言いっこ無しだ。


まぁ、そんな弓ちゃんだったが、それでもアタックする男は沢山いたよ。


だが、政財界の有名人やその御子息にも、弓ちゃんはなびかなかった。


俺の顔をたてるつもりで、何度かデートに行ったこともあったが、

みんな撃沈して帰ったそうだよ。」




そこで、高杉の新たな記憶の引き出しが開かれたのか、

高杉は突然大笑いしながら言った。


「そういうパーティーの時は、弓ちゃんはあんまり食事をとらないんだけどな、


帰りの車の中で、弓ちゃんは決まって『ラーメン食べましょう、高杉さん!』って言うんだよ。



そんでもって、

小汚いラーメン屋にドレス姿とタキシード姿が並んでラーメン食べてるからよ、


その違和感たるや凄いもんがあったよ。」



アイツらしい、とアキラも思わず噴き出してしまった。




「ほんとに面白い女だったからな、


だから尚更、いい男を見つけて幸せになって欲しいと思ったよ。」



高杉のその言葉に、智子がすかさず茶々をいれる。


「どうせ弓ちゃんが男を連れてきても、みっちり身辺調査をやるんでしょ?」



そこで少しムスッとした高杉が言った。


「そんなのは当たり前だろ!

大事な娘のためなんだから。」



すかさず智子が切り込んだ。



「わたしが達也にプロポーズされたことを、ポロッと喋った時なんか、



突然、怒りだして、


『俺に挨拶なしとはどういうことだ!』


って言って、


それで、私の両親に会いに行く前に二人で高杉さんのところに行ったんだけどね。


ガチガチの達也が土下座して、


『僕に娘さんをください。』って言ったら、



高杉さんたら、


『お前に娘はやらん、帰れ!』


なんて言うのよ。


わたし、昔のテレビドラマを見ている感じがしちゃって恥ずかしくて、恥ずかしくて。



そこで、高杉はばつの悪そうな顔になった。


「いやー、あれは俺も悪かったと思ってるよ。



それもひとえに、大事な娘同然のお前や弓ちゃんに幸せになって欲しいと思っていたからだろうが。」



そんな高杉だが、

まさか大事な娘の元彼氏に銃口を突きつけられるとは思わなかっただろう。



昔話に夢中になっていたが、

高杉の顔は次第に苦しそうな表情になっていった。


「……そんな弓ちゃんが、……まさかな。」


そこで一息ついた高杉が再び話しはじめた。






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