企業出資型奨学金制度のススメ 制度仕様編 -制度設計者のメモより-
短編小説となります。よろしくお願いします。
行政は市民の敵ではない。
ただし、それを証明するには、制度が動かなければならない。
奨学金は借金である。
借金をしてまで学ぶ強靭な意思を持っていても、借金はその将来を曇らせ、
あるいは潰してしまうかもしれない負担たり得る。
「貧すれば鈍す」
この慣用句は真実である。どうしようもないほどに。
本制度は、返済不要の奨学金を介して、学生・学校・企業・自治体のいずれにも
Win-Win の関係を成立させ、さらに循環的に継続していくことで、
本当の意味で豊かな社会を構築する仕組みを提示する。
【概要】
本制度は、企業から学校に対して「出資」を行わせ、
学校を通じて対象学生に「返済不要の奨学金」として分配・支給するものである。
企業は出資の見返りとして、対象学生の卒業後の進路に関する交渉権を得る。
ただし、卒業後の進路の最終決定権は学生本人にのみ与えられる。
最終的に対象学生が出資企業のいずれも選択しなかったとしても、
奨学金返却の義務は生じない。
進学や就職は、いずれも社会貢献たり得るためである。
一方、中退者や未就者は本制度から外れるため、返却の義務を負う。
本制度の起動および当面の運用管理は、国の特殊機関「人材用ボンド」が担う。
ただし、制度の成熟後は、自治体や民間による運用管理の可能性も探る。
【仕様】
1.対象となる学生
企業からの出資を主財源として返済不要の奨学金を分配するため、
必然として、企業側にとっての益を有する学生を対象とする。
1)本制度に参画している学校に学籍を有すること。
2)本人に制度への参画意思があること。
奨学金を受ける理由にある背景事情を考慮し、年齢制限は設けず、
保護者の承認も必須としない。
3)本制度と従来の奨学金制度は排他的ではない。
本制度を受けつつ、従来制度の利用も可能とする。
4)この国の国籍を持つこと。
2.企業からの出資
1)出資の単位
出資単位は「口数」とし、学校の学部・学科に対して出資する。
出資金は、対象学部学科へ 70%、学校全体へ 30% の割合で分配し、
ニッチとされる学部学科への補助としても機能させる。
2)出資タイミング
翌年度の対象学生数を決定するため、出資は本年度上期内に行う。
出資口数の追加は随時可能とする。
出資口数の削減は応談とし、返却は補償しない。
3.対象学生の卒業後の進路への交渉権
1)交渉の単位
4年生となったすべての対象学生について交渉を可能とする。
ただし、対象学生が交渉を希望した場合に限る。
交渉回数に上限は設けない。
2)出資口数との関係
出資口数に応じて、企業が卒業後の進路を得られる対象学生数を決定する。
人数に達した時点で交渉権は失われる。
ただし、対象学生が交渉を希望した場合は、人数に関わらず交渉を可能とする。
【組織】
拙速を尊ぶ。
すなわち、何よりも制度を開始させることを優先する。
まずは小さく始めるため、制度開始時の規模を定義する。
問題点は都度解決すればよい。
根付かせることを急げ。
1)Iターン・Vターンによる地方自治体の地域増進を目的とする。
中央都市部では複雑すぎ、制度開始に時間を要するのは明らかである。
2)対象企業は市営病院とする。
現場は優秀な人材を求めており、自治体との連携も図りやすい。
教育環境の充実や習慣化も期待できる規模である。
3)対象学部は医療関係とする。
看護、放射線技師、リハビリ等、人材不足の大きい業務を主とする。
本制度は学生・学校・企業・自治体から成り立つが、
そのパワーバランスは決して均等ではない。
したがって関係者が会する際には必ず、特殊機関「人材用ボンド」が同席する。
これは、制度運用において不適切な関係性が存在しないことを証明するためでもある。
学校総務には本制度専属の人員を配置し、対象学生の権利および心身を守ることを最優先とする。
また本制度の性格上、学校自治の範囲外となる場面も必ず存在する。
犯罪の気配が見受けられた際には、警察などの公的機関へ即時に介入を依頼する。
制度のよりよい継続のため、学校・企業・自治体は透明性の確保に尽力せよ。
【制度】
何よりも、対象学生を守ることを最優先とする。
次点として、学校・企業・自治体の共益を優先する。
これらが上げる益は社会貢献へ直結する。
故に、益を誇ってよい。
前例のない制度であるため、特殊機関「人材用ボンド」には、
制度運用・整備・継続の範囲において、
あらゆる予算・法律・条例・国家権力に優先する権限を与える。
制度運用に対する本気度を示し、行政と関係者との温度差を無くすためである。
企業には具体的なメリットを提示し、
学生・学校・自治体には理念を意識させることが重要である。
・学生
本制度の利用を希望する学生には「覚悟」を求める。
未成年にして自身の将来――学校・学部学科・資格、ひいては就労先となる企業すら――
選択し、決定することを求める。
本制度は、そのような選択をした学生をこそ求め、守り、社会と繋ぐことを目的とする。
いざ来たれ。そして使え。使い倒せ。制度はそのためにある。
・学校
学校総務には本制度専属の人員を配置し、対象学生の権利および心身を守ることを最優先とする。
また、出資企業のイメージを守るため、清廉な透明性を求める。
学校自治を装う犯罪や隠蔽等の行為は一切認めない。
一朝事あれば、警察などの公的機関へ即時の介入を依頼する。
清廉な透明性は良い風土を築き、風土は文化となり、結果として人を呼ぶ。
しかし奢ることなかれ。
・企業
1)税の優遇措置
出資は寄付としての性格も大きいため、出資口数に応じて税の優遇措置を設ける。
2)人事責任者および配属先上長と「人材用ボンド」との面談義務
採用となった学生の状況を追跡し、契約と実情を確認する。
許可制のもと、個人情報を除いた状況・評価の開示・掲示を認める。広めよ。
3)認定マークの交付
厳しい審査を経て出資を認めた企業には、「人材用ボンド」より認定マークを交付する。
開示・掲示を許可する。広めよ。
4)学生採用に対する企業への報酬は無い
本制度は企業と学生、両者合意の上での採用を目的とする。
人身売買の制度ではない。
・自治体
地域増進を目的に、地域企業への積極的な参画要請および橋渡しを期待する。
「人は税収を呼ぶ」ことを常に意識したサービスを期待する。
【罰則】
本制度は福祉ではない。
権利の背後には必ず、義務とルールが存在する。
義務を怠り、ルールから逸脱する行いには、厳罰をもって応える。
学生には返済を。
学校には自治権の剥奪を。
自治体には左遷を。
そして企業には、法律・条例・国家権力のすべてをもって徹底的に。
守るために罰する。
守るべきものを間違えない。
最後に。
組織はいずれ腐敗する。「人材用ボンド」も例外ではない。
綺麗事はもういらない。
読んでいただき、ありがとうございます。




